選ばなかったほう
次に呼ばれたのは、その日の夕方だった。
今度は、迷わなかった。
足が止まらない。
呼ばれた理由を聞く前に、身体が向きを変えている。
「悪いな、また頼む」
昨日、朝に声をかけてきた男だった。
私は、頷く。
内容は簡単だった。
荷の運搬と、見張りの交代。
危険はない、と言われる。
本当かどうかは、確かめない。
私は、動く。
手を伸ばす。
持ち上げる。
重さは、問題にならない。
周囲の視線が、自然になっている。
驚きも、遠慮もない。
そこにいることが、もう説明を必要としていなかった。
「助かるよ」
誰かが言う。
私は、返事をしない。
言葉がなくても、役目は終わる。
仕事が片づくと、男は軽く息を吐いた。
「やっぱり早いな」
評価だった。
感想でもある。
私は、手についた汚れを払う。
特別なことはしていない。
そう言えば済むはずなのに、口には出なかった。
次の話が、私を中心に進む。
「夜も、頼めるか」
自然な順番みたいに、男が言う。
私は、少しだけ間を置いた。
断れる。
断ってもいい。
誰も怒らないはずだ。
それでも。
「……分かりました」
口が先に動いた。
男は、短く頷く。
それで決まる。
私は、自分の足元を見る。
昨日より、迷いが少ない。
それが、少し怖い。
頼られることは、嫌じゃない。
必要とされるのも、悪くない。
けれど、選んだ覚えがない。
夕暮れの空が、ゆっくり色を変える。
風が、静かに通り抜ける。
呼ばれたから、動く。
動けるから、頼られる。
その流れが、身体に馴染み始めている。
私は、何も言わない。
ただ、そこに立つ。
そういう存在として。




