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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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距離の測り方

夜は深まり、事務所の窓に街灯の光だけが残っていた。


昼間のざわめきは遠く、室内には時計の針の音が規則正しく響いている。


封筒は、まだ机の上にある。


写真は戻した。

それでも、視線だけがそこに残っている気がした。


「処分するか」


タケトシが言う。


ソファに腰掛けたまま、封筒を見ている。


「……まだ、いい」


理由ははっきりしない。


残しておきたいのか。

確かめていたいのか。


境界が曖昧だった。


「相手は、お前の反応を見ている」


「うん」


分かっている。


挑発か、確認か。

あるいは、そのどちらでもない何か。


写真の言葉を思い出す。


――選び方は悪くない。


評価でも、許可でもない。


ただ、距離を測るような響きだった。


どこまで踏み込めば揺れるのか。

どこまで揺らせば戻るのか。


そう試されている気がする。


「気になるか」


タケトシの声は低い。


「……少しだけ」


孤島のときは、試されることなどなかった。


ただ、生きるだけだった。


今は違う。


選べる。


だからこそ、見られる。


立ち上がり、窓辺に寄る。


ガラスに映る自分の顔は、昔より柔らいで見えた。


それが弱さなのか、強さなのか。


まだ分からない。


「次は明後日だ。捕縛任務は続く。接触の可能性もある」


淡々と告げる声が、現実を引き戻す。


その一言に、胸の奥が静かに反応する。


会いに来るのか。

それとも、さらに距離を詰めるだけか。


「……来るなら、逃げない」


言葉は自然に落ちた。


強がりではない。


確認でもない。


ただ、背を向けないという意思。


タケトシは何も言わない。


責めない視線。

急かさない視線。


その温度に、呼吸が整う。


封筒を引き出しにしまう。


捨てない。

けれど、見える場所にも置かない。


それが今の距離だった。


外の風が少し強まる。


街灯の光が揺れる。


見られているかもしれない。


それでも、私は選ぶ。


壊さない。

殺さない。


それだけは、まだ手放していない。


そう思ったとき、胸の奥のざわめきは、わずかに静まった。

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