「セカンドパートナーは浮気じゃないからw」と浮気された大学生の俺、男友達に慰めてもらったら、実は女だと判明し付き合うことに~元カノもセカパ扱いされてたと今更気づいて土下座してももう遅いです
連載候補の短編です。
俺の名前は大町 虎太郎。
神奈川県藤沢市にあるN大 獣医学科に通う、大学二年生だ。
俺には大学1年の夏から付き合ってるカノジョ、【木曽川 またゆ】がいる。
俺もまたゆも、アニメ研究会に所属してる。サークル活動を通して仲良くなり、夏休み明けから付き合いだした……のだが。
「またゆ……どういうことだよ!」
俺は今、藤沢のラブホテルの前に居た。
藤沢のアニメイトで買い物して、帰ろうとしたとき、またゆがラブホから男と出てきたのである……。
「えー? どういうこと、こたろーくん? なに怒ってるのぉ?」
しかしまたゆのやつ……浮気してたっていうのに、全然悪びれてる様子もない。
な、なんだ……? どういうことはこっちの方だよ……!
「またゆ! おまえ俺と付き合ってるのに! 他の男とどうしてラブホなんていくんだよ! 浮気だろそれ!」
するとまたゆは、こんなこと言ってきた。
「違うよぉ。彼は、またゆのセカンドパートナーだよぉ~」
「は? せ、セカンド……なんだって?」
「セカンドパートナー。もー、こたろーくん知らないの~? こないだ、YouTuberのセカパ問題で、大炎上してたじゃーん」
セカンドパートナー?
聞いたことねえ……なんだそれは?
「簡単にいうとぉ、恋人とか旦那とかとはー別のー、親しい異性のパートナーってことだよぉ」
え、え?
恋人とか旦那とかとは別の、異性の……パートナー?
それって……付き合ってたり、結婚してたりするのに、付き合ってる、異性ってことじゃん……。
「浮気じゃん!」
「ちがうしぃ、セカパだしぃ。んもー、こたろーくんそんなのも知らないの?」
セカンドパートナーとか言われても、正直俺には、浮気と大差ないように思えた。
浮気してるくせに、こいつは悪びれる様子はいっさい無い……。
「ほ、本命は誰なんだよ! てゆーか! そいつアニ研にこないだ入ってきたばっかの【中津川 ヤリオ】じゃあねえかよ!」
「虎太郎せんぱい、おつかれーっす」
ヤリオは、四月にアニ研に入ってきた一年生だ。
身長は180。金髪で、いかにもちゃらけたファッションをしてるやつだ。
正直イケメンではある。
「本命はぁ、そりゃもちろん、こたろーくんだよぉ……♡」
そ、そうだよな……。
ちょっとほっとしてると、またゆがこんなこを言う。
「だぁってぇ、こたろーくん、またゆのレポートとかぁ、出席とかぁ、ぜーんぶやってくれるしぃ~♡」
…………………………は?
今……なんつった、こいつ……?
「こたろーくんってぇ、優しじゃーん? またゆが頼めば、1限の授業の出席も代わりにしてくれるしー、面倒なレポートも書いてくれるしー。それ以外もー、全部やってくれるからー、だから本命♡」
「ちょ……っと、まてよ……またゆ……。愛してるからとか、好きだから、本命って訳じゃあないってことかよ?」
「え~。そんなこと一言も言ってないよぉ。ただ~。またゆにとってこたろーくんはぁ……」
にこっ、とまたゆが笑う。
何の、悪びれもなく……。
「都合のいい奴隷、みたいな♡」
☆
藤沢駅近くの、ミスドにて。
俺は一人席に座って、あいつが来るのを待っていた。
「あれ? 虎太郎じゃん。奇遇だね」
「おう……光……」
自動ドアをくぐってやってきたのは、小柄な【男】だ。
黒いパーカーにジーンズ、というラフな格好。
顔は中性的。男だけど、女って言われても驚きはしないくらいに整っている。真っ白で、すべすべの肌だ。
目は大きくて、ぱっちりとした二重まぶた。
彼の名前は【塩尻 光】。東京都出身で、今は親元を離れて、藤沢にアパートを借りて一人暮らししてる。
光はアニ研に所属してはいないものの、ラノベとかアニメとか好きで、二人でこうして良くつるんで活動してる。
「って、どうしたのさ虎太郎!? そんな死にそうな顔して! てゆーか! ずぶ濡れじゃん!」
あれ……? 濡れてる……?
なんでだろう。
窓の外で大雨降ってるのが見えた。ああ、そうか。雨降ってるのに気づかずに、ここまできたのか。
「光……俺、浮気されてた」
「……!? 浮気……?」
「ああ……またゆに……俺……だから……」
すると光はぎゅっ、と俺のことを抱きしめてくれた。
……あったかい。
すぐ目の前には友達が居て、辛そうな顔をしてる。
「辛かったね……」
「光……」
「とりあえず、さ。かぜひいちゃうよ? うちのアパートすぐそこだから、いこ? シャワーと着替え貸してあげるね」
「え、でも……くしゅっ」
もうっ、と光はおこると、俺の手を引っ張る。
「いくよ! 虎太郎!」
「あ、ああ……」
☆
塩尻光との出会いは、大学近くにあるブックオフだった。
四月、講義がなくて暇なとき、ブックオフにラノベを買いにいったのだ。
そこで、光と出会った。
『へえ! 君もデジマス好きなんだっ? ちょっと古い作品だけどいいよねデジマスー!』
それ以降、俺は光とつるむようになった。
光はアニ研に所属してなかったけど、こういうオタク知識に明るく、すごく話してて楽だった。
彼もアニ研に所属しないかと言ったんだんだが、『ん~。今ちょっと【バイト】してて、そっちが忙しいからさぁ』といってサークルには入らなかった。
でも俺たちの関係は続いた。
好きな作品の傾向が似てて、どっちもオタクってこともあり、すごい話があった。
正直、光が女だったら、またゆではなく、光と付き合っていただろう……。
☆
光の家は藤沢駅のすぐ近くにあった。
ミスドをでてアニメイトへ向かう途中にある……タワマンだった。
正直、学生が住むにしては、デカすぎるマンションだと思った。
光はもしかしたら、家が金持ちなのかもしれん……。
ややあって。
「シャワー、さんきゅーな」
俺はシャワールームを出て、リビングへとやってきた。
「服もありがとう」
「気にしないでよ。下着は……無いから勘弁してね」
今の光は、シャツに短パンというとてもラフな格好だ。
こうしてラフな格好をしてる彼を見ると、一瞬女に空目してしまったが、男だ。冷静になれ。
「はい虎太郎。あったかいコーヒー!」
「ああ、ありがとう」
光が俺にマグカップを渡してくる。
ずずぅ……と一口すする。甘い……そして、優しい味がした。
「おいしいでしょ? ぼくんち喫茶店でさー、コーヒー煎れる腕には自信が……って、どうしたのさ!?」
「ご、ごめん……なんか……ごめん……」
光の優しさが、傷ついた心に染み入る。
そして自分が傷ついてたんだって、再確認する。
「なんだよ……セカンドパートナーって……ふざけんな……浮気じゃあねえかよ……しかも……好きでも愛してるでもないって……奴隷って……」
ちくしょう……。
ちくしょぉおお……。
すると光が近づいてきて、さっきやってみたいに、俺をふわりと抱きしめてくる。
……俺の鼻孔を、甘い香りがくすぐる。
光の暖かな体と、そして……柔らかい……柔らかい?
なんだ、この柔らかいの……?
「あんなマタユル女のことなんて、忘れちゃいなよ」
「光……?」
「あんなひどい女よりさ……君のこと、よく理解してくれる人を、カノジョにしたほうがいいよ。だいたい、あんなやつ、アニ研に入ってるくせに、アニメも漫画もゲームもラノベもVTuberも好きじゃあないし。ただ女に免疫のない男の集団にはいって、ちやほやされたいだけだしっ」
光が声を荒らげて言う。
いや……ちょ、ちょっと待て……。
なんだ、この胸の、感触。
ぐにょって……柔らかい。スライム? でも、すんげえ柔らかくて、大きくて……まるで……
おっぱい……?
「どうしたの? 虎太郎?」
「……い、いや……」
男……だよな。光って。
だよな? いや待て……俺、光に性別って聞いたことあるか?
いつも男みたいな服装してるし、髪の毛も短いし……。男だって思ってたけど……。
この胸の感触って……。
「虎太郎?」
「あ、いや……」
おまえ女? なんて聞けないし……。
これでほんとは男だったら、相手を傷つけることになるだろうし……。
「なんでも、ねえよ」
結局、真相を確かめるのが怖くて、俺は何も言わなかった。
光になぐさめてもらって、少しは気持ちが楽になったけど、まだまだ心の傷は完全に癒えてはいない。こんな状態で変なこと言って、光とのかんけいを崩したくなかった。
「虎太郎、今日は飲もう! とことん飲もう! お酒一杯あるからさ~! いやなことは全部、飲んでわすれっちまうぜ!」
光……おまえほんといいやつだよ。
俺の一番の友達だ。
☆
「………………え?」
……気づけば、朝になっていた。
キングサイズのベッドには……。
「むにゃ~……♡ こたろぉ~……♡ ぬへへへ~……♡」
「い、いや……いやいやいやいやいや!!!!」
全裸の、黒髪女子がいました。
そいつはでっかいおっぱいしてました。
……そして、顔は完全に、光だった。
「え? いや、まて……まてまてまて! 光! え? 光ちゃん!?」
「むにゃあ……? どうしたのぉ……こたろー……」
体を起こすと、ぶるんっ、と光の大きな胸が揺れる。
それは、間違いなく、光が女だっていうことを主張してるわけで……。
「おまえって……その、おまえってさ……女なの?」
すると光は寝ぼけ眼で、しかしはっきりという。
「うん、そーだよぉ……」
……なんて、こった。
男友達だと思っていた子は、女子だった。しかも……俺はその子とやってしまった!!!!!
彼女がいるのに……最低だ俺!
「なにへこんでるの?」
「いやだって、俺もまたゆと同じで浮気しちまって……」
「浮気じゃあないでしょ?」
「え?」
にやり、と光は笑う。
「セカンドパートナーは、浮気じゃあないんでしょ?」
え、いや、それは……え、いや、まあ……。
またゆはその理論で、俺以外の男と付き合ってたけど……。
「セカパは浮気じゃあないって、またゆは言ってたんだ。なら、虎太郎にセカパがいても別に問題ないっしょ?」
「え、あ、ま、まあ……そう、なるか?」
「そうだよ! セカパは浮気じゃあないって、あいつ自身が言ったんだから! じゃあセカパであるぼくと君がやっても、問題なっしん!」
た、確かに……そう、かな?
い、いやそれ以前に……。
「俺と光ってセカパだったの?」
「付き合ってない、仲のいい異性って意味じゃあ、セカパってことになるねえい♡」
いわれてみれば、そうだけどもさ……。
「ほいじゃー、ご飯食べたらさっそく、あいにいこっか♡」
「ど、どこへ?」
「本命カノジョのとこへ♡」
☆
それから数時間後。
N大のキャンパスにて。
「は? ちょっとどういうこと?」
「だから、虎太郎のセカパの、塩尻光でーす♡」
俺の前には、またゆが呆然と立っている。
光は俺のスマホを使って、またゆに連絡を取った。大事な話があると。
そして光は、自分が俺のセカパであることを明かしたのだ。
しかも光のやつ、いつもは男もみたいな格好してるくせに、今日は体のラインがばっちり見えるような、ぴっちりしたお召し物をしてる。
スカートも履いて、一発で女子とわかる格好になった光は……まあ、超美少女だった。
これで男と見間違えていた俺って……そうとうな間抜けじゃあないのか?
「ふ、ふざけないで! セカパ? そんなのあーし聞いてない! 別れてよ!」
またゆが声を荒らげる。
な、なに切れてるのこいつ……?
「自分は隠れてセカパ作ってたくせに、なんで怒ってるのかな?」
「そ、それは……」
「自分はよくて、他人はだめっていうの? それって自分勝手すぎない?」
「ぐ、ぬぅ……」
またゆが黙ってしまう。
一方で光は有無を言わさぬ凄みを発揮していた。
「で、でもセカパなんて、ゆ、許せないよ! 浮気だよ浮気!」
「おまえ……どの口が言ってんだよ……」
あまりのまたゆのダブスタっぷりに、怒りを通り越して、あきれていた。
こんなのに惚れてたのか、俺……。
「ねえ別れてよ! こたろー!」
あまりのくそっぷりに、またゆに対する恋愛感情は、すっ……と冷めていた。
だから、俺は言う。
「わかった、別れよう。またゆ」
「え……?」
ぽかーん、とまたゆが呆然とした表情になる。
あほみたいな表情だ。これをかわいいとか思ってたのか、俺。
「じょ、冗談だよね、こたろー?」
「冗談じゃあねえよ。セカパと仲良くやってやがれ。じゃあな」
そういって、俺はその場から立ち去ろうとする。
光が俺の隣にぴったり寄り添ってくる。
「男らし~♡」
「茶化すなよ」
「ぬへへ♡ ますます惚れてしまいましたよ♡」
「や、やめろい……」
女子からからかわれても、不思議と嫌な気持ちにならなかった。俺は、やっぱり……。
「ま、待って! 待ってよこたろー! え、別れたらどうすればいいの? 授業の出席とか! あーし朝弱いし! テストもこたろーがいなかったら落ちちゃうょお!?」
「だから、なんだよ。自分のことは自分でやれ。もうおまえは、カノジョでもなんでもねえから」
すたすたすた……と俺はまたゆのそばから離れる。
「ま、待って! 待ってよぉ!」
待ちません。ということで、またゆをほっぽっといて、俺は光とともに、キャンパスを去ったのだった。
☆
そして、俺は藤沢駅までやってきた。
「虎太郎、これでフリーになったわけだけどー、これからどうするの?」
「これからなー」
ぶっちゃけ、もう女はこりごりなとこがある。
するとにんまり、と光が笑ってこんなこといってきた。
「ほんもののカノジョができるまで、セカパ、続けない?」
「え?」
セカパ続けない? ってつまり、光とのセカンドパートナー関係を、続けるってこと?
「虎太郎の心の傷がいえるまで、ぼくが癒してあげる~♡」
むにーっ、と光が自分の胸を押し付けてくる。
や、柔らかい……そして、甘い匂いが鼻孔をくすぐり、頭がくらくらする。
「ね、いいよ? いーっぱい、ぼくの体を使って♡ 気持ちよくなっていいんだよ♡ だってぼく、君の都合のいい女なんだからさぁ~。カノジョできるまでで、いいからさー、ねー♡」
……カノジョができるまで、か。
正直言うと、俺は光に惹かれてる。趣味が合うし、落ち込んでる俺を励ましてくれる女なんて、光以外にいない。
でも、向こうが俺のこと好きかどうかはわからない。
だから……告白する勇気がない。ならば……。
「じゃあ、友達から、お願いします」
こうして、俺はカノジョができるまで、光という気の合う女子と、セカンドパートナーシップを結ぶことにした。
まあ、その関係が解消されるまで、そう時間はかからないだろうと、俺は思ったのだった。
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