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国民的女優とヤンデレ

 俺には幼馴染がいる。

 物心つく前からずっと一緒にいる、俺という一人の人生を語る上で省くことの出来ない重要人物だ。俺という物語においての主要キャラクター。

 幼稚園、小学校、中学校、高校と常に一緒だ。

 それどころか休日の今でさえ一緒である。


 「(みお)くん。みーくん。今日は特別にみーくんのだーいすきなハンバーグと杏仁豆腐を作ったよ。ほら、たーんとお食べ」


 卓上に手の込んだ美味しそうなハンバーグと杏仁豆腐が並べられる。

 流石幼なじみとでも言うべきか。

 鷺ノ宮氷華(さぎのみやひょうか)は俺の好物をしっかりと把握した上で、お腹が空いたなと思う絶妙なタイミングで出してくる。

 阿吽の呼吸じゃないが、熟年の夫婦みたいと不覚にも思ってしまった。


 「ふふ、みーくん今、ラブラブな夫婦みたいだなーって思ってたでしょ。私にはそういうのお見通しなんだからね」


 ふふーんと調子良さそうに鼻歌をうたいながら、氷華はハンバーグにナイフをいれる。

 ナイフを入れた部分からは肉汁がジュワッと溢れ出て、弾ける汁からは香りが飛び出し、鼻腔を擽る。

 そんな魅力的なハンバーグをフォークで突き刺す。

 あまり力を入れてなさそうなのに、フォークは簡単に突き刺さる。

 見た目だけで分かるハンバーグの柔らかさ。

 かなり手が込んでいる。

 仕込みの時間を含めると相当時間がかかったはずだ。

 俺のためだけに作ったハンバーグ。なんとなく複雑な気分になる。


 「ほら、あーん」


 氷華は何度かふーふーとハンバーグに息を吹きかけて、熱を冷まし、俺の口にハンバーグを入れる。

 今どきあーんだなんて過保護だなとか思いつつ、その一挙手一投足は可愛らしい。

 傍から見るだけならば、お金を払うことだって厭わない。

 そう思えてしまう。


 「どう? 美味しい? ふふふ、美味しいよね? 自信作だもん」


 氷華は手のひらに顎を置いて、楽しそうに俺のことを見つめる。

 そんなに見られたら恥ずかしいんだけどなー。


 ちなみにこんな可愛らしい彼女だが、実は俺の幼馴染ってだけじゃない。

 『超』が付くほどの有名人である。

 国民的女優であり、日本国民からは『日本中が求める理想の幼馴染』として認知されている。

 まさに人気女優の肩書きを欲しいままにしている、日本の中心的な役者さんだ。

 女優と言ったら……真っ先に名前が出てくる一人だと言える。

 贔屓目とかじゃない。

 年に一回行われる恋人にしたい芸能人ランキングではここ数年毎回一位を獲得しており、SNSのフォロワーも千万人に到達しそうだし、テレビCMやテレビドラマにも引っ張りだこ。ドラマの宣伝でバラエティーにも顔を出したりしている。

 氷華が主演のドラマはハズレ無しって言われるほどの人気っぷりなのだ。

 昨今はテレビ離れが深刻化しているのにも関わらず、氷華の出演するドラマは軒並み視聴率が良い。

 その上で高校生の本分である学業も疎かにすることなく、しっかりとしているのだから凄い。

 学業一本の俺よりも頭が良いのだ。

 皆が見る鷺ノ宮氷華という女性は完壁という言葉が似合う。完璧イコール鷺ノ宮氷華まである。


 こんな有名人かつ可愛く有能な幼馴染がいると当然ながら、周囲から羨望の眼差しを向けられることが多い。

 実際、こんな幼馴染がいるのなら勝ち組だろう。

 俺が第三者の立場であれば羨んでいるはずだ。


 なぜ、そんな他人事なのかって?

 それはね、理想は所詮理想でしかないんだよって話なんですよね。

 現実はそう甘くねぇーんだよって話ですよね。

 はぁ、なにがって? そう思うでしょ。


 確かに氷華は日本中の人気者だ。

 演技力もあって、顔も抜群に可愛い、それでいてテストも常に上位。

 幼馴染というポジションはとんでもない役得だ。

 数字で現れている以上覆すことは不可能だし、そもそも覆そうとも思わない。


 ただ、そんな彼女が俺にだけ見せる顔がはある。

 このプラスポイント全て無に返すような裏の顔だ。


 「……ねぇ、みーくん。このメッセージの通知の女だれ? 『花織(かおり)』って明らかに女の名前だよね。だれ? ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ! 花織って誰なの? ねぇ、誰なの?」


 鷺ノ宮氷華は国民的『超』人気女優であり、絶望的『超』ヤンデレ幼馴染なのだ。

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