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国民的女優と歴史的和解

 柔らかいのか硬いのか良く分からない床に座る。

 座り心地もなんとも言い難い感触だ。

 変な感覚の床を楽しみながらも、聞き耳を立てる。


 「それでわざわざ鷺ノ宮さんが呼び出しなんてどうしたのかな? 有名人さんに呼び出されるだなんて一生に一度だろうねー」

 「そのまま一生忘れられないようにしてあげても良いんですよ」

 「大丈夫大丈夫。今もう既になってるから。天下の鷺ノ宮氷華さんと屋上で二人っきりなんてね。後世に自慢できちゃうよ」


 声を弾ませながら煽っていく瑠香と、あくまでも表の鷺ノ宮氷華を意識しながら口調を崩さずに一歩引いている氷華の会話。

 なんというかやり取りを聞いているだけだと実は相性良いんじゃなかろうかと思ってしまう。

 なによりも会話のテンポが良い。

 これがもしラジオであれば一生ファンとしてついて行く。


 「そりゃ嬉しいね」


 互いに核心的な部分へは踏み込まない。

 瑠香は煽りながら、氷華は一歩引きながら、適度な距離感を保ちつつ、お互いの出方を伺っているという感じだ。

 警戒するという表現が近しいだろう。


 沈黙が暫く流れたあと、瑠香がこの空気を切り裂く。


 「それで用事があったんでしょ?」


 瑠香は痺れを切らしたのかそう問う。


 「単刀直入に確認しますが、みー……コホン、澪とはどういう関係で? なんだか教室でも妙に仲良さそうですが」


 様子を確認するために壁からひょっこりと顔を出す。

 すると、向かいにいる瑠香と目が合ってしまう。

 ビックリしたような表情を浮かべ、数秒見つめ合った後、氷華にバレないよう小さく手を振る。そして、場の空気に合わないような笑顔をこちらへ向ける。

 その行動が瑠香の心にどれだけゆとりがあるかを教えてくれる。

 少なくとも、こうやってふざけていられるくらいの余裕はあるようだ。


 「逆に聞くけどどういう関係だと思う? どういう関係だったら良いなーって思う?」

 「質問に質問で返す人は嫌いです」

 「いやでも、ちゃんと答えても私のこと嫌いでしょ」

 「嫌いじゃないと言ったら?」

 「そうしたら嘘を吐く人は嫌いだよって言うかな」

 「あーそっか。見透かされてんだね。なら、猫被ってる必要も無いのかな」


 氷華は視線を感じたのか一瞬俺の方へ振り返り、こちらを見つめる。

 慌てて壁に隠れた。

 見つかったのだろうか、バレたのだろうか。ギリギリ回避できたような気がする。

 バレてたらどうしよう。

 座っているだけなのに、まるで聴診器を胸に当てているかのようにバクバクバクバクと鼓動が聞こえる。


 「ま、いいや」


 氷華のつぶやきのような声が聞こえる。

 俺はまたひょっこりと顔を出す。


 「澪に近付かないで。触れないで、喋らないで。ただそれだけ。守ってくれるのならこれ以上姫居さんに関わることはないと約束するよ。もし、守ってくれないのならあらゆる人脈を使って姫居さんを潰す。澪……みーくんと関わったことを後悔させる」


 氷華は視線を瑠香の方へと戻していた。

 鷺ノ宮氷華という皮を脱ぎ捨てた氷華を見ても、瑠香は動揺する様子は一切ない。

 むしろ、この状況を楽しんでいるようにさえ思える。


 「ひぇー、怖いね。これが『日本中が求める理想の幼馴染』かー」

 「それは私が言い始めたことじゃないし。勝手に皆が理想を抱いて変な二つ名つけただけでしょ。本望じゃない。私はみーくんの幼馴染だから」

 「でも皆は理想を抱いている。こんな壊れたような……いや、愛が暴走したって言った方が良いのかもね。この姿を日本中に見せたらどうなるんだろうね」


 瑠香はこの状況に立たされてもなお、楽しそうだ。

 氷華は本性を見せるという一枚のカードを切ったのにも関わらず、瑠香は臆することない。

 むしろ、好奇心を掻き立ててしまった。


 「どうだろうね。新しいドラマの撮影の映像が流出したって都合良く解釈してくれるんじゃないかな」

 「そんなご都合主義展開有り得ると思う? 鷺ノ宮さんにしか都合良くないよね」

 「そうかな。私に理想を抱き、押し付けてるのは国民でありマスメディアでしょ。彼ら彼女らが理想を崩さないために都合良く解釈してくれると思うけど」

 「なるほどね、うんうん、なるほど」


 うんうんと頷いている。


 「でも絶対にアンチは増えるよね。鷺ノ宮さんの活動に支障は出るよ」

 「そもそも私は女優という立場にこだわりは無いから。みーくんのために捨てろって言われたら捨てたって良い。女優という立場でみーくんが手に入るのなら」

 「うわー、重い重い……こりゃ私が想像していた以上だなー」


 瑠香は水色の髪の毛に手を持ってきて、毛先をくるくると回す。

 今日初めて見た苦笑だ。

 滲み出るヤンデレさに押し負けた。


 「想像……?」


 氷華は何を言っているんだという口調だ。

 実際俺も何を言っているんだと思った。


 「そんな難しいことじゃないよ。ただただ鷺ノ宮さんの佇まいに違和感を覚えただけ」

 「違和感……。面白いこと言うね」

 「まるで淑女であろうとしているところとか。うーん言語化しろって言われると結構難しいんだよー。そうだね、ずっと演技しているような感じって言えば良いのかな」


 瑠香は口元に手を当て、真剣に悩む仕草を見せる。


 「クラスで笑う時も、悲しそうな顔する時もどうも心の底の感情のようには思えなかったからさ。小さな違和感だって言われればその通りなんだけどね。でも、私ってそういう細かいところ一度気になっちゃうと突き詰めないと気が済まないタイプなんだ」

 「突き詰めた結果、自分が想像していた以上だったと」


 氷華は淡泊にそう口にする。

 そして瑠香は首肯する。


 「でも私はね、言いたい」


 真っすぐな目線が氷華へと突き刺さる。

 陰に隠れてヒソヒソと見ている俺でさえ息を吞んでしまう。

 あの場に立っている二人は今どんな感情を持っているのだろうか。


 「変に猫を被っていない素のままの姿……素であろうその姿の鷺ノ宮さんが私は好ましいと思うよ。もちろん、こんな考え異端なんだろうけどね。それは十分に理解してる」

 「なにそれ。媚び?」

 「アハハ、そうだね。そうなっちゃうよね」


 瑠香はゲラゲラ笑う。

 緊張の糸を切ってしまうような笑い声だ。


 「別に媚びを売ってるつもりはないんだけど、そう思うならどうぞどうぞご自由にって感じかな」

 「何が言いたいの?」

 「大それたこと言うつもりはないけど、ただ全員が全員鷺ノ宮さんに理想を抱いているわけじゃない。それだけは覚えておいて欲しいなって」

 「ふーん、つまり、みーくんにちょっかい出してたのも私を誘き寄せるためだったってこと?」

 「何を今更。分かりきってたことでしょ」

 「ふふふ」


 氷華は静かに笑う。


 「とりあえず、鷺ノ宮さんの要求は飲んであげる」

 「みーくんに近付かないって約束してくれるの」

 「もちろん。こうやって素であろう姿を見せてくれるんだから、わざわざちょっかい出す必要も無いし。生憎、人の好きな人を奪うような醜い趣味もないもんでね。やる必要が一切ないってわけ。友達として関われなくなるのはちょーっと残念だなって思うけどね」


 瑠香は途中から俺の方を見て語りかける。

 あまりこっちを見ないで欲しい。氷華にバレでもしたら色々と面倒だ。


 「ふーん、興味ないんだ」

 「そうだね。興味はないよ」

 「つまりみーくんに魅力はないってこと? そう言いたいんだ」

 「わー、なんでそうなるの。めんどくさ……」


 瑠香は顔を顰め、こめかみを抑える。


 「この私をも掌で操ろうとする姫居さんの方がよほどめんどうだと思うけど」


 なんとなく言葉にはできないのだが、二人の間に流れる空気がまた変わった。

 堅苦しさはとうに消え、緩やかで柔らかいものになった。

 空気なんてすぐに変わるし、そもそも見えるものでもないので測り違えることだって良くある。

 だから、大丈夫だと慢心するのは良くない。


 それでも、だ。

 もう二人が思いっきり対立することはないな。

 謎めいた確信が俺の心の中にはあった。


◆◇◆◇◆◇


 先に帰宅した。

 というか、氷華を置いてきた。

 あの場で俺が「やーやーどうも」と顔を出したところで異物でしかないし。

 校門で待っているのも、氷華に「ふーん、私との約束守れないんだ」とか言われそうだし。

 あれこれ考えると、帰宅するしかない。


 帰宅して、冷房をつけ、テレビをつける。

 とあるコンビニのコマーシャルが丁度流れていた。

 イメージキャラクターとして氷華が起用されており、コンビニの制服を着た氷華が「テレビをご覧の皆様! いらっしゃいませ、こんにちは」とぺこりと一礼し、笑顔を見せてふりふりと可愛らしく手を振る。

 あぁ、可愛いなぁ。俺の幼馴染可愛いなぁ。

 俺しかできない楽しみ方をテレビの前でしていると、ガチャりと玄関の扉が開かれる。


 「おかえり、氷華」

 「ただいま。家に居たんだ」


 ひょこっと玄関へ顔を出すと、少し驚いた顔を氷華はしていた。

 すぐに表情を戻すと、靴を脱いでこちらへ来る。


 「そりゃね、言われた通りに先に帰りましたとも」


 くーっと背を伸ばす。

 

 「それよりもなんかやけに澄んだ顔してるけど何かあったの」


 誰が見ようとも嬉しいことがありましたというような嬉々とした表情を浮かべている。

 相当嬉しいことがあったのか、話を聞いて欲しい構ってちゃんなのか。

 どっちでも良いか。


 「私と対等に会話してくれる友達ができたんだよ。ふふ」

 「それはそれはなによりで」


 氷華の周りの人間はどういう関係性であったとしても一歩引いて関わってしまう。

 教師であっても、友人であっても。

 鷺ノ宮氷華というブランドがあまりにも目高く、容易に触れることが出来ないが故に起こる現象だ。

 だから、氷華にとって対等に接せる友達というものはいない。いや、限られているが正解か。

 少なくともウチの高校にそんな奴は片手ですら余裕で収まっていた。

 そんな中、突如現れた瑠香。

 氷華にとっては眩しく光るのだろう。


 「大事にしろよ」

 「そうだね。大事にしなきゃ」

 「あ、いや……その、ほどほどにな」


 俺が口にする大事にしろと、氷華が口にする大事にしろってのはニュアンスが異なるような気がする。

 苦笑しながらそう答えたのだった。

 瑠香……君へも氷華から重たい愛を向けられるかも。そうなったらごめんな。

ご覧いただきありがとうございます。

ジャンル別日間ランキング3位、総合も二桁に入りました。皆様の評価やブックマークの賜物です!モチベにも繋がって大変助かってます。

まだまだ続ける予定なので引き続きお付き合いして頂けますと幸いです!

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