第2話
今回感知したのは男性の声だったが、転移する前に聞いた女性の声ではなかった。でも、それは問題ではない。困っている人がいて、しかも距離が近いのなら助けに行くべきだ。私はすぐに駆け出し、ほどなくして林道らしき場所にたどり着いた。
それは森の中に無理やり切り開かれた、道路と呼べるかどうか微妙な道だった。木々の間隔が広がり、他の場所とは違って地面にはかすかに車輪の跡が見える。だが、アスファルトで舗装されているわけでも、ガードレールのようなものがあるわけでもない。
そしてその道端では、一人の少女が長剣を構え、倒れた男性に向けて鋭く突きつけていた。少女は驚くほど美しかった。同性である私でさえ見とれるほどの美貌で、陽光に輝く金髪がまばゆい。一見アンバランスに思える鎧も、彼女が身に着けると不思議と似合っている。一方、地面に倒れた男性は傷だらけの体を引きずりながら後退し、ついには背中が木にぶつかって動けなくなっていた。
少女の顔は驚くほど無表情で、微塵の感情も見せない。その冷徹さに、このまま剣を振り下ろすのではないかと直感した瞬間、私は咄嗟に動いていた。彼女の剣はわずかな差で男性の頭を逸れ、地面に突き刺さる。
少女は首をかしげ、疑問の目で私を見た。そしてすぐに男性を足で蹴飛ばし、何も言わずに剣を振り上げて私に襲いかかってきた。
「ちょ、ちょっと待って!」
だが、彼女の動きは本気だった。私は急いで身をかわした。剣の動きは速い。しかし、私も負けてはいない。子どもの頃、祖父に習った洪拳の基本が体に染みついているし、超能力を得てからは幾度となく火事場や強盗現場で危機に対応してきた。その経験が反射神経を研ぎ澄ませ、恐怖も抑えてくれる。
だが、剣の刃が放つ鋭い白光を目にしたとき、本物だと確信した。これは映画の小道具やテーマパークのコスプレではない。もし触れたら命を失う——そう思うと、慎重にならざるを得なかった。
少女の横薙ぎの一撃をかわしながら跳び上がった瞬間、彼女は隠していた左手を持ち上げる。その手には既に炎がまとわりつき、火球となって私めがけて放たれた。
瞬きする間もなく火球は目の前に迫る。空中にいる私にそれを避ける術はなかった——だが、予想に反して火球は私に当たらず、そのまま後方の木々を焼き尽くした。
その隙に私は少女の背後へと回り込み、彼女が驚いて動きが鈍った一瞬を逃さず、強烈な一撃で地面に叩き伏せた。
「くっ…殺せ!」
少女のその叫びに、今度は私が驚いた。彼女の声が、私を呼び寄せたあの助けを求める声と同じだったからだ。
「早く終わらせろ!私は堂々たるサドゥヤの騎士だ。この私が尊厳を傷つけられるなど、耐えられるわけがない!」
「ちょ、ちょっと待てって!なんで開口一番で死ぬ話になるの!?この時代に死ななきゃならない理由なんてないでしょ!」
「貴様、私を侮辱する気か!」
「いやいやいや、そんなつもりじゃないって。たださ、私はさっき来たばっかりで、何も分かってないだけなんだよ。でさ、一つ聞いてもいい?ここってどこ?」
「もう聞いているではないか。私に許しを請う必要などないだろう。」
「いや、礼儀として聞いてるだけだけどさ。」
「暗殺者が礼儀だと?笑わせるな!」
「暗殺者?何のこと?」
「貴様、あの者たちの仲間ではないのか?」
「あいつらって誰のこと?」
そのとき、ようやく気づいた。さっきまでそこにいた男性の姿が消えている。そして周囲には、あの男性と同じ装束をまとった黒ずくめの屍体が五体以上転がっていたのだ。
「こ、こいつら……みんな死んでる……!」