第4話
少し歩いていると、景色を眺めていた私に、ディルナがふいに問いかけてきた。
「お前、なかなかやるな。あの一撃を避けた奴なんて見たことがないよ。」
「その……火の玉って、魔法なの?」私は気になっていたことを率直に尋ねた。
「そうさ。私が最も得意とする魔法の一つだよ。たいていの者は、戦闘中に私の剣ばかりに気を取られて、もう一方の手で魔法を繰り出すことに気づきもしない。お前みたいにそれに気づいて、なおかつ音もなく私の背後に回り込むなんて、見上げたものだ。」
「は、ははは……それは……」
さすがに口が裂けても言えない。あれは私の瞬間移動能力で、危険が迫ると自動で発動するものだ。それも、普段の瞬間移動よりもずっと高性能だ。ただ、何をもって「危険」と判断するのか、その発動条件については未だによく分からない。ところで、超能力って魔法の一種に含まれるのだろうか?
「それより、今どこに向かってるの?」
「グランビア族の村だ。彼らの族長に会いに行く。」
ディルナの表情が急に真剣になったので、私は思わず尋ねた。
「何かあったの?」
「ああ。族長から手に入れたい物があるんだ。」
「グランビア族って、森の中に住んでる人たちのこと?」私は先ほど樹上から見た景色を思い出し、私たちが建物のある方向へ向かっていることに気づいた。
「その通りだ。グランビア族は森に根ざした民族で、森の精霊を信仰している。森の流れに逆らわず、その恩恵に感謝しながら暮らしている。」
都会育ちの私には、どうにもイメージが湧かない生活だ。
「少し速度を上げるが、ついて来られるか?」
「うん、大丈夫だよ。」
するとディルナはペースを上げ、本格的に走り出した。私は超能力を使い、全力で走らなければついていけない。
ディルナはさすが女騎士というべきか、漫画でよく見る颯爽とした姿そのものだった。特に、布と革製のアンダーウェアに金属の鎧を重ねた装いは、硬質さと柔軟さが入り混じり、彼女の凛々しさを際立たせている。
1時間ほど走ったところで、ようやく建物が見えてきた。グランビア族の村は森の中に必要最小限の土地を切り開いて建てられており、すべての木を切り倒すことはせず、建築に邪魔な木だけを取り除いたようだ。そのため、村はまるで森の一部のように調和している。
村の家々はほぼ同じ形をしており、地面から1メートルほど高く、木材で作られた円形の小屋が並んでいた。屋根も円錐形で、後から村人に聞いた話では、円形が自然に調和する形とされており、森の精霊を象徴する紋様も円形なのだという。
「お二人は、どのようなご用件で?」
長槍を持った青年が近づいてきて尋ねた。村には囲いがなく、一部に1メートルほどの柵があるだけだったので、私たちが村に入るまで彼らは気づかなかったようだ。
「私はサドゥヤ市騎士団のディルナだ。族長にお目通り願いたい。」
「分かりました。どうぞこちらへ。」
青年に案内されながら歩いていくと、村の中心に、ほかの小屋よりも大きな建物が見えてきた。あれが族長の住居なのだろう。