頼まれる側
その日は、外が騒がしかった。
廊下を行き交う足音が多い。声も、少しだけ大きい。私は、部屋の隅に座ったまま、その気配を聞いていた。
積み木は、今日は出ていない。
代わりに、大人たちが集まっている。
扉の向こうで、低い声が重なる。
「……見つかった?」
「まだだ」
「時間がかかりすぎてる」
言葉の端々が、落ちてくる。私は、拾わないようにしていた。関係ない。そう決めていた。
でも。
名前が出た。
「ミリアは?」
一瞬、音が途切れる。
私は、息を止めた。
「……あの子を?」
別の声。迷いが混じっている。
「他に手がない」
その一言で、空気が変わったのが分かった。
私は、膝の上で指を握る。
呼ばれる。
まだ、呼ばれてはいない。
タケトシが、部屋に入ってきた。表情は変わらない。でも、目だけが少し硬い。
「話がある」
命令じゃない。でも、断れない言い方だった。
私は、立ち上がる。
廊下を歩く。さっきより、音が遠い。視線が、背中に集まる。触れない。近づかない。でも、確かに見られている。
小さな部屋に入る。
地図が、机の上に広げられている。赤い印。消えかけた線。
「子どもが、いなくなった」
短い説明。
「森の方に入った可能性が高い」
私は、何も言わない。
探す。見つける。それだけなら、難しくない。
でも。
「暗くなる前に、手がかりが欲しい」
欲しい。
その言葉が、胸に残る。
「お前なら、気配が分かる」
断定だった。期待だった。
私は、視線を落とす。
役に立つ。
その言葉は、まだ誰も口にしていない。でも、意味は伝わってくる。
私は、ゆっくり息を吐いた。
「……いく」
声は、小さい。
でも、逃げなかった。
部屋を出ると、廊下の空気が冷たく感じた。
私は、足を止めない。
守られている側から。
頼まれる側へ。
気づかないふりは、もうできなかった。




