準備
翌朝、早くに目が覚めた。
外はまだ静かだ。廊下の音もない。いつもより少し早い時間なのに、体は起きていた。
考えないようにしていたはずなのに、考えていた。
部屋を出る。
食堂の前を通り過ぎて、外に出た。空気が冷たい。息を吐くと、白くなる。
建物の裏手に回ると、タケトシがいた。
壁に背を預けて、荷を点検している。私の足音に気づいて、顔を上げた。
「早いな」
それだけ言う。
私は、立ち止まる。
「……行くんですか」
タケトシは、手を止めなかった。
「準備はする」
それは、答えでも命令でもなかった。
私は、近づく。
荷の中身を見る。最低限の装備。多くはない。必要なものだけが入っている。
「一人分じゃないですね」
タケトシは、短く頷いた。
「二人分だ」
それ以上は言わない。
私は、何も聞かなかった。
少し離れたところで、別の人たちが動いている気配がする。声は聞こえない。準備だけが進んでいる。
それは、出発ではなかった。
決まった場合に備えた、準備だった。
タケトシは、荷を持ち上げる。
重そうだった。
私は、反射的に手を伸ばした。
「……半分、持ちます」
タケトシは、私を見た。
一瞬だけ。
「いい」
短く言って、荷を持ち替える。
私が持ちやすい位置に、静かに寄せてきた。
私は、受け取る。
重みが、腕に伝わる。
そのまま、何も言わずに並んで歩き出す。
目的地は、まだ決まっていない。
でも、準備は始まっている。
タケトシは、前を歩く。
私より半歩だけ、前だ。
振り返らない。
でも、置いていかれない距離だった。
私は、その背中を見て歩いた。
言葉は少ない。
それでも。
この人は、最初から私に決断を押しつけるつもりはなかった。
それだけは、分かった。




