見つけてしまう
森の奥は、音が少なかった。
葉擦れの音も、風の通りも、さっきより遠い。私は、足を止めて周囲を見た。
痕跡は、はっきりしている。
枝が不自然に折れている。土が掘り返されている。人が、慌てて通った跡だ。
私は、しゃがみ込む。
指で土を触る。まだ湿っている。時間は、あまり経っていない。
「近い」
声が、自然に出た。
後ろで、大人たちが足を止める気配がする。誰も、前には出てこない。
私は、立ち上がった。
進む方向が、はっきりする。感覚が、一本の線になる。
獣は、まだ出てきていない。
でも、眠ってもいない。
私は、呼吸を整える。
視界の端に、布切れが見えた。
落ち葉に引っかかっている。小さな、色の薄い布だ。
私は、拾い上げた。
子どもの服だった。
胸の奥が、きゅっと縮む。
怖がって、走った。転んで、立ち上がった。そういう動きが、ここまで伝わってくる。
私は、布を握りしめる。
「……こっち」
振り返らずに言った。
後ろで、息を飲む音がした。
私は、歩き出す。
もう、分かっている。
見つけてしまった。
戻れない場所に、足を踏み入れている。
役に立つという感覚が、はっきりと形になる。逃げ場がないほど、くっきりと。
それでも、私は止まらなかった。
この先にいるのが、子どもだと分かっているから。




