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国民的女優と宣言

 晴れやかな空。

 雲一つない晴天とはまさにこういう日のことを言うのだ。

 蝉の鳴き声と近所の子供たちの笑い声が夏であることを実感させてくれる。

 ガラッと家の窓を開ける。

 冷房の涼しい空気は流れ出て、代わりに暑苦しい外気が入ってくる。

 うっ、と思わず顔を顰めてしまう。

 あまりの気持ち悪さに卒倒しそうになるが、グッと堪える。

 少しだけ耐えればあっという間にこの暑さにもなれる。

 窓の縁に手を置きながら、数度深呼吸をして、外の空気を吸い込む。


 窓から見下ろせば、道路上にたむろする記者やカメラマン。

 俺に気付いたのか、一斉にカメラを向ける。

 ただの一般人だというのに、なぜそこまで執着するのか。

 まるで犯罪者のような対応に疑問を持つ。

 もしかして知らず知らずのうちに重罪でも犯してしまったのではと、訝しむほど。

 無論、二重人格でもないし、阿呆でもない。

 知らないうちに重罪を犯しているわけがない。


 「みーくん?」


 気付けば後ろには氷華が立っていた。

 なにをしているの? と、言いたげな様子だ。

 実際、疑問は持つだろう。


 「今から氷華を助ける」

 「私を? 助けるってなにから」

 「コイツらからだよ」


 俺は顎先を記者たちへ向ける。

 コイツらに指を使うのすら勿体ない。


 「どうやって助けるの? みーくんにできるとは思えないけど。やってることは子供じみてるけど、相手はちゃんとした大人だよ」

 「んなことぁ、わかってるんだよ」

 「じゃあ……」

 「大丈夫。勝算はあるから」

 「本当?」


 氷華は不安そうに俺のことを見つめる。

 まあ、氷華が言っていることはなんらおかしくないし、不安になるなって言う方が酷であるというのも理解している。

 でも、任せて欲しいとも思う。

 失敗なんて起こらない。この世の中に絶対はないというが、今回ばかりは絶対に成功するという確固たる自信がある。


 「みーくんが傷付くのは嫌だよ」


 氷華は俺の袖口を摘み、じとっという視線を送ってくる。

 いつものヤンデレっぷりからは考えられないほどに乙女チックな表情だ。

 時折こういう顔をするのは、卑怯だ。

 こんなぐわんぐわんと情緒を揺すぶっておいて、惚れるなっていう方が難しい。


 「大丈夫。どう転んでも俺が傷付くことは無いから」

 「本当に? 本当の本当の本当に?」


 俺のことが信用できないのか、ただただ不安なのか、子供のように何度も確認する。

 駄々っ子のように見えて俺は思わず苦笑してしまう。

 

 「大丈夫」


 そう声をかけても氷華は不安そうな顔をしたままだ。

 どうやら俺は相当信用されていないらしい。

 まあ、今まで……というか人生を振り返ってみれば頼りないことばかりだった。

 なんなら氷華に頼りっぱなしだった。

 そんな俺を都合良く信用してくれっていうのが無理な話である。


 「見ててくれ」


 じゃあなにもしないかと言われればそんなことはない。

 きっとここで何もしなければ、何も変わらないから。

 信用がないのなら、今ここで勝ち取れば良い。ただそれだけの話だ。非常に簡単なことである。

 勝算はある。ただ不安にさせているだけ。

 終わり良ければ全て良しという言葉があるが、最終的に氷華を安心させることが出来るのなら、それで良いのだ。


 俺は氷華の手を握る。

 両手で包み込むように優しく。

 撫でるように。

 そして吐息を漏らす。

 同時に窓に手を当てる。


 俺は窓から上半身を乗り出す。

 ここで壁が崩れたら地面へ真っ逆さまだなとか不吉なことを考え、緊張を和らげる。

 そうでもしないと、やっていられないから。

 俺は大きく息を吸う。


 「お前ら良く聞け! この人のプライベートを食い物にするマスメディア共! 良く聞きやがれ!」


 俺は叫ぶ。

 思いっきり叫ぶ。

 近所迷惑とかそういうのは一切気にしない。

 あとで怒られるかもしれない。もしかしたら警察が来るかもしれない。

 まあ、警察沙汰になったとしても悪いのはこの記者たちである。

 俺も多少は悪いんだけどね。

 言い訳は全力でさせてもらうつもりだ。


 カメラが向けられる。

 フラッシュをたかれる。

 眩しいが、屈しない。こんなものに屈してはならない。


 「耳をかっぽじって良く聞け! 俺は! 鷺ノ宮氷華の彼氏だぁぁぁぁぁぁぁ!」


 思いっきり叫ぶ。


 「何度だって言ってやる。俺は鷺ノ宮氷華の彼氏だ。恋人だ。俺と氷華は付き合ってる。めっちゃ幸せだ!」


 身を乗り出しそうになるほど気持ちが乗っかる。

 自身でも吃驚する。

 そんなに感情的になるとは思っていなかった。

 でも後悔は一寸たりともない。


 「お前らァ! 俺は、俺は、幸せだー!」


 地球の奥底まで届けるつもりで叫んだ。

まだ少しだけ続きます。

よろしくお願いします。

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