表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第1章 ここに、いていい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/20

視線の先

 廊下を歩くとき、私はいつも壁側を選ぶ。無意識だった。背中を守れる位置、逃げ道が見える位置。島で覚えた癖だ。


 タケトシは少し前を歩いている。振り返らない。でも歩く速さは合わせてくれている。廊下は明るくて影が少ない。それだけで落ち着かない。島では、影がない場所のほうが危険だった。


 前から人が来る。白い服、押し車、知らない匂い。私は反射で視線を落とした。直接見られていないのに、見られていると分かる。島でもそうだった。狩られる前の感覚。


 すれ違いざま、小さな声がした。


「……あの子?」

「そう。例の……」


 続きを聞く前に足が止まりそうになる。タケトシが少しだけ立ち位置を変え、私とその人たちの間に入った。


「行くぞ」


 短い言葉。命令じゃない。合図だった。私は黙ってついていく。部屋に戻ると息が一気に出た。胸の奥がじんわり痛い。私はここに属していない。その感覚だけが、はっきりしている。


 しばらくしてノックの音がした。身体が固くなる。タケトシが扉を開ける。入ってきたのは白い服の女の人で、手に書類を持っていた。


「様子を見に来ました」


 声は柔らかい。でも距離はある。私はベッドの端に座ったまま動かない。女の人の視線が私の腕、首、足へと移動する。傷を数えている。島で何度も見た視線だ。


「……触りません、怖がらせたくないので」


 その言葉に少しだけ驚いた。怖がらせる、という前提。私は怖がらせる側だったはずなのに。


「ここでは、あなたを危険な存在だとは扱いません」


 扱いません。言葉が胸に引っかかる。信じていいのか分からない。でも嘘とも決めつけられなかった。


「困ったことがあれば、このボタンを押してください」


 女の人は壁の小さな装置を指さした。呼べば誰かが来る。その仕組み自体が島とは違う。女の人は深く踏み込まないまま部屋を出ていった。


 扉が閉まる。静かになる。私はゆっくり息を吐いた。視線、噂、距離。ここにもある。でも島とは違う。誰も私を殺そうとしていない。それだけで胸の奥が少しだけ軽くなる。


 窓の外を見る。人が歩いている。私を見ない人たち。それが少しだけ寂しくて、少しだけ、安心だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ