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孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第2章 役に立つ力

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境界へ向かう

 森は、思ったより近かった。


 建物の外に出ると、空気の匂いが変わる。湿った土と、折れた葉のにおい。私は、足元を見て歩いた。


 同行する大人は、二人。距離は、少しだけ空けられている。前を行く背中と、後ろの気配。挟まれている感じはしない。でも、自由でもない。


 道は、すぐに細くなる。


 踏み固められていない地面。人があまり入らない場所だと、分かる。


「この先だ」


 前を行く大人が言う。


 私は、頷いた。


 視線を上げる。木々の間に、わずかな乱れが見える。枝の折れ方。踏み跡。新しい。


 胸の奥が、少しだけ冷える。


 獣は、動いていない。


 それでも、感覚は冴えていく。音が遠くまで届く。風の流れが、肌に残る。


 私は、歩く速度を落とした。


 大人たちも、それに合わせる。


 気づかれている。


 気づかれて、何も言われない。


 それが、少し重い。


 足跡が、途切れる。


 私は、その場で止まった。


 視線を巡らせる。右。左。下。上。


 かすかな匂い。


 人のものだ。恐怖が混じっている。


 私は、指先を握る。


 力を使うほどじゃない。


 でも、使わなければ、分からない。


 私は、一歩、森の奥へ踏み出した。


「……ここから」


 声が出た。


 大人が、息を詰めるのが分かる。


 私は、振り返らない。


 進む。


 境界を越える感覚が、足裏に伝わる。


 守られていた場所と、そうでない場所。


 その間。


 私は、そこに立っている。


 役に立つ感覚が、背中に張りつく。


 それを、振り払わずに歩いた。

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