第6話
村に戻ると、ディルナもすでに帰ってきていた。彼女の浮かない顔を見れば、結果は聞くまでもない。だが、私が袋から白露花を取り出すと、彼女の顔には再び生気が戻った。
それから族長が薬を作ってくれるのを待つ間、ディルナが事の顛末を語り始めた。毒に倒れたのはある議員で、普段からディルナを助けてくれていた人らしい。そして毒を盛ったと疑われているのは、彼女の友人カスティーナだという。
「カスティーナが毒を盛るなんて、そんなことあり得ない!財産目当てだなんて、誰が信じるものか!私たちがそんな真似をするはずがない!」
「じゃあ、どうして彼女が疑われたの?」
「彼女が貧民の出だという理由だけだ。」
「それだけ?」
「『それだけ』とは何よ!」
「証拠はないの?」
「他の議員が彼女を告発した。それだけで十分だと言わんばかりに、誰も反論しようとしない。唯一、彼女を庇える議員は、毒に伏して死の淵にある……。」
「だから一刻も早く助ける必要があるんだ?」
「ああ。」
「あとどのくらい時間が残ってるの?」
「毒に倒れて五日で命が尽きる。ここへ来るだけで、すでに二日以上を費やしてしまった。」
「つまり、残り二日?」
「その通りだ。」
「でも、ここからサドゥヤ市までは二日もかかるじゃないか!」アマラが横から口を挟んだその言葉に、私は驚きのあまり声を上げた。
「そんなに遠いの?」
「うん。」「実はそうでもないわ。」
ディルナとアマラが同時に答え、私は彼女たちを交互に見つめる。アマラに連れられ隣の部屋に行くと、そこには一枚の地図がかかっていた。
「ここが私たちの村のある場所よ。私たちは移住を繰り返すから、あくまでおおよその位置だけどね。」アマラが指差したのは、山脈に囲まれた広大な森林盆地だった。
「それから、ここがサドゥヤ市。村から北東に位置しているけれど、見ての通り、森や山脈、そして断崖を越えなければならない。だからまず北へ向かい、渓谷を通り抜けてから、川沿いに東南へ下っていくことになるの。」
サドゥヤ市は確かに北東にあるが、実際はさらに東寄り、山脈の東端に位置する港町で、切り立った崖に囲まれた海沿いの都市だ。
「この道を通って、二日以上かけたってわけ?」私はディルナを見つめると、彼女は黙って俯いた。なるほど、暗殺者に阻まれたのだな。焦りのあまり、私をここに呼んだというわけか。
それからしばらくして、ついに薬が完成した。ディルナは感謝の言葉を告げると、そのまま村の出口へと走り出した。私は彼女を呼び止める。
「アマラが言ってた山、そんなに高いの?」
「まさか、山を越えるつもりか?あそこは危険だぞ。」
「だから聞いてるんだって。どれくらい高いの?」
「高い。しかもほとんどが絶壁で、とても登れるような代物ではない。」
「でも、帰り道にもまた暗殺者が現れると思うんだけど。」
ディルナの顔が陰り、彼女もまた障害があることを理解しているのだろう。それでも彼女の表情には揺るぎない決意が浮かんでいる。
「そんな真剣な顔しないでよ。魔法で飛べばいいんじゃない? あなた、魔法が使えるんでしょ?」
「馬鹿を言うな、飛行魔法などあるものか!」
「え、そうなの?」私はあまりの驚きに声を上げ、ディルナまで怯んだ。
「まさか、そなたの国では……」私は慌てて彼女の口を塞ぎ、「行こう」とだけ言って強引に東北へと進んだ。
途中ほとんど休むことなく進み、ようやく山の麓に着いたのは一日後のことだった。道中は野宿し、交代で見張りをする。そして食事はディルナが持ってきた干し肉やパンでどうにか凌いだ。彼女が持っていたのは自分の分だけだが、少しずつ分け合えば一、二日程度は問題ない。