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11. 王妃陛下の嫌がらせ

 実はクリストファー殿下と結婚して以降、私を大きく悩ませているのが、この王妃陛下の辛辣な態度だった。

 ジョゼフ王太子殿下とルミロ第二王子殿下の母君であられる、ユーディア王妃陛下。彼女は元々とても厳しい方ではあった。私がジョゼフ王太子殿下の婚約者だった頃から、突然呼び出されて淑女教育のテストをされたり、王太子妃教育の進み具合を定期的にチェックされたりしていたけれど、そのたびに毎回必ずきつく叱責されるので、緊張で胃が痛くなるほどだった。

 けれど、厳しいだけだった。その頃は。

 

(……私がジョゼフ王太子殿下から婚約を破棄されたことが、よほど気に入らないんだわ……)


 王妃陛下の私室に向かいながら、私は思わずため息をついた。背後からラーラの気遣わしげな声がする。


「……フローリア様、大丈夫でございますか?」

「……ええ、大丈夫よ。ありがとう、ラーラ」


 少し振り返ってラーラに笑顔を見せつつも、廊下を歩く足取りは重い。クリストファー殿下との結婚後真っ先に王妃陛下に言われたのは、「これまで厳しく躾け、知識とマナーを叩き込んできてやったのに、お前がジョゼフから捨てられたせいで注いだ労力の全てが無駄になった」という内容の恨み言だった。腑に落ちないところはあるにせよ、相手は王妃陛下。その時は丁重に謝罪の言葉を繰り返した。

 けれど、ジョゼフ殿下は今や、王太子としての地位も危ういと皆に思われている。

 私のせいで、大切なご子息がその座を追われそうになっている。……きっとそうお考えなのだろう。ユーディア王妃陛下の私への態度は、だんだんと辛辣さを増していた。


 最初は、お茶会に招かれなかった。

 次は招かれた時間に行ってみると、すでに茶会は終わっていた。

 その次は、ちゃんと茶会は開催されていたけれど、なぜか私の席は末席だった。

 さらには、「第三王子妃はドレスもアクセサリーもとにかく趣味が悪い」「ジョゼフに捨てられるやいなや第三王子を籠絡するだなんて、殿方を誑かすのが上手すぎて恐ろしい」「前から第三王子に懸想して言い寄っていたんじゃないか」「これみよがしに慈善事業にばかり力を入れて善人ぶっている。性格悪いくせに」……などなど、ご自分の取り巻きのご婦人やご令嬢方に、これでもかと私の悪口を吹き込んでもいるらしい。これらは数人の侍女が教えてくれた。


(辛辣というか……、もはやただの嫌がらせよね……)


 王家に嫁ぐ女として精神的にも鍛えてもらったし、私の教育のために時間を割いていただいたのは事実だ。その上ジョゼフ殿下から婚約を破棄されたのも事実。そして私は彼女に逆らえる立場でもない。

 そう自分に言い聞かせ、今日は何を言われるのだろうと戦々恐々としながら、私は王妃陛下の私室を目指した。




「……ようやくいらしたの。待ちくたびれて、もうお呼びしたことさえ忘れていたわ」


 案内され私室に入るやいなや、ユーディア王妃陛下は私を鋭い視線で睨みつけ、そう宣った。……相変わらず、圧倒されるほどに華やかで、そして思わず身震いしてしまうような冷徹な美貌の持ち主だ。

 艶やかに流れる美しい銀色の長い髪に、燃え上がる炎のような真っ赤な瞳。それなのに、その視線は凍てつくほどの冷たさだ。豊満な胸の谷間をくっきりと強調する妖艶な深紅のドレスは、彼女の凹凸のある体のラインを美しく際立たせている。


「お待たせしてしまい申し訳ございません、ユーディア王妃陛下」


 感情を押し殺し静かに謝罪すると、ユーディア王妃陛下は豪奢なソファーに優雅に腰かけたまま、部屋の隅に積まれている古びた本の山を指さした。


「あれ、全部あなたに差し上げるわ。持っていってちょうだい」

「……は……」

 

(……え? あれを、全部……?)


 重たそうな分厚い本が、ざっと見ても三十冊はある。ここにはラーラと、護衛を一人しか連れてきていない。最近は呼びつけられても大した用事はなく、いくつか嫌味を言われて戻るだけだったから、今日もそんな感じだろうと思っていたのだ。


「淑女教育の入門書やマナーブックよ。あなた、もう一度一からしっかりお勉強なさった方がいいかと思って。ほら、ジョゼフに捨てられたように、またクリストファー殿下にまで見限られたら大変でしょう? お持ちになって、お部屋でじっくりご覧なさいな」

「……ありがたく頂戴いたします、王妃陛下」

 

 どうやら今日は物理的な嫌味攻撃だったらしい。さすがに護衛とラーラの二人だけで一度に運ぶのは無理だろう。私は丁寧にそのことを伝えようとした。







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