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第1話 転校生

逢瀬翠おうせすいです。本日からこの学園に通います。よろしくお願いいたします」


 私立彩雲学園高等部の二年二組。その逢瀬翠と自己紹介をした少女は、言葉遣いは柔和なものの、凛とした目線で生徒たちを見つめていた。


 流れるような黒髪ストレートロングと漆黒の瞳が印象的。まるで吸い込まれそうな深さを感じる。形良い鼻筋と桜色の唇も美麗。やや背が高いスレンダーな体形で教室の面々に真っ直ぐその身体を向けている。


 僕――如月雪也きさらぎゆきや――はその少女の突然の登場に驚いていた。


 その少女――逢瀬翠――の事ははっきりと覚えている。昔、十年くらい前だろうか。僕が小学生だった時に一度だけ出逢って、一夜を一緒に過ごした少女だ。不思議な出逢いで、印象的な会話をしたのが脳裏に焼き付いている。


 だが驚いたのは、その少女の十年ぶりの登場が原因じゃない。突然の再会というのは、世の中に全くないというわけじゃない。稀ではあるけど、有り得るレベルの話だと思う。驚愕しているのは、その少女が出逢った当時の姿のまま――十年前の高校生程の見姿のままで現れた事だ。


 ありえなかった。十年前のあの時、俺は七歳。対して翠は高校生の見目だった。ならば今、翠は二十七歳くらいの妙齢の女性になっていなければならない。それが歳月の流れというものだ。けど、翠はその自然の摂理に逆らった外見で僕の前に現れたのだ。


 年齢は二十七で、年若く見えるという事なのだろうか?


 でも目の前で泰然自若と立っている翠は僕の記憶にあるあの時の姿そのままで、どこからどう見ても十七歳の美少女高校生にしか見えない。


 翠の外見は全く変わっていない。そんなことがあるのだろうか。人知を超えているというか、普通の高校生である僕の理解が及ばないことだった。


 ――と、その翠は横に立っている担任の泉田先生の指示もないうちに教壇からすっと歩き出し、綺麗な立ち振る舞いで僕の脇にまできて、誰に断ることもなく隣の空いている席に座った。


「久しぶりね、雪也」


 ふふっと、その強気に見える相貌を緩めて僕に微笑を送ってきた。


 やはり、あの時の女の子だ! と思う間もなく、翠は僕に対して言い放ってくる。


「私はあの時の約束通りに、貴方の返事を聞きに来たわ。私の『パートナー』になってくれるかどうか」


「パートナー?」


「その顔は覚えていないという感じね」


 翠が頬杖を付きながら、少し残念で寂しいという表情を浮かべる。


「細かいことはこれから。折角再会したんだから、まずは学園生活を楽しみましょう」


 翠はそう言うと、檀上の担任に向かって「すみませんでした。ホームルームを始めてください」と場をまとめる。


「お、おぅ」と担任の泉田先生が返答して、ホームルームが開始されるのであった。

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