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孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第1章 ここに、いていい

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やさしい噂

 積み木の部屋は、いつもより少し騒がしかった。


 人が増えている。知らない顔も混ざっている。子どもたちは床に座り、積み木を囲んで話している。私は、入口の近くに腰を下ろした。逃げ道が見える位置だ。


「ねえ、きいた?」


 ひそひそ声。小さいけれど、よく通る。


「ミリアのこと」


 名前が出た瞬間、胸の奥がきゅっと鳴る。私は、手を止めた。顔は上げない。


「つよいんだって」


「おに、みたいなんでしょ」


 言い方は軽い。重さを知らない音だった。


 私は、息をひとつ吐く。さっきまで積んでいた積み木が、少し傾いた。


「でもね」


 別の声が入る。


「こわくないよ」


 私は、指先を止めた。


「だって、あのひと」


 あのひと。


 私は、初めてそう呼ばれた。


「ちゃんと、まってくれる」


 待つ。攻めない。奪わない。


 島では、そんな言葉はなかった。


「ミリアは、やさしいよ」


 断定だった。理由は語られない。


 胸の奥が、ざわっとする。怖さと、くすぐったさが混ざる。私は、どう反応していいか分からず、視線を落としたまま、積み木を置いた。


 積み木は、倒れなかった。


 子どもたちが、また話し始める。


「きず、いっぱいだよね」


「たたかってたのかな」


 想像が、勝手に膨らんでいく。物語みたいに、形を変える。


 私は、口を開かない。


 説明しない。否定もしない。


 その選択が、少しだけ自然に思えた。


 部屋の外で、足音が止まる。


 タケトシが、扉の外から様子を見ている。目が合う。何も言わない。私も、何も言わない。


 子どもが、私を見る。


「ミリア」


 名前。


「これ、つぎ、やって」


 積み木を渡される。


 私は、受け取った。軽い。角が丸い。


 噂は、勝手に広がる。


 でも、いま目の前にあるのは、積み木と、待っている視線だけだ。


 私は、そっと置いた。


 倒れない。


 誰も、何も言わない。


 その静けさが、少しだけ、好きだった。

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