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国民的女優と真相解明

 瑠香がスマートフォンを俺に見せてから数分も経過しないうちに氷華はやってきた。

 教室に入ると、キョロっと周囲を見渡し、俺と目が合う。

 気まずさを覚えたが、俺は見つめ続けた。

 だが氷華は後ろめたさでもあるかのように眉をひそめ、一瞬だけ顔を逸らす。

 しかし俺の後ろに氷華を呼び出した張本人を見つけると、諦めたようにまたこちらへ顔を向ける。

 そして今度は何も無かったかのように綺麗な笑顔を顔面に張りつけて、小さく手を振る。

 持ち前の演技力を存分に発揮している。

 一言も発していないのにここまで表情がころころと変わるのは流石人気女優様だと言えるだろう。

 もうこうなるとどの表情が演技でどの表情が本心なのか分からなくなる。


 「氷華〜。こっちこっち」


 瑠香は少しだけ声を弾ませて、ひょいひょいと手招きする。

 氷華は後ろ髪を軽く触ると、ゆっくりとこちらへやってくる。

 とんとん鳴ると足音は徐々に大きくなる。

 自分自身でも驚くらいにドキドキしている。人ってこんなにも緊張するのだとビックリする。

 鼓動が瑠香に聞こえているんじゃないかとか、心臓が皮膚を突き破って出てくるんじゃないかと有り得ないことを本気で考えてしまうくらいには激しい。

 自然な形で胸に手をやると、鼓動が掌に伝わる。

 こんなんじゃ平静さすら失ってしまうと思い、一度深呼吸をして、心を整える。


 「瑠香、どうしたの?」


 氷華はやってくるなり、首を傾げる。

 俺の隣じゃなく、瑠香の隣に立ってだ。

 目線も俺へ向けられることは一切ない。名前も呼ばれない。

 意地でも距離を取るという意思を感じる。

 というか見えていないんじゃないかとさえ思ってしまう。

 その氷華の一挙一動を見て、瑠香は微苦笑を浮かべた。


 「ざんねん。今日用事あるのは私じゃないんだ」


 瑠香の言葉に氷華は顔を歪ませる。

 表情を曇らせたの方が表現としては近しいのかもしれない。

 あまりに露骨過ぎて胸がぐぐぐと強く引き締められる。


 「瑠香じゃないんだ。それじゃあ誰が用事あるの? 瑠香以外に用事なんてなさそうだけど」

 「いるじゃん。氷華のだーいすきな人が私の……違うね。私と氷華の隣にさ」


 瑠香はいたずらっぽく笑う。

 こうやって色々と手助けしてくれている時点でそうなのだが、この状況を楽しんでいる節がある。

 若干口角を上げた瑠香はひょいっと俺を指さす。

 一方で、氷華は数秒目を瞑り、小さく息を吐く。

 溜息と言うのすら憚られるような息である。


 「澪が用事?」

 「なんだってさ。聞いてあげて」


 一瞬こちらを見た氷華はすぐに瑠香の方へ目線を戻し、こてんと首を捻る。

 その反応に瑠香は首肯した。

 そして顎をクイッとしゃくる。


 「手短に済ませて」


 腹を括ったのかこちらに目線を向けて、端的な言葉を投げる。

 不本意であるのがヒシヒシと伝わる。

 俺と会話することすら嫌なのか。感じ取れる雰囲気は嫌そうだ。

 どうやら本格的に嫌われてしまったらしい。

 嫌なこととか不都合なことをする時じゃないとそういう顔にはならない。

 でも、ヤンデレ時の氷華をあれだけ逃避していたのだから、嫌われるのも無理はないよな。

 素の氷華を受け入れなかったのは俺なのだ。

 今さら何都合の良いこと言ってるんだろうな。思っているのだろう。


 「ほら、言ってやんな」


 瑠香はつんっと俺の額に指先を当てる。

 かくんと頭が動く。

 一瞬、氷華が瑠香を睨むような目をした気がする。

 ただ今はもうすんと真顔に戻っており、気のせいだったのだと理解する。

 あまりに現実を受け入れられずとうとう幻想を見るようになってしまったらしい。

 こりゃかなりの重症だ。

 この気持ちを消化するには年単位を要するだろうな。


 「氷華。今日学校来たら、噂が流れてきた。もしかしたら氷華にも耳に入っているかもしれないけど」


 少しだけ氷華の言葉を待ってみるが、なにも反応を見せない。

 頷くことすらしない。

 無反応。

 それ以上に言い表す言葉は俺の脳みそでは見つからない。


 「氷華が付き合い始めたって噂が流れてきたんだけどさ。本当に付き合い始めたの? それともガセ情報掴まされただけ?」

 「付き合ったよ」

 「昨日告白された時に付き合ったのか……」

 「そうだけど」


 氷華から返ってきたのは聞きたくのない返事である。

 はっきりとした肯定。勘違いのしようもない肯定だ。

 今俺は一体どんな表情をしているのか。

 考えただけで虚しくなる。


 「……だからずっとよそよそしいんだな」

 「うん。だって、おかしいでしょ? 彼氏いるのに他の男の人と絡んでるのって。おかしいと思わない?」


 正論が飛んでくる。


 「少なくとも私はおかしいと思うよ。だから距離を置いてる。もう今までみたいには絡めない」

 「そっか」


 噂の真相も、なぜ距離を置いているのかもしっかりと氷華の口から聞くことができた。

 これ以上何を求めるのだろうか。というほどはっきりとした回答だ。

 俺はそれ以上反応することができない。

 言葉を失うとはまさにこのことだ。


 「ねぇ」


 瑠香は我慢できなくなったのか割って入ってくる。

 視線を二人から浴びてから「あっ……」と口を抑え、キョロキョロと見渡す。

 ゆっくりと口を離し、水色の毛先をくるくると触りながらにへへと作り笑いを浮かべた。


 「周りの目もあるし一旦終わりにしない? お昼休みに人目のないところでまた話そう。氷華も問題ないよね?」

 「……彼氏とお昼食べるから。厳しいかも」

 「うーん、じゃあさ彼氏に伝えておいて。『一緒にお昼食べられる機会減っちゃうだろうから最後に一緒に食べよって友達に誘われたから今日だけは無理! 明日から食べよ』って。もしそれでも断られるのなら私が直接お願いしに行ってあげる」

 「……わかった。言ってみる」


 瑠香の熱意に押し負けた氷華は渋々という感じで承諾する。

 ちょっとばかし不安気な表情を浮かべているのは一体なぜなのか。


 「行っておいでだって」


 氷華はスマートフォンに目線を落としながらそう答える。

 この場は一旦お開きとなった。






 時は流れ三限目。

 世界史の教師がとんとんたんとんとリズム良く黒板にチョークを走らせる。

 ノートに板書を写す。

 シャーペンを勢い良く走らせるが、脳みそはお昼のことで頭がいっぱいだ。

 授業へのリソースなんて一割にすら満たない。


 はたして瑠香はここからどうするつもりなのか。

 あの氷華のなんとも言えない表情は一体なんなのか。

 俺が抱くこの行き場のない気持ちは一体なんなのか。


 せっかく噂の真相に辿り着けたのに、疑問は減るところか増えるばかりだ。

 一限目も二限目も当然ながら授業に集中なんかできるはずもない。

 集中しようと教師の言葉に耳を傾けたところで、色んな疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡り、結果として集中できなくなる。

 俺は学習する人間だ。何度も同じミスを繰り返すようなことはしない。

 三限目は授業に集中すること自体を諦めたのだ。



 そもそも彼氏って誰なのだろうか。

 同級生なのかな、先輩かな、後輩かな。

 俺の知り合いだったらどんな反応をすれば良いのか分からないや。

 てか相手すらも教えて貰えない俺って……。真っ先に教えてもらえる。そう思っていたこと自体が自惚れなんだろうな。


 仮にも幼馴染だし、同棲相手になぜ隠していたのだろうか。

 言う必要が無いと判断されたのか、言いたくないと思われたのか。

 どちらにせよ「おめでとう」の一言すら言えないような俺に黙っていたのは正解だな。

 あぁダメだ。

 思考が迷路に嵌ってしまった。


 「寝るか……」


 チョークの音に掻き消されるほど小さな声で呟き、教科書とノートを閉じて、堂々と机に突っ伏せたのだった。


◆◇◆◇◆◇


 四限を終え昼休みがやってくる。

 一時の休みだというのに、クラスの中は喧騒とした雰囲気に包まれた。

 待ってましたと言わんばかりにお弁当に箸を伸ばす者、財布を取り出し楽しそうに教室を立ち去る者、疲労困憊で机に置い突っ伏せたままの者。

 本当に様々だ。

 俺たちは昼休みそうそうに中庭へと向かう。

 四方校舎に囲まれた場所だ。

 中庭とはいえかなり整備されている。

 ウッドデッキのようになっていて上履きで立ち入ることが可能で、ベンチも何個か整備されている。

 屋根がないので悪天候時は使用不可なのが欠点だが、晴天時はとても気持ちの良い空間となっている。

 主にここへ立ち入るのはカップルたちだ。

 昼休みにはカップルたちの巣窟と化す。

 決して人気な少ない場所ではない。

 しかし、カップルたちは基本周囲の目を気にしない。

 こんな所でお昼を共にするカップルはかなり熱々な関係だ。

 互いに恋人のことしか眼中に無い。

 なので周囲に紛れつつ、人の目も気にしなくて良いという今の俺たちにとっては最高の場所だ。


 「あっちあいてんね。あそこでお昼食べよっか」


 瑠香は空いているベンチを指さすと颯爽と駆け出す。

 滑り込むように座って、俺と氷華を手招きする。

 俺と氷華は吸い込まれるようにベンチへと向かい、瑠香を挟んでそれぞれ座る。

 真ん中を陣取るような形になった瑠香はビクッとした様子で肩を震わせ、両方に何度か視線を向けた。

 そして小さな溜息と共に苦笑を一つ挟む。


 「私は壁じゃないんだよ」


 呆れたようにそう口にする。


 「ま、良いか。よし」


 パンっと瑠香は勢い良く手を叩く。

 弾けるような音が響き渡るが、周囲のカップルたちは全くこちらを気にしない。

 興味を示さない。というか自分たちの世界に入り込みすぎていて気付いていないまである。


 「氷華は一体どういうつもりなの? そもそも彼氏って実在するわけ?」


 瑠香は躊躇することなく問い詰めるように言葉を投げる。

 氷華は一瞬だけ視線を泳がせたがすぐに平静さを取り戻す。


 「どういうつもりって? 私が嘘を吐いてると?」

 「今までの態度見てたら、急に彼氏出来たって言われても信憑性は皆無でしょ。そんなの自分でもわかってるんじゃないの」

 「そうね。それは確かにその通り。でも、証拠はあるから」


 氷華はスマートフォンを手際良く操作して、パッと瑠香に画面を見せる。

 見せているのはトーク画面だ。

 状況的に彼氏とやらのトーク画面だろう。

 わざわざ偽造しているとは考えにくいし、俺たちにとっては十分な証拠だ。

 瑠香は唇に指を当て、悩むようにうーんとうなる。


 「じゃあ質問を変えよっか。なんで付き合い始めたの。突然澪を嫌いになって、ちょうどその彼氏になった人を好きになったとか?」


 瑠香はちょこんと首を傾げつつ、氷華を見つめる。


 「そうだって言ったら?」

 「そんな都合の良い話は氷華の演じているドラマの世界だけだよ。通用するのって……って返すかな」

 「そう」

 「そもそも何か核心的な部分隠してるでしょ。騙せてると思ってるのなら大間違いだよ」


 図星だったのか氷華は動揺する。


 「何を隠してんだか私には分かんないけどね。だから何を隠してんのか言ってみろって言われたら私はお手上げだよ」


 瑠香はハハハと乾いた笑い声をあげる。


 「でもやり方は間違ってると思う。詳細は分かんなくてもそれくらいは分かる」

 「瑠香には何も分からない」

 「分かんないよ。何も言われてないし、何も教えてくれないし。察しろ? 人間にそんなことできないよ。察しろとか、空気を読むとかあんなのご都合主義。言葉は交わさなくても心で通じ合う? そんな幻想的なこと現実で起こりうるわけないでしょ。人の考えてることなんて何も分かんないんだよ。それが人だし、人間関係」

 「……」


 瑠香は声のトーンを一定に淡々と氷華を責め立てる。

 氷華は瑠香にここまで言われると思っていなかったのか、目を丸くして呆然と見つめる。


 「でも氷華が何か隠してんのは分かる」


 瑠香は氷華の膝に手を置く。


 「澪のことが嫌いで嫌いでもう大嫌いで。でも、幼馴染で同棲もしてて、言い出しにくい……だから違う男と付き合って澪から強制的に離れようとしてるのならはっきりと言った方が良いよ」


 俺のことが嫌いという隠し事を瑠香は懸念しているのだろう。


 「そんなわけない」


 氷華は否定する。


 「嫌いになるはずなんかない」

 「そっか。それじゃあ隠し事は他のことなんだね」


 うんうんと大きく頷く。


 「まだ言う気はない?」

 「……」


 とりあえず氷華が何か隠しているのは理解した。

 どういったものを隠しているのかは分からない。現状で分かるのは俺のことが嫌いというわけではないということ。

 それしか分からないと嘆くべきか、それが分かると喜ぶべきか。


 「隠すことで何かメリットがあるの? あるから言わないんだろうけどさ。それすらも言えないの?」

 「……」


 自分にとって都合の悪いことは全部黙ってしまう。

 卑怯だが、氷華らしいっちゃらしい。


 「私はね、氷華の力になりたいの。隠し事してんのは見てて分かるし、なんか辛そうだもん。もし、隠し事が原因で辛いのなら相談して欲しい。だって私たち友達でしょ。少なくとも私はそう思ってる」

 「私だって思ってるよ。思ってる!」

 「じゃあ教えて欲しい。それでも言いたくない……私に言い難いことかもしれないね。それなら私の後ろにいる男に相談すれば良い。氷華の幼馴染なんでしょ。ずっと……ずーっと一緒に居たんでしょ。もう二人の間に恥もプライドも存在しないでしょ。それに澪はもう覚悟決まってるらしいから」

 「覚悟?」


 氷華は不思議そうにこてんと首を傾げる。


 「そう。覚悟。傷付く覚悟は決まってるんだってさ。氷華の悩みが例えどんなものであっても受け入れてみせるって意気込んでたよ」

 「ちょ、瑠香!?」

 「黙れ」


 瑠香はクルッとこちらに身体を向けると、からあげを俺の口にぶち込む。

 全く口にしていない言葉をでっちあげられ、その上否定することすら許されないって。

 地獄過ぎる。


 氷華は俺のことをじーっと見つめる。

 あまりの凝視に俺はからあげを食すことすらできない。

 口内にからあげは残り、味が舌に染みる。


 「私のせいで澪に凄い迷惑をかけちゃうかもしれない。ううん。澪には絶対にかけちゃう」

 「……? 良くわかんないけど」


 瑠香はこてんと首を捻る。


 「澪。迷惑かけても良いかな。私のせいで……迷惑かけちゃっても良いかな」


 氷華は瑠香の問いを完全にスルーする。

 真っ直ぐな瞳に真っ直ぐな問い。


 「迷惑……」


 俺はオウムのように呟く。

 そして自分の髪の毛を撫でる。


 「今さらなんだよなー。もうかなり迷惑かけられてるし、ここから何されても気にしないよ」


 あのヤンデレを味わってきた俺からすれば、どんなものであっても些細なものだと流すことができる自信があった。

 人との交流を思いっきり制限されるのに比べればどんなものでも優しいはずだ。


 「ちょっと、私も! 私もいるからね」


 置いてかれたことに気付いた瑠香は俺と氷華を交互に見ながら、慌てたように主張する。


 「瑠香にももしかしたら迷惑かけちゃうかも。大丈夫?」

 「うん、任せて。そういうのは大好物だから。迷惑かけられるのが嫌ならそもそも首なんて突っ込まないし」


 ぶっきらぼうな態度に若干の優しさを感じる。

 本心のようにも思えるのだが。


 「私脅されてるの」


 斜め上の発言が飛び出る。


 「澪と一緒にいるところ写真撮られて、甘えてるところ録音されてて……『俺と付き合わないのならコイツらを世の中にばら撒くぞ』って脅されたんだよ」

 「だから付き合い始めたし、俺とも距離を取ったと。そういうことか」


 やっと理解できた。


 「うん。澪と関わり続けるなら拡散するって。なら私から距離を取った方が良いって思ったんだ」

 「うげぇー、なんだそれ。卑怯だ。最低じゃん。てかさ、氷華はなんで相談してくれなかったの? 私のことそんなに信用ならない? ならないなら私が悪いな……」


 瑠香は氷華の肩を掴みぐわんぐわんと大きく揺らす。

 氷華はぐうの音も出ないという感じでされるがままだ。


 「なるよ。なるよ。だって数少ない友達だもん」


 氷華は揺さぶられながらもしっかりと受け答える。


 ただ疑問も残る。

 氷華は写真を撮られたって構わない。女優なんか捨てても良いと言っていた。

 それくらいの意気込みで本気じゃなかったと言われればそうなんだと納得せざるを得ない。しかし、あの時の氷華は本気の目をしていた。


 「私が世の中で批判されるのは正直どうだって良いの。ってか、今ですらSNSで『鷺ノ宮氷華は性格が悪いから嫌い。キモイ』『鷺ノ宮氷華のキャラうざい。テレビに一生出ないで欲しい。見るだけで吐き気する。好感度稼ぎがキモすぎる』とか書かれてるし」


 瑠香から解放された氷華は俺の表情を見て、そう口にする。


 「凄いね。動じてないじゃん。私だったら精神おかしくなっちゃいそう」

 「反応したら思うつぼだもん。一々気にしてたってしょうがないし。それにこんなの書いてる人なんてどうせ人生充実してないクソニートか外でも家でも居場所のないゴミカスだから。幸せなんて自分の人生からは程遠いから妬みなんだろうなって。そう思うと可愛そうにすら思えてくるよ」


 あまりの達観具合に苦笑してしまう。

 決して良い事ではないのだろうが、この環境に慣れてしまったということなのだろう。

 氷華にとってSNSとはそういうものなのかもしれない。


 「でも、澪が悪者扱いされるのは嫌。許せない」

 「なるほどね」


 氷華の言葉に瑠香は大きく頷く。


 「その写真とか音声が拡散されたら氷華だけじゃなくて、澪も批判の対象になりかねない。だから拡散されたくなかった。相手の要求を飲む他なかったってことなんだね」

 「澪を不幸にするぐらいなら私が不幸になって、全部背負うべきだって思ったの。私の幸せも澪に捧げる。当然かなって」


 あれ。あれれ。

 なんか雲行きが怪しくなってきた。

 嫌われたわけでも、俺のことを見捨てたわけでもなった。良かった良かった……って、いう展開だったはず。

 なんだろうか。

 とてつもない重さの愛を感じた気がする。

 溜まってしまったヤンデレゲージが爆発でもしたのかな。

 俺は引き攣った笑いをすることしかできなかった。

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