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生かしたまま
呼ばれたのは、夜明け前だった。
空はまだ薄暗い。
冷たい空気が、肺に刺さる。
タケトシが立っている。
「任務がある」
短い言葉だった。
私は、頷く。
「逃げたやつがいる」
元協力者だという。
情報を持っている。
外に出られると困る。
「連れ戻す」
それだけ。
私は、黙って聞く。
「殺すな」
そこで、言葉が止まった。
私は、タケトシを見る。
「生かしたままだ」
静かな声だった。
命令でも、頼みでもない。
条件だ。
胸の奥が、わずかにざらつく。
倒すのとは違う。
止めるのとも、少し違う。
加減がいる。
「できます」
思ったより早く、言葉が出た。
タケトシは、すぐには頷かない。
視線だけが残る。
「加減しろ」
低い声だった。
私は、頷く。
加減。
その重さが、まだ体に馴染まない。
場所は、市街の外れの廃工場。
武器を持っている可能性がある。
「追い詰められてる。逃げ場がない」
タケトシが言う。
逃げ場のない相手は、危ない。
追い込まれたやつは、何をするか分からない。
私にとっても。
夜が、少しずつ明ける。
光が、地面を淡く照らす。
私は、歩き出す。
生かしたまま。
その言葉だけが、胸の奥に残っている。




