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孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第2章 役に立つ力

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口に出された条件

 その日の夕方、廊下で名前を呼ばれた。


 振り向くと、白い服を着た大人が立っている。昨日、話をした人ではない。視線が、私の顔ではなく、少し下に落ちていた。


「少し、時間いい?」


 私は、頷いた。


 並んで廊下を歩く。距離は短いのに、足音がやけに響く。途中ですれ違う人たちは、誰も声をかけてこない。ただ、視線だけが残る。


 小さな部屋に通された。


 机の上に、紙が置かれている。昨日と同じ形式の書類だ。違うのは、最初から開かれていることだった。


 私は、そこで足を止めた。


「確認だけだから」


 大人が言う。


「場所と人数、それから期間。この内容で合ってる?」


 声に出されると、紙の中身が急に重く感じられた。昨日は、ただ見ただけだった。今日は、はっきり言葉になる。


 私は、紙に目を落とす。


 場所。人数。期間。


 昨日と同じだ。


 私は、頷いた。


「じゃあ、明日までに返事がほしい」


 明日。


 その一言が、胸の奥に引っかかる。


 決める場所じゃない、と思っていたはずなのに。時間だけが、先に決まっていく。


 私は、口を開いた。


「……どうして、明日なんですか」


 大人は、少し間を置いてから答えた。


「現場は、待ってくれないから」


 理由は、それだけだった。


 私は、言葉を返せない。


 大人は、紙を指で押さえる。


「行かないなら、それでいい。でも、行くなら準備が必要になる」


 行くか、行かないか。


 その二つが、机の上に置かれる。


 私は、指先を強く握った。


 何も言えない。


「無理はさせない」


 大人が、視線を上げずに言う。


 その言葉が、逆に引っかかった。どこまでが無理で、どこからが無理じゃないのか、私には分からない。


 部屋を出る。


 廊下に戻ると、空気が少し冷たく感じた。


 私は、立ち止まらない。


 逃げるためじゃない。


 戻る場所が、そこにあるからだ。


 自分の部屋の前で、手が止まる。


 中に入れば、また考える。


 入らなくても、明日は来る。


 私は、息を吸った。


 一度触れてしまったものは、もう消えない。


 だから、決めないままではいられなかった。

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