第一話 光と闇
この世には、誰もが口に出さぬ闇が確かに存在する。
日常の喧騒の中、私たちはスポットライトを浴びる輝かしい部分ばかりに目を奪われ、陰で繰り広げられる苦悩や犠牲、そして隠蔽された真実には決して触れようとしない。
誰もが知りながら見て見ぬふりをし、輝かしい外見の裏側に潜む惨劇に目を向けない。
便利な自動車は、我々の移動を豊かにする一方で、その金属の輝きの裏に、無数の凄惨な交通事故と失われた命が潜んでいる。
安定した食料供給の裏側では、私たちが誇らしげに口にする料理のために、数え切れないほどの家畜が無惨にも屠殺され、命が散っている現実がある。
そして、美味なる料理を堪能すれば、その分だけ膨大な排泄物が生み出され、我々はその存在を隠すように日常を過ごしている。
多くの富を持つものが増えている反面、正当な対価を得られない多くの労働者が増加している。
メディアやSNSは、常に希望に満ちた表面だけを映し出す。
明るく輝く成功者の笑顔、華やかな舞台裏のストーリー――
それらはあたかも現実が完璧であるかのような錯覚を与える。
しかし、実際には、表向きの栄光と引き換えに、多くの人々が縁の下で静かに苦しみ、犠牲となっている。誰もがその裏側の惨状を知りながら、心の奥底では「知らないふり」をすることを正当化し、虚飾に満ちた世界を保ち続けているのだ。
人は表向きの光に惑わされ、真実を隠蔽することを当然のごとく受け入れている。
だがその裏には、忘れ去られた苦しみ、犠牲、そして何ものにも代えがたい悲劇が横たわっている。
今日我々が享受するすべての豊かさは、その裏側で生み出された代償であり、その真実を見つめ直すことは決して容易な作業ではない。
しかし、やがて、誰もがその隠された現実に目を向けざるを得なくなる時が訪れるだろう。
――この世の光と闇、その二面性の調和は今バランスを崩し、より強い光と深い闇に覆われている。
いつの日か、誰かによってこの異様なバランスは崩されるであろう。
この物語は深い影の中でひっそりと苦しみ、無力さに押しつぶされ続けた一人の男が、己の運命を変えるべく、静かにその第一歩を踏み出す物語である。
