第1話
「おお……!わああああああああああ———————!」
目の前に迫る茂みを見て、私は思わず自分の体を抱きしめてバレーボールのように丸まり、目をぎゅっと閉じてこれから来る衝撃に備えた。
木のてっぺんに突っ込んで、葉っぱや枝をバリバリと突き抜け、ついに地面に叩きつけられた。茂みのおかげで衝撃が少し和らいだけど、もし地面に直接落ちてたら、骨までバラバラになってたかもしれない。とはいえ、全身枝で傷だらけだし、セーラー服のスカートもビリビリに裂けちゃった。
これじゃあまた母さんに怒られるのは確定だ。毎回そうなんだから。しかも、自分で縫えって監視までされるんだよね。新しいの買えば安いのにさ。「女の子は裁縫くらいできないとダメ」とか言ってくるけど、本当にウザい。別に裁縫ができないわけじゃないよ。学校で教わったし。でも、それが自分でやらなきゃいけない理由にはならないでしょ。学校で木工も習ったけど、自分で本棚なんて作らないもん。
周りを見回してみても、視界にあるのは木の幹と茂みだけで、他には何もない……。木の上に行ったら、少しはマシになるかな?そんなことを考えながら、私はそのまま木の梢まで飛び上がった。やっぱりここからの景色はいいね。一面広がる森が、なんだか心を解き放ってくれる感じ。でも、そんなこと言ってる場合じゃない!こんなところに何もないのは確かだし、私、どこに飛んできちゃったんだろう。もしかして郊外の公園?
――ああ、ダメだ……。
転移する前、誰かの助けを求める声が聞こえた。その声には痛みと無力感が込められていて、その人がどんなに大変な目に遭っているのかが伝わってきた。もう一度感覚を研ぎ澄ましてみたけど、何も感じられない……。ただ、遠くで煙が上がっているのが見える。あそこに誰かいるのかも。何か手がかりがあるかもしれない。
私は地面に降り立ち、思わず自嘲気味に笑った。慣れって怖いよね。3年前の私だったら、こんなこと信じられなかっただろう。初めて誰かの助けを求める声を聞いたときのことを思い出す。その時、私はクラスメイトとバレーボールをしていて、不意打ちでスパイクを顔面に受けて、痛みに顔を押さえて倒れこんだんだ。
その後、声を頼りに探してみると、火事の現場に取り残された子供を見つけて助けることができた。あの火事は凄まじくて、消防隊も間に合わなかった。私はたまたまその現場に転移して、ギリギリのタイミングでその子を連れ出すことができたんだ。
その子の母親が涙を浮かべて笑っていた顔を見たら、それだけで全てが報われた気がした。そして、そのとき初めて、自分に超能力があることに気づいた。
14歳のときに能力に目覚めたのはまだ良かった。もし生まれつき使えてたら、コントロールできなくて、漫画や小説みたいに怪物扱いされたり、研究材料にされちゃったりしてたかもしれない。危ない、危ない……。
私はこの力を隠して、普通の女の子として生活しようと決めた。ヒーローになるつもりなんてない。だって、自分がそんな大きな力を持ってるとは思えないから。だから、誰かを助けるのもたまたま感応して、自分でどうにかできそうなときだけ。
私の超能力は、よくある漫画のやつみたいなもの。テレパシーとか、瞬間移動とか、念力とか、浮遊とか、身体能力の強化とか。けど、そんなに強くはない……と思う。だって、他の超能力者を見たことないから基準がわからないんだもん。
でも、少なくとも「超電磁砲」を打てるわけでもないし、読心術も使えないし、透視能力もない(人体の骨まで見えるとか、想像するだけで怖いよね)。例えば瞬間移動だって、距離が大して長くない。上野から秋葉原に移動することすら無理だよ(飛んでいくのはできるけど、それじゃ目立ちすぎるし、下手したらUFO扱いされてミサイルで撃ち落とされちゃうかも)。
それに、危険を察知して自動で発動する転移だって、今回みたいに郊外にポンっと飛んじゃうのは前代未聞だ。
まあ、いいや。自分の能力なんてまだわからないことだらけなんだし。今回の危機が特別大きかったせいかもしれないし、それに加えて誰かの呼びかけがあったから?
――違う……死にたくない……でも……。
また感応できた!死ぬ?どういうこと?一体何が起きてるんだ!?