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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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捕まった側の声

 男は床に押さえつけられたまま、息を整えていた。


 手は後ろで縛られている。

 動けない。


 私は少し離れて立つ。

 近づきすぎると、何かが揺れる。


「……結局、あいつの犬か」


 男が言う。


 視線は、私を射抜いている。


 私は答えない。


「噂は本当だったな」


 男は笑う。


「鬼みたいなやつがいるって」


 胸の奥が、ひりつく。


 鬼。


 その呼び名は、慣れている。


「殺さなかったのは、命令か?」


 低い声。


「それとも、できなかったのか」


 私は目を逸らさない。


 殺せた。


 それは分かっている。


 でも、そうしなかった。


「生かしたまま、だろ?」


 男は吐き捨てる。


「中途半端なんだよ」


 胸の奥が軋む。


 中途半端。


 私は、言葉を持たない。


「追い詰められてるのは俺だけじゃない」


 男が言う。


「お前もだ」


 空気が重くなる。


 私は動かない。


 男は視線をタケトシに移す。


「あいつの命令で動いてる」


 小さく笑う。


「自分で選んでるつもりか?」


 その言葉が残る。


 私は息を吐く。


 選んだ覚えはない。

 断りもしなかった。


 タケトシは何も言わない。


「連れて行く」


 短い言葉。


 それで終わりだ。


 私は男の腕を掴む。


 今度は強くならない。


 立たせる。


 男は抵抗しない。


「鬼は、加減を覚えるのか」


 小さな声。


 私は答えない。


 答えを持っていない。


 廃工場を出る。


 朝の光が、少し強くなっている。


 足取りが、わずかに重い。


 選ばなかったはずなのに、

 身体だけが前に進んでいる。

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