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孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第2章 役に立つ力

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頼まれる側

 その日は、外が騒がしかった。


 廊下を行き交う足音が多い。声も、少しだけ大きい。私は、部屋の隅に座ったまま、その気配を聞いていた。


 積み木は、今日は出ていない。


 代わりに、大人たちが集まっている。


 扉の向こうで、低い声が重なる。


「……見つかった?」


「まだだ」


「時間がかかりすぎてる」


 言葉の端々が、落ちてくる。私は、拾わないようにしていた。関係ない。そう決めていた。


 でも。


 名前が出た。


「ミリアは?」


 一瞬、音が途切れる。


 私は、息を止めた。


「……あの子を?」


 別の声。迷いが混じっている。


「他に手がない」


 その一言で、空気が変わったのが分かった。


 私は、膝の上で指を握る。


 呼ばれる。


 まだ、呼ばれてはいない。


 タケトシが、部屋に入ってきた。表情は変わらない。でも、目だけが少し硬い。


「話がある」


 命令じゃない。でも、断れない言い方だった。


 私は、立ち上がる。


 廊下を歩く。さっきより、音が遠い。視線が、背中に集まる。触れない。近づかない。でも、確かに見られている。


 小さな部屋に入る。


 地図が、机の上に広げられている。赤い印。消えかけた線。


「子どもが、いなくなった」


 短い説明。


「森の方に入った可能性が高い」


 私は、何も言わない。


 探す。見つける。それだけなら、難しくない。


 でも。


「暗くなる前に、手がかりが欲しい」


 欲しい。


 その言葉が、胸に残る。


「お前なら、気配が分かる」


 断定だった。期待だった。


 私は、視線を落とす。


 役に立つ。


 その言葉は、まだ誰も口にしていない。でも、意味は伝わってくる。


 私は、ゆっくり息を吐いた。


「……いく」


 声は、小さい。


 でも、逃げなかった。


 部屋を出ると、廊下の空気が冷たく感じた。


 私は、足を止めない。


 守られている側から。


 頼まれる側へ。


 気づかないふりは、もうできなかった。

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