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少女戦士A ~人造人間として改造されるはずが、少女は途中で起きました~

作者: 西玉

 靴が床を叩く固い音が耳朶を打ち、少女は目を覚ました。


「忘れ物しちゃったわ。ええっと、車のキーは……」


 独り言と思われる声は、聞きなれない女性のものだった。暗闇に光りが差し込み、網膜を焼くその強さに、少女は目をしばたかせた。

 霞んでいた視界に、徐々に像が結ばれる。はっきりとしてきた。声の主は、あか抜けない、見知らぬ女性だと知れた。

 その女は、凝然と少女を見つめていた。むしろ、少女の方が恐ろしくなった。


「ど、泥棒?」


 発した自分の声は、自覚している声より掠れていた。風邪だろうか。しかし、原因に思いを馳せるより先に、金切り声が全てを打ち消した。

急ぎ足で歩いて来た女は、悲鳴を発して仰け反っていたのだ。


「……何よ」


 少女が悪態をついたのは、失礼な女が尻餅を付き、じりじりと後退したからでもある。少女にとっては、不愉快この上ない態度だった。


「何よ!」


 大声で言ってみた。女は、四つん這いのまま逃げていった。


「何よ……」


 誰も答えてはくれなかった。


 ※


 女が去った直後のことだった。どこからか、話し声が聞こえてきた。


「あれは研究用のサンプルだぞ。生きているはずがない。その上喋ったなんて、夢でも見ていたのじゃないかね?」

「しかし博士、あれにつなげた生命維持装置はすでに完成した商品ですし、遺体も極めて新しいものを使用したではありませんか」

「それは、腐食が始まる前に生体の細胞と機械との相性をみたかったからだ。あの子の命を永らえさせる目的ではない」


 一人は先ほどの女だろう。もう一人は男の声だった。近づいてきていた。声の主を探ろうと首をめぐらせ、景色が移動していないことに気付く。


「……あれっ?」


 首を傾げたつもりだが、やはり景色が変わらないことに驚く。

 話はまだ続いていた。


「じゃあ、私が見たのは何だったんですか? 声だってはっきり聞いたんですよ。まさかゲイツ博士が、幽霊なんて言い出しませんよね」

「楠木君、少し疲れているんじゃないか?」


「じゃあ、ご自分の目でご覧になって下さいよ」

「そのつもりだよ。折角これから大切な研究の核心に入ろうかというときに、迷信を持ち込まれては適わんからね」


 首がなぜ動かないのかはわからなかった。確かに動かしているし、動いている感じもするのだ。ただ、目に入るものは一切変化していない。

 解っているのは、ここが見知らぬ部屋だということだ。無機的な印象を受けるが、いろんなものが雑然と置かれている。


「ここ、どこだろう?」


 直前の記憶がなかった。目を覚ます前のことを覚えていない。つまり、どうして意識を失うに到ったのか。単に就寝したのか否かでさえ、判断できなかった。

 何でもいいから、情報が欲しかった。せめて、眼球を動かした。その端に、人影を認めた。さほど広い部屋ではなかった。戸口に立つ男女は、明らかに少女を見つめていた。


「なるほど、動いているな」

「はい」

「しかし、死体ですら動くのだ。死後硬直にまつわる研究を知らないわけではあるまい」

「筋肉が収縮することによって、死体が動く現象ですね?」


「うむ」

「それくらいは知っていますが、この場合はそれとは違います」

「どう違うのかね?」

「私のことなの?」


 議論に水を差したようだ。男の方は、大分年を重ねていた。背筋こそしゃんと伸びてはいるが、掘り込まれた深い皺と、真っ白になった髪が、生きてきた歳月を彷彿とさせた。

 その男と、ぱっとしないが十分に成長した女とが、完全に固まっていた。


「楠木君、何か言ったかね?」

「いいえ」

「しかし、女性の声だったぞ」

「私でしょ」

「何か聞こえたかね?」


「はい。かなりはっきり」

「どうして無視するのよ」

「楠木君、わしは幻聴を聞いているのだろうか?」

「いいえ、博士、私にも聞こえました」

「ふむ……ならば、やはり誰かが喋っているということか……」


「そうなりますね」

「あんた達、感じ悪いわよ」

「……認めざるを得んか」

「……しかし、貴重な資料となりますよ」

「この現象が、万人に当てはまると立証できればな」


 目玉が疲れたので、少女は眼球の向きを戻していた。足音が近づいてくる。再び眼球を動かすと、二人はすぐ傍らに立っていた。


「名前を言ってみたまえ」

「なんで?」


 素直に答えなかったのは、二人の態度に不快感を持っていたからだろう。


「自分の置かれた状況が、理解できていないんですよ」

「わかっている。綾野利香だな」


 男の声は、だいぶ上から降ってきた。見上げようとするが、やはりできない。


「どうして私の名前を知っているのよ」

「3日前のことだ。君は死んだ」

「……何を言っているのよ」


「残念ながら自然死ではない。新鮮で傷の付いていない死体のサンプルが欲しくてね。あちこちに手を回したが、ようやく手に入ったのだ」

「つまり……誰かに私は殺されたはずだっていうの?」


「君は知らなかったのかね? ご両親の借金のこと」

「博士、あまり、立ち入ったことは……」

「かまうものか。折角甦ったのだ。死んだ理由ぐらいは教えてやろう。どうせ、直ぐにまた死ぬのだしな」


「私を殺すの?」

「貴重なサンプルになると思うのですが」

「わしが手を下さなくとも、こんな状態で生き続けられるものか。時間の問題だよ。データがとれるまで生かしておいてもいいが、他の研究員が気味悪がるだろうしな」


「気味が悪いのは、私も一緒ですけど……」

「ちょっと、随分じゃない。私のどこが不気味だっていうのよ。それに、『こんな状態』って、どういう意味よ」

「ああ……全く理解できていないようだな。楠木君、鏡を持っているかね?」

「はい、博士」


 小さなコンパクトだった。老人は、女から手鏡を受け取ると、少女の前に差し出した。


「見えるかね? 自分の顔が」

「酷い顔つき」


 どす黒かった。唇は紫に染まり、目は落ち窪んでいた。肌はロウのように張りが無く、髪には埃が積もっていた。


「そうだろう」

「でも……ちょっと待ってよ。私……体は?」


 少女の頭部は酷い顔つきだった。だが、それは些細なことだ。頭部が、頭部だけが、机の上に置かれていることに比べれば。


「ああ。そうだな」


 博士がコンパクトを遠ざけた。より、広い部分が鏡に映し出される。


「無いじゃない。手品?」

「誰を相手にそんなことをするというんだね? 見たままだよ。君の体は、別の場所に保管してある。君が乗っているのは、生命維持装置だ。脳を始めとした体細胞が腐るのを遅らせるのが目的だったが……首だけで蘇生するとはな。まだまだ、人間の生命力には解明できない部分があるらしい」


 ただの机ではなかったのだ。機械が剥き出しになった大型の装置に、少女は乗せられていた。

 首の下から、半透明のチューブが何本も伸びている。対流する液体は、血液の色はしていなかった。


「さっきから、首が動かなかったんだけど」

「首から下の筋肉も骨格も切り離してあるからな。動くはずがあるまい」

「顔に蝿とかとまったら、どうしたらいいの?」

「研究室に蝿などおらん。将来の心配をするほど、長生きできんよ」


 博士は背を向けた。


「ちょっと、私、どうしたらいいのよ」

「どうもしなくていいわ」


 代わりに、楠木と呼ばれていた女が前に立った。


「黙って死んでくれてもいいし、そのまま生き続けてくれてもいいわよ。それ以外のことなんて、どうせできないでしょ」

「ブス」


 つい、憎まれ口を叩いた。女は眼鏡を押し上げ、瞳を細めながら口を開いた。


「元気な死人ね」

「生きているよ」

「だけど、死んだのよ。公式に、紺野利香は存在しない。地球上の、どこにもね。私達は、Aと呼んでいる」

「エー?」


「実験体A。私達の目標は、人造人間を作ること。乱れた世相を救い、出現するかもしれない地球征服を企む秘密結社を叩くためにね」

「まだ、出現していないわけね」

「あなたは、その最初の実験体よ。光栄に思いなさい。たぶん、Eぐらいには実用段階に入れるわ。そのための犠牲になるんだからね」


 女もまた、背を向ける。装置の上に置いてあったコンパクトを拾い上げ、懐にしまう。


「いやな女」


 まだ去ってはいない背に、少女は盛大に舌を出して毒づいた。


 ※


 全く身動きのできない少女を無遠慮に覗き込んだのは、あどけなさを残す色白の青年だった。


「へぇ、凄いですね博士、本当に生きているんですね」


 白人系の青年は、磁器のように白い肌を興奮ぎみに上気させていた。まだ若いが、少女よりは大分年上だろう。


「困りましたね。どうします?」


 発言したのは、別の人間だった。少女の知らない男だ。不潔な印象を与えるぼさぼさ頭の日本人である。最も年老いた男を見つめた。


「どうもせんよ。予定通り研究を始める。一人、生体でいる時のデータ収集をしてもらった方がいいだろうな……楠木君、頼む」

「はい」

「生体ではないときがある、ということでしょうか?」


 日本人が問い返す。風貌とは違い、生真面目な男のようだ。答えたのは博士ではなかった。


「違うわよ。すぐ、生体じゃなくなるってこと」

「ああ……なるほど」

「納得しないでよ」


 少女本人の抗議の声には、誰も耳を貸さなかった。


 ※


 少女は動けない。


「鼻の横が痒いよ。掻いて、掻いて」

「はいはい」

「違う。反対側」

「あなたねぇ、いい加減に死んだらどうなのよ。私には私で、やりたい実験があるのよ。あなたが生きているおかげで、ちっとも捗りゃしない」


 実験体Aの顔を掻いてやりながら、記録係に任命された楠木ミツコがぼやいていた。


「知らないよ、そんなこと。あのゲイツ博士って人に、直接言えばいいじゃない」

「直接言って、『じゃあ生命維持装置を切れ』ってことになっても、いいわけ?」

「よくないよー」


 首だけの少女だが、落ち込んでいても仕方ない。


「このまま完成しちゃったら、私が正義の味方ってわけ?」

「そうなるかもね……技術的な問題は、全てクリアーされているもの。実験を繰り返してデータを集めて、最終的に形にできればいいと思っていたけど……あんた、生命力強すぎなのよ」

「ゴキブリみたいに言わないでよ」

「ゴキブリでも、頭部だけでは生きられないよ」


 男の声は背後から上がった。この研究室に出入りしているのは、博士のゲイツを除いて六人だった。少女は背後を見ることは全く不可能なので、驚いた声を上げた。


「だ、誰?」

「驚くこと無いよ。私よ、私」


 見知った中国人が顔を出す。口ひげと禿頭が印象的な、丸顔の男だった。生体より機械の方が専門らしく、あまり見ない男だ。


「何か用?」

「デザインを考えていたけど、やっぱり本人に聞くことにしたよ」

「デザインって……なんの?」

「ちょっと、気が早くない? この子を使って完成体にする気は、博士はないみたいだけど?」


「事情は常に変わるよ。たぶん、いけるとこまで、この子で行くよ。この子が生きている限り、実験体Bは購入しないよ」

「ふ……ん……」

「二人で話を進めないでよ。私の問題なんでしょ」

「もちろん。で、どんな感じがいいね」


 少女の前に、ノート型のパソコンが開いて置かれた。映し出されているのは、長い手足に華奢な体だ。特徴的ということは無いが、直ぐにわかった。十七年の付き合いだ。


「ちょ、ちょっと、これ、私の体じゃない」


 首から上はなかった。


「画像を取り込んだよ」

「す、スケベ」

「科学のためよ。そんなことを言うために、わざわざ来たわけではないよ」


 少女がいくら抗議しようと、男には通じなかった。パソコンを操り、画面が様相を変える。少女の体に、様々な機械が組み込まれてゆく。


「これは、人造人間化する時のためのシュミュレーションよ」

「気分が悪くなってきた」

「本番はここからよ」


 最終的に、半分以上機械の体になるらしい。


「こんなのはどうかね?」


 体中から、ハリネズミのように銃火器が飛び出した姿が映し出された。


「うわーっ……悪趣味」

「じゃあ、こっちは?」


 角張った装甲に全身を覆われていた。


「折角のプロポーションが台無しじゃない」

「そういう問題かね? では……これでは?」


 体の半身はほぼそのままに、半身が機械剥き出しの体が映る。


「うーん……もっとすっきりならないのかなぁ。なんだか野暮ったいよ」

「人造人間なのだから、そうとわからないと面白くないよ」

「あんな恰好じゃ、海にも行けないし」

「海に行ってなにするね」


「いっぱいすることはあるじゃない。泳いだり、散歩したり……」

「魚を摂ったりかね?」

「それはしないよ。デート」

「どっちにしても、潮風は錆びるから駄目よ。仕方ない、これはどうかね?」


 赤いボディースーツに、胸や腕に武器と思われる装備が付着した姿だった。


「あっ、これがいい。もっとすっきりしていけば、もっといいけど」

「これ以上は無理ね。私にも理想があるよ」

「こんなの、できるの?」


 男の代わりに少女Aの背後に回った楠木は、頬杖をついて画面を眺めていた。


「できなくもないよ。少し、時間がかかるけど」

「どれぐらい?」


 少女が尋ねた。


「君の生命力次第ね。生命維持装置が小さくてもすむようなら、それだけこれに近づいてくるよ」

「うん。がんばる」

「だけど、それだけ私の研究が遅れるのよ」


 背後の声だった。男は笑った。


「博士のご機嫌取りでかね?」


 手にしていたペンが、髭面に投げつけられた。


 ※


 珍しくすべての研究員が揃っていた。


「もう一ヶ月になるのか」

「はい」


 ゲイツ博士が、少女Aから一番遠い位置から、検体を眺めていた。楠木ミツコが資料を手渡す。他、数名の研究員は各々の作業に没頭している。


「……ほとんど変化がないな。このまま行くと、何年も生き続けるかもしれん」

「ほんと?」


 快哉を上げた少女に、楠木は視線だけを送り、博士に戻した。博士は顔を上げもしなかった。


「ご苦労、君も本来の研究に戻りたまえ。これ以上、同じデータをとっても意味がない」

「有り難うございます」

「私の世話は誰がやるの?」

「『世話』って、あんたねぇ……」


「私は犠牲者なんだし、もうちょっと優しい人がいいな」

「近くに居る人間に声をかけたまえ。この研究は部外秘だから、君の顔を洗うために人を雇うわけにはいかんのだ」


「実験だか研究に、協力してるじゃない。結構疲れるのよ」

「君は、金で売られたんだ」

「人権侵害で訴えるわよ」


 博士は、黒いコードを持ち上げた。


「なんだかわかるか?」

「知らない」

「生命維持装置の電源だ」

「ど、どうする気?」

「どうもしないさ。大人しくしていればな」


 手から離す。コードが落ちた。博士は背を向け、作業を続けるように皆に言い置いた。


「恐かったー」

「ねっ、ああいう人よ」


 楠木が、若干同情気味に話し掛けた。


 ※


 若い白人の研究者、ロバート・ホーエンは、少女Aを生かしている生命維持装置に、別の機械を接続した。その上に乗っていたのが、白い少女の腕だった。


「へぇ……それ、私の手?」

「はい。ずっと同じ状態で生かしてありますから、生前と変わりません」

「『生前』って……私は、一度も死んでないったら」

「ああ、そうでしたね」


 金色の柔らかそうな髪を掻き毟りながら、複雑な配線を続けていく。


「生前のままなら、くっつけても意味無いんだよな」


 汚らしい容貌の日本人、猿木渡が側で愚痴を言い続けている。


「まあまあ、これも実験です……これでよし。動かしてみてください」


 ロバートは、少女を振り返った。


「どうすればいいの?」

「『どう』って……前と同じですよ。普通に動かすような感じで……」

「あっ、動いた」


 離れた装置の上で、白い手が開閉した。


「何だか、変な感じ」

「そんな腕なんか、役に立つものか」


 猿木が別の腕を持ってきた。厳つい腕である。金属的だ。いかにも、サイボーグっぽい。


「これを繋いでみろ。ブロック塀ぐらい、木っ端微塵だ」

「いやだよ、そんなの。恰好悪いもん」

「この研究所は、ただ死体を復活させるためのものじゃないぞ。元の体に戻すことが目的じゃない。繋ぐぞ」


 生の腕と繋いだ配線を抜こうとする。


「ちょっ、ちょっと待ってください。データをとりますから」

「ふん。早くしろよ」

「偉そうに」

「俺のほうが先輩なんだよ」


 首だけの少女に、猿木は食ってかかった。


「年取ってれば偉いとでも思ってるの?」

「何を!」

「まあまあ、猿木さん……これでよし。繋げてください」


 ロバート自ら配線を抜く。


「痛くないね」

「そうですか。痛くないのか……うん、これも貴重な意見だ。やっぱり、生体のほうが研究も捗りますよね」


 にっこりと微笑むロバートだったが、実験体である少女は複雑な顔をしていた。


「お前の研究が捗ってくれれば、俺の研究にも役立つからな」


 猿木も今度は否定しない。


「研究者って、みんな一緒ね」


 ロバートは、困ったように黄色い髪を掻いた。


 ※


 ちょっとした休憩時間だろうか。研究者達は、ゲイツ博士を囲んで語らいながらコーヒーなどを啜っていた。少女の生首の、目の前である。


「五体はほぼ完成が見えてきましたが、頭部だけ生身というのはいかがなものでしょう」

「ふむ……しかし、迂闊には決められん。自立思考型にするか遠隔操作型にするかの違いは、天と地ほども違うからな」


 本人の前でする話ではないと思いつつ、少女はつい欲望を口にした。


「私もコーヒー飲みたい」

「喉が渇いたの?」


 解任はされたが、他に誰も任命されていないので、現在でも世話役を行っている楠木が尋ねた。


「うん」

「どこに喉があるのかしらね」

「意地悪」


 あったはずの場所は、どこかにはあるのだろう。ざっくりと切断されている。頭の下に無いことだけは確かである。


「我慢したまえ」


 珍しく、博士が直接少女に声をかけた。普段は、全く人間としては扱っていないため、話し掛けるということは皆無だったのだ。


「今の状態で飲み食いなどして、それがどこに行くと思うね」

「そりゃ……」

「生命維持装置は高価なのでね。生ゴミなんかをつっこむつもりは無い。悪くすれば、それによって君は二度と目を覚まさないかもしれん」


「だってぇ……」

「腹が減るわけではないのだ。嗜好品ぐらい我慢したまえ」

「ふん」


 少女はあらぬ方を向こうとしたが、残念ながら顔が歪んだだけだった。


「博士、さっきの話あるが……」


 強引に、中国人の張珍腱が話を戻した。


「当初の予定では、遠隔操作のはずだったね。私、自立思考型のロボットなんて、信用しないよ」

「その頃とは、事情が違いますよ」


 口を挟んだロバートに、博士はうなずいた。


「生命維持装置を導入したのは、細胞を新鮮な状態に保って、人工部分との相性をみるためだった。しかし、脳が活動を停止せず、自我も記憶も保った状態で復活するとは、全くの予定外だった。遠隔操作では、複雑なミッションに臨んだ時に、対処に問題がある。理想は自立思考型だ。機械に思考を持たせるのを危惧する君の考えはもっともだが、あれは人間だった記憶がそのまま残っているからな」

「『あれ』って、私?」

「少し黙ってなさい。重要な話をしているんだから」


 楠木に言われ、少女は舌を出して威嚇した。


「あれが、複雑なミッションをこなせるようには見えないあるよ。平和ボケした日本人の典型みたいな子どもよ」

「あーっ、また人のこと『あれ』って呼んだ」

「私も張さんに賛成ですね。理由は少し違いますが……」


 少女の声は無視され、言葉を続けたのはミラード・ユリセス研究員だった。黒人の女性で、背が高く理想的なスタイルをしている。


「今の状態は、一時的なものでしょう。いつ動かなくなるとも知れないのに、生体の脳を使用することを前程に完成させて、もし動かなくなったらどうするんです? 少なくとも、実験体Aに関しては破棄するしかなくなります。それなら、始めから遠隔操作を基本に考えるべきです」

「いつ活動が停止してもおかしくない生首が、既に半年以上生きているのはどう説明する?」


 博士の顔色は変わらない。下っ端の研究員がいかに反論しようと、動じる男ではないようだ。


「今までは、脳に対する研究までは手を出していませんでした。しかし、このまま完生体に近づけようとすれば、脳に直接アクセスする機会も増えてきます。その過程で、動きが止まる可能性はかなり高いと思いますが」

「そんなことないよ。私、頑張るもん」


 遠隔操作が決定されたら、少女は自我を抹消されるのだと気がついていた。


「実験体Bが……」


 博士が話し出すと共に、一同が黙った。博士は続ける。


「どんな状態で手に入るかわからん。Aの脳も、一度活動を停止すると、復活することはないだろう。貴重なデータになる。自然に停止するまでは、生かしておく」

「わーい」


「すぐに実験体Bに移るかどうかは、その段階で決める。早く停止してくれれば、遠隔操作の研究を開始することもできるだろう」

「……喜ぶんじゃなかった……」


 少女は無視されたまま、研究員達は活動を再開した。


 ――さらに、半年後のことである。


 生前名、綾野利香、通称実験体Aは、少女戦士Aとして床を踏みしめた。半機械と化してはいても、それは自分の足だった。


 ※


 第2の生地とも言えるゲイツ博士の研究室で、少女は両の拳を開閉させた。


「凄い……ちゃんと動く」

「当たり前でしょ。一流の研究員が作ったんだからね」

「これ……私の手だよね」


「半分はね」

「半分って、どういうこと?」

「両腕とも君の腕だ。ただし、筋力を増し、他の機能を追加するために、パーツを新しいものに変えた部分がある」


 研究室に、白髪の老人が現れた。


「ゲイツ博士……」


 頭は白く深い皺が刻まれていることを除き、年齢を感じさせない男だった。その背後には、5人の研究員が続いた。


「あいやーっ……もう起動したね。なぜ私達が来るまで待たなかたよ」

「そんなに感動的なことでもないでしょう」


 一見して中国人風の顔をした男に、先にいた唯一の研究員、楠木ミツコが向き直った。


「研究の一段階に過ぎないんだし」

「しかし、節目ではあるな」


 軽く手を上げて、博士が2人を黙らせた。少女の前まで歩を進める。身長は高くなく、視線が少女と交錯する。何かを言おうとして口を開けた少女のまぶたを摘み、めくり上げた。


「ちょっと、何をするの?」

「生体部分の反応はどうだ?」

「今のところ、拒絶反応は見られません」

「ふむ……娘の体質か、新しい素材の成果か……」

「その素材を作るのに、どれだけ苦労したか」

「実験体を増やしていかないと、判断できませんね」


 口論を始めた研究員達は無視して、博士は少女の眼球を覗き込んだ。


「脳は?」

「順調です」


 言いあっていても、ゲイツ博士の問いには誰かが必ず答えた。それが、博士の研究所での立場というものだろう。


「機械に圧迫されている様子もないのか?」

「本来はあるのかもしれませんが、自覚はないようですね」

「大丈夫だよ」

「しばらくは経過観察だな」

「はい」

「私は、何をすればいいの?」


 博士が、少女の顔から手を離した。鼻やら耳や頬を撫でたりつねったりしていたのだ。


「研究員の目の届くところにいればいい。壊れる瞬間を見逃されんようにな」

「……相変らず、感じ悪い」

「実験体に好かれても嬉しくは無いのでな」


 きびすを返した。


「観察は頼むぞ。ミツコ君とロバートでやってくれ」

「「はい」」


 他の研究員達は、めいめいに自分の研究を再開する。


「私のこと、道具としてしか見てないのね」


 頬を膨らませた少女に、楠木は眼鏡の奥の細い目をわずかに歪ませた。


「そうでもないわよ。あのゲイツ博士があんな冗談言うなんて、あなた、大分気に入られているみたいよ」

「冗談? 言ったの? いつ?」

「言ったわよねぇ」


 首の後ろで縛った髪を振り、首を捻じ曲げる楠木の視線の先には、まだあどけなさの抜けない真っ白い顔をした青年がいた。


「そうですね」


 穏やかな微笑を見るに、本当のようだ。


「あんまり入れあげるなよ。どうせ、近いうちに壊れるんだ」


 足を止めずに通過していった不潔な頭をした猿木研究員に、少女は盛大に舌を出し、自分の頬を両手で摘み、横に広げた。その所作ができること自体を楽しんでいたのだ。


 ※


 体各所が自由に動くことを確認すると、少女は記録係の二人に要望を述べた。


「外に行きたい」

「その恰好で?」

「えっ?」


 始めて自分の体を眺めたわけではないが、頭だけだった時を考えれば、どうでもよくなっていた。裸だった。ただし、皮膚が占める面積は、半分にも満たない。もう半分は、機械部品がはみ出していた。

 見回して、少女は絶句した。楠木ミツコとロバート・ホーエンは、顔を向け合ってしかめあった。


「これ……本当に私の体なの?」

「あー……うん。間違いない」


 ロバートは、気の利いた台詞を探し、結局見当たらなかったらしい。


「できるだけ、元の体を残そうとはしたのよ。でも、今の私達の科学では、それが限界なのよ」

「……わかっているよ」


 自分で思っていたより、小さな声だった。うつむき、下を向いたまま、顔を上げられなかった。


「僕達の技術力の全てを注ぎ込んだんだ。気に入らないのは仕方ないけど、我慢してくれよ」

「ううん……ありがとう」

「服を着てみる? 体の線が出るようなものは無理だけど、少し厚手のものなら、目立たないと思うけど」

「つまり、今……私は裸なんだよね」

「そうなるわね」


 顔をわずかに上げ、上目遣いで、ロバートの白い顔を見つめた。


「エッチ」

「い、いや、そんなつもりは……」


 白皙の研究員が紅潮して背を向ける。楠木は苦笑しながら、自分のまとっていた白衣を少女にかけた。


「まっ、仕方ないか。本当は死んでいたんだもんね。贅沢言ったらきりがないし、博士に電源落とされちゃうもんね」


 明るい口調に変え、少女が伸びをした。白衣の前が割れ、楠木は慌てて男子研究員達の目から隠す。


「どうしたの? 私、さっきからずっと裸だったんだよ。今さら隠したって、意味ないじゃない」

「そ、そうよね。裸だったのよね。それなら……少しは恥らいなさいよ」

「へーぇ。そんなこと気にする人だったんだ」

「当たり前でしょ」


 少女はしばらく忍び笑いを漏らし、楠木女史を憮然とさせた。


「よし。じゃあ、出発!」


 びしっと腕を上げると、肩の部品がカチャリと鳴った。


 ※


 人造人間を作ろうというだけあって、研究所は広大だった。たった6人の研究員で賄っているのが、不自然なほどだ。


「疲れたーっ」


 白い壁に覆われた廊下を歩くうちに、少女は盛大に音を上げた。


「まだ、ろくに歩いていないじゃない」


 実際には、研究室から出て10メートルほどだ。


「仕方ありませんよ。一年以上、筋肉を使っていないんです。本来なら、歩くこともできないはずです」

「あっ……じゃあ、私って凄いんだ」

「私達の研究の成果よ」

「体だって、生身より5倍は重くなっているんだし」

「それを補助するために、かなりの研究費が費やされたわね」

「休もうよーっ」


 気がつくと、楠木とロバートは議論を重ねていた。足を動かしたままだ。少女を置き去りにしているのだ。


「ああ、忘れていた」

「ごめんさい」


 駆け戻ると、少女は廊下の中央に座り込んでいた。


「しばらくは、リハビリだね」

「えーっ。やだよ。面倒くさい」

「仕方ないでしょ。体に慣れるまでの辛抱よ。生身の部分と人工の部分と、どういう作用が生じるのか、私達にもわからないもの」


「あーぁ……外に出たいなぁ」

「そのうち、嫌というほど出られるよ」

「それまで、生きていればね」


 手を差し伸べた楠木に、少女は舌を出した。


 ※


 まだ、研究所の敷地からは一歩も出たことが無かった。広い敷地を取り囲む白い壁が、世界の全てだった。


「ふーん……明日は晴れかぁ」


 テレビを見ながら、少女は煎餅をかじっていた。食べたものは消化されない。後で腹から取り出すのだ。研究所内の休憩室でのことである。


「天気が気になるのかい?」


 色白の研究員、ロバート・ホーエンがお茶を入れた。


「冗談でしょ。気になるはずないじゃない。言ってみただけ」


 休憩所には2人きりだった。少女は休んでいたが、そもそもすることがないので、休んでいるといっていいのかはわからない。

 ロバートは観察係である。少女は厚手のセーターをまとっているが、その骨格が不自然に盛り上がっていることは、隠しようもない。


「外に出たいんじゃないかなって思ったんだけど……」

「出られるの?」


 少女の声音が、一オクターブ跳ね上がった。


「そろそろ、少しずつ出てみたほうがいいんじゃないかって、楠木さんが博士に言っていたけどね」

「博士次第?」

「そうだね」


 乗り出した身を、少女は椅子に投げ出した。急に会話に興味がなくなり、意識をテレビのリモコンに移した。チャンネルを変える。


「期待できないなぁ」

「どうしてそう思うんだい?」


 背後に立っていたロバートが、少女の隣に座った。柔らかいソファーである。


「だって……あの博士、私のこと嫌っているもん」


 頬を膨らませて、少女はテレビのリモコンをテーブルに投げ出した。


「そんなことないよ。貴重なサンプルだって、いつも言っているし」

「人間扱いしてなーぃ」

「それは……そうだね」


 ロバートは笑みを作ったが、少女は口をとがらせた。


「いらなくなったら、すぐ壊されちゃうんだ」

「そんなことないさ。実験体はただじゃないんだ。高い買い物なんだよ。君の両親に幾ら渡ったか……あっと、ごめん」


 両親は、少女がまだ生きていた頃から、少女を売ったのだ。涙目で睨み付けられ、ロバートは自分の口を塞いだ。


「でも、ほら、実験体としてしか見ていないから、研究に役立つと思えば、博士は何でもしてくれるよ」

「……そぅかもね」


 一度損ねた機嫌は、少女の思惑とは別に、なかなか直らなかった。ロバートは失言を後悔し、助けを求めて首を巡らすが、どこからも現れなかった。少女を一人きりにすることは禁止されているようだ。しばらく、気まずい沈黙が続いた。


 ロバートが口を開きかけ、閉じる。少女はうつむいたままだった。それを数度繰り返した頃、休憩室にけたたましく駆け込んできた女性がいた。黒ぶちの眼鏡をかけ、長い黒髪を首の後ろで結んだ日本人、楠木ミツコだった。


「ああ、楠木さん」


 ようやく現れた救いの神である。


「どうでした? 博士はなんて?」


 立ち上がり、ロバートが駆け寄るように近づいた。


「どうしたのよ」

「いえ。何も」


 楠木はロバートをちらりと見ると、少女に目を移した。半べそをかいている。


「ま、いいけどね……ねぇ」


 少女に呼びかけた。自分を呼んだ楠に、少女は顔を上げた。期待は裏切られる。何度も経験したことだ。すぐに視線を床に戻した。


「外出するから、準備して」

「ほんと!」


 目を見開いて立ち上がった。飛び跳ねるように、のつもりだった。本人の感覚とは別に、実際には、ゆっくりと各関節が連動した。生身の筋肉のみが急激に動き出そうとした結果、体中を激痛が襲い、少女は声もなく天を仰いだ。


「おい! 大丈夫かい!」


 ロバートが駆け寄る。少女は天を仰いだ姿勢のまま、ゆっくりと前のめりに倒れるところだった。抱き留められる。しかし、ロバート青年には重かったようだ。


「生きているの?」

「はい。動けませんが」


 少女の下敷きになったロバートは、硬直した体を支えようとして、さらに失敗した。


「貴方じゃないわ。実験体よ」

「……わかりません」

「生きているよ」

「よかった」

「でも……体が動かない」

「待って。すぐにチェックする」


 かがみ込んだ楠木は、少女の服をめくり上げた。


「ちょっと、楠木さん」

「なに?」

「こんな状態で……」


 服をめくり上げられ、半裸である。


「なに言っているのよ。重くて動かせないんだから仕方ないでしょう。それとも貴方、こういう状態の実験体に欲情するとでも言うの?」

「い、言いませんよ」

「私の羞恥心は?」


 当の本人が無視されていた。


「そんな場合じゃないでしょう……装置に異常はないわね。問題は筋肉よ。それと、筋肉と機械の結合部分」

「直る?」

「たぶんね。だけど、修理する必要はないわ。マッサージでもした方がいいわね」

「じゃあ、放っておいても動けるようになるんじゃないですか?」


 相変らず動き取れず、ロバートが眼鏡の位置を直した。


「そうね。急に動いたりするからよ。一応博士に報告しておくから、ごゆっくり」

「ちょっと、楠木さん!」

「いいじゃないの、たまには」

「せめて、服を戻して下さいよ」


「駄目。いい刺激よ。二人とも」

「どういう意味ですか。君も何か言ってくれよ」

「私、どうせ動けないもん」

「じゃあね」


 折り重なる2人をそのままにして、楠木ミツコは足早に出て行った。


 ※


 少女は、新しい体になって初めて、直接外の世界を見ていた。


「ニュースは見た?」


 大型のワゴン車の中で、楠木は少女に向き直った。少女は楠木を向いていなかった。

積み込まれた機械装置の隙間から、必死に外を覗き見ようとしていた。ロバートは少女の様子を、苦笑を交えて見つめていた。


「どのニュースです?」


 あまりに少女が熱心なので、変わりにロバートが応じた。


「銀行強盗」

「ああ……確か速報で流れていましたね。アブラナ銀行のダイコン支店でしたか。確か……犯人は、逃げ損ねて立て篭もったんでしたっけ」

「よく知っているわね。研究にもっと集中なさいよ」


「仕方ないじゃないですか。この娘がテレビを見ていれば、僕が一緒に見ることになりますよ」

「じゃあ、大体のことは把握しているわね」

「……んっ? 何のこと?」


 自分に声がかかったのが気になった少女が、首を捻じ曲げた。


「聞いてなかったの? 銀行強盗よ」

「これからしに行くの?」

「そんなわけないじゃない!」

「よかった。私、悪の組織にいるのかと思っちゃった」

「あんたねぇ……」


 ロバートが楠木の袖を引いた。


「なによ!」

「最近落ち込んでいたんです。あまり刺激しないで下さい」

「ふん……随分仲のいいこと」


 何も返さず、ロバートはただ頭を掻いた。少女は全く気にした様子もなく、楠木に背を向けたままだった。

 もう一人、ワゴン車を運転していた女性が口を挟んだ。研究員の一人で、エスペード・サマンサというのがその名前だ。主に機械系の研究者で、生体系に重きを置くロバートや楠木とは、一線を画している。


「実験体に特別な感情を抱くのは止めたほうがいいよ。どうせすぐに廃棄されるんだ。ロバートが死体愛好家で、要らなくなったら引き取りたいっていうんなら、話は別だけどね」


 外見は色白で丸縁の眼鏡をかけた中年の女性だが、その口調はあまりにも突き放していた。


「私の好みは聞かないわけ?」

「事件の説明をするわよ」


 少女の問いは、見事なまでに無視された。


 ※


「なるほど。銀行強盗犯が4人。人質が20人というところですか。警備員は締め出されて、死傷者は出ていない。銀行強盗は素人ですね」

「素人かもしれないけど、武器は持っているわ」


「ナイフですか?」

「銃よ。立て篭もってから既に4時間が経過している。色々な意味で、限界が近いと思われるわ」

「どこでそんな情報を仕入れたんです? 警察関係者でも、そこまでは把握していないでしょう?」


 移動中のワゴン車の中で、研究者達は真剣な顔を寄せ合っていた。


「ゲイツ博士よ。申し入れが政府に受諾されたんだって」

「申し入れって……」

「言わなくてもわかるでしょ」


 二人の視線が、小さな背中に注がれた。いまだ窓に張り付き、流れゆく風景に嬌声を発している。


「いよいよ、本格的に計画が始動したということですかね」

「今日が記念すべき第一の現地実験になるかどうかは、まだわからないわ」

「でも、進歩には違いない。これから、忙しくなるかもしれませんね」

「私たちはずうっと忙しいわよ」


 運転席からサマンサが口を挟んだ。まるで、ロバートと楠木が暇だといわんばかりである。


「そんな言い方って……」

「ミツコ、運転代わって」


 信号待ちをしていたところだった。突然のことに、楠木は慌てて助手席を跨ぎ越した。


「私、こんな大きな車、運転したことないわよ。ちょっと、ハンドルが左側にあるじゃない」

「同じだよ。ほら、信号が変わるぞ」


 運転席の背もたれを跨ぎ越して、サマンサが少女の前に座った。ずっと窓から景色を眺めていた少女は、胡散臭げに身を引いた。研究者達の担当がより機械部門に特化されればされるほど、自分を人間扱いしないような気がしていたのだ。


「ロバート」

「なんです?」

「こっちを向くな」

「はい」


 サマンサは、無造作に少女の衣服を剥ぎ取った。手馴れたというより、遠慮の無い手つきだった。やや大きめのブラウスが破れかかったが、お構いなしに引っぺがした。


「ちょっとぉ……」


 抗議の声など聞いていなかった。尻のポケットから小振りの板チョコのようなものを取り出すと、幾つかのボタンを連続で押した。


「えっ?」


 少女の肌を突き抜けた機械装置が、高らかな金属音を立てた。澄んだ音をたて、膨らんだ部分に、銃口が現れた。


「なにこれ?」


 サマンサがさらにボタンを連打する。片腕が勝手に持ち上がり、ロバートの後頭部に照準を合わせた。


「ロバート! 伏せろ!」

「はっ?」


 何事かと振り向きながら、白人の青年が座席からずり落ちた。運転席の楠木がブレーキの間隔を誤り、急停止したのだ。それがなければ、ロバートは死んでいたかしれない。

 車の中に、轟音が轟いていた。


「生きている?」


 楠木が声をかけた。バックミラーを調節している。振り返る余裕はないらしい。


「何とか……」

「ロバートじゃないわよ。外、外」

「えっ……あ、はい」


 車の扉を突き抜けた弾丸は、幸いにもアスファルトに突き刺さっていた。


「やっぱり、遠隔操作は難しいな。実戦で試すには危険が大きすぎる。ちっ、事前に何度か試せればな」

「ちょっとお。この人死んじゃうとこだったんだよぉ」


 事実上非合法の銃弾は、ロバートの頭上5センチ上を通過していた。真っ白い顔色が、さらに血色を失っていた。


「研究に危険はつきものだ」


 サマンサは青年の方を見もせず、平たい装置を半分に折り曲げた。破壊したのではなく、折りたたみ式らしい。


「まあ、また機会はあるだろう」

「ない。きっとない」


 少女が強く言い切った。サマンサは全く聞く耳を持たず、車内の後部に移動してゆく。無視しているというより、少女に対し興味を失ったようだ。積み込まれた大型の装置に向き直った。


「ねぇ……大丈夫?」


 ようやく座席に這い上がったロバートを、少女が覗き込んだ。


「ええ。まぁ……珍しいことじゃありませんから」

「よく、今まで生きてこられたね」

「うん。自分のことだけど、運が良かった。それより、服を着てくれよ」


 上半身を脱がされたところは、肉体と機械装置が五〇対五〇の割合で覆っている。肉体部分も、本来の機能を取り戻しているわけではなく、表面に張り付いているにすぎない。それでも、ロバートは赤面していた。その様に、少女ははにかみながらブラウスを羽織った。破れかけているが、服としての形を失ってはいなかった。


「まだですか?」


 ロバートが覗き込むと、運転席の楠木ミツ子は緊張して震えながらハンドルを握っていた。


「だいたいここらへんだと……あっ、あっちか……」


 警官隊が群れを成している一画があった。


「じゃあ、端に止めてください。きっと、警官の方で気付いてくれますよ」

「そうね。ねぇ……ロバート、どうしよう」

「どうしたんですか?」

「私、免許まだとっていないのよ」


 無免許運転である。


「問題ありませんよ」

「そう?」

「軽い罪です。銀行強盗に比べれば」

「そ、そうよね」

「この事件を無事解決すれば、きっと見ないふりをしてくれますよ。警察だって」

「そうね。もし……失敗したら?」

「犯人に仕立て上げるかも」


 口を挟んだ少女をロバートが振り返る。車が路肩に止まった。


「そう思うかい?」

「うーん……」

「じゃあ、絶対に失敗できないわね」


 楠木が緊張した声でシートベルトを外し、余計なことを言ったと少女は自分の口を塞いだ。


 ※


 事件が起こったアブラナ銀行ダイコン支店の前は、警官隊で溢れていた。鋼鉄の盾で垣根を作り、それ以上の人垣が押し寄せていた。


「ああ……懐かしい排気ガスの臭い」


 車から降りた途端、少女は両足を踏ん張り、両手を一杯に伸ばした。実際に伸びていたのは右半身のみで、左半身は奇妙な機械音を立てて引きつるような動きをしただけだった。


「日本人は奇妙なものを懐かしがるんですね」

「この子だけよ。いやね。現代教育の歪みだわ」

「おばさん」


 聞こえないように小さな声で呟いた少女だったが、そのすぐ後ろには、慣れない運転でかいた冷や汗を拭きながら、当の楠木ミツ子が立っていた。

 重い咳払いに縮み上がり、少女がちらりと背後を見やるが、楠木は表情を変えず、軽く少女を無視した。


「あの人、怒っている?」


 肘をつつかれても、ロバートは返答に窮した。その間にサマンサが警官隊に交渉に行っていた。しばらく押し問答を続けていたが、最終的に英語でまくし立て、しばらく待たされた挙句、捜査本部と思われるテントに通された。


 本職の警察官たちに好奇の目で見られ、少女は自らのいびつな体を隠すようにロバートに寄りかかりながら歩いた。体の左右で重量があまりに違うので、一人では満足に歩くこともできないのだ。

 捜査本部の天幕に通され、少女はいきなり注目の的となった。


「これが正義の味方か?」


 警察官達はいずれも大きな体をしていた。少女を見下ろす男達は、いずれも無遠慮に少女の全身を眺め渡していた。ますます小さくなり、少女はロバートの背中に隠れた。


「私のこと、知っているの?」


 耳打ちされたロバートは、首をくゆらせた。


「多分ね。だって、協力に来たんだから」

「そうだよね」


 パイプ椅子を勧められ、それに腰掛ける。安い椅子が、少女の重さで軋んだ。機械の補助がなければ、自力では指を動かすことさえできないほど、少女の体は重い。


「いずれ働いてもらうかもしれないが、それまではゆっくりしていてくれ」


 知らない大人にそう言われ、注がれたお茶を不安げに見下ろした。


「お茶なら大丈夫。飲んでも冷却装置に送られるから」

「うん」


 沸騰寸前のお茶でも、少女の中で動いている機械にとっては冷却に役立つらしい。もっとも、問題はそこではない。少女は猫舌だった。

 警察官達はすぐに興味の輪を解き、元いた場所に戻っていった。銀行内の監視カメラや、周囲の状況をモニターしているらしい。情報を集め、対策を協議していた。


「それで、この子には何ができるんだ?」


 また一人、知らない大人が話し掛けてきた。少女の代わりに応えようとしたロバートを、サマンサが遮った。


「首から上は生身のままです。脳はいじっていませんから、人間と同じように思考できます。右半身は体を動かすための最小限の装置に留め、生命維持を始めとした様々な機能は左半身に集中してあります」


 事務的に、きびきびと説明してゆく。機械部門を主に担当していた研究者のサマンサにしてみれば、説明したくて仕方が無かったのだろう。


「その『様々な機能』を知りたいが」

「はい」


 少女が驚いて目を見張った。それほどの笑顔をサマンサは作り、少女に与えられた様々な特典について語り始めた。360度モニターやら記憶機能やら、通信機能や遠隔操作まで。


「私って、人間じゃないみたい」

「そんなことないさ」


 最近楠木ミツ子が冷たいので、話し掛けるのは専らロバートになっていた。


「でも、『人間と同じように』って言われたよ」

「うん……それは、言葉のあやさ」

「やだな。便利な道具って」


「もっと研究が進めば、自由に外出だってできるし」

「どれぐらいかかるの?」

「そんなにかからないよ。5年もかからないかも。ゲイツ博士の研究所以外にも、技術の進歩はしているんだ」

「5年?」


 少女が絶望的な声を出したので、ロバートは言葉を詰まらせた。2人が話している間に、サマンサの説明が終わったらしい。その警察官は、少女の前に仁王立ちした。


「しかし、先ほどから見ていると、一人では歩くこともできないではないか」

「そんなことはありません」

 サマンサがロバートを押しのけた。少女に向き直る。

「さあ、立って見せて」

「えっ?」

「あんたが自力で立って歩けるって、証明して見せなさい」


 口をへの字に曲げて、少女はサマンサを見上げた。


「どうして私が一人で立って歩けるって思うのよ」

「歩けるんだよ」


 凶悪な人相を作ると、サマンサは白衣のポケットに手を入れた。そこに何が入っているのか、少女は知っていた。


「キャッ!」


 抵抗はできず、左足が勝手に地面を叩いた。股に仕組まれた歯車が尻の肉を押し上げ、背筋を無理やり矯正した。


「止めてよそれ。気持ち悪いよ」

「なら、自力で歩いたらどうだ」

「自分達の研究が不出来だからって、私のせいにしないでよ」

「減らず口を叩きなさんな。だから、自立思考型には反対だったんだ」

「ひどい!」


 少女の体が、勝手に歩き出していた。左足に連動し、右足に多く残された筋肉に電気信号を送り込み、左右の足を順番に動かす。重心の移動により、進む方向を変える。


「いかがですか?」


 笑顔で振り返ったものの、2人のやり取りを一部始終聞いていた警察官は、いささか顔を曇らせた。


「犯人も腹が減る。出前を届ける危険な役目をやってもらうのに、変装した婦人警官を使うのは気が重かったところだ。しかし……この子は民間人だろう?」

「いいえ。人ではありません」


 サマンサは言い切った。今だにぎこちない行進を続けていた少女が、めいっぱい首を捻ってサマンサを睨み付けた。


「遠隔操作ではなく、自立思考というだけです。調べてもらっても結構ですが、この子は日本のどこにも存在はありません」

「ふぅむ。よかろう。少し待ちたまえ。犯人から要求があったら知らせる。私は少し、上の者と話してくる」


 警察官が去る。見送らず、少女は唇を震わせていた。ロバートは急いで前に回りこみ、左の股に触れて動きを止めた。電源のスイッチでもあるらしい。すぐに椅子を用意しようとしたが、その肩を少女が掴んだ。


「人じゃないって言った」

「そんなことはないよ」

「言ったもん」

「……うん。言ったね」


 ロバートも誤魔化せなかった。サマンサは気づかず、警察官に続いて出て行ってしまった。


「でも、本気じゃないよ。研究が認められるために、皆必死なんだ。それより……ほら! 一人で立っている。ひょっとして、本当に歩けるんじゃないか?」

「どうせ、歩けたって仕方がないよ」

「できてもできなくても、やらされることは一緒なんだ。だったら、自分の意思でやったほうが君もいいだろう?」


 少女はなかなか動こうとはせず、ロバートは気をもんで、パイプ椅子を手に走り回った。少女がどの方向に倒れても、すぐに支えられるようにするためである。

 しばらく唇をとがらせていた少女だったが、ロバートの懸命な姿に、つい口元をほころばせた。


「大丈夫だよ。そんなに簡単には転ばないから」

「えっ? だって……」


 少女は片足を動かしながら、重心をやや前方に移動させた。次に、その足を軸に、もう片方を送り出す。歩いて見せたのだ。先ほどサマンサに無理やり歩かされたのより、よほど自然な動きに見えた。


「どうしたんだい? 急に」

「わかってたんだけどね。歩けるってことは」

「だったら、なんで……」

「貴方に甘えたかったんでしょ」


 背後から突然言われ、ロバートは飛び上がった。


「ミツコさん! 今までどこにいたんですか」

「怒られていたのよ。無免許運転だものね。仕方ないわ。あの運転じゃ……警官の目は騙せないわよね」

「そんな車に乗せてたの? 恐いよぉ」


 ロバートの背後で、少女が舌を出していた。楠木が無言で顎をしゃくり、ロバートが反応して振り向いたため、舌を出した少女と向き合った。


「どうしたんだい? うん……心配しなくても、異常はないと思うよ」


 出された舌を覗き込んで、真面目な顔でロバートは告げた。

 ロバートは生体部分を扱う専門家なので、人体や健康状態の確認は慣れたものだ。舌を見ただけで、様々なことがわかるらしい。もっとも、今の少女に常識的な医学の知識が役立つという保証は無いが。


「あ、ありがと」


 突然診察をしてくれたことを、少女も気づいた。慌てて舌をひっこめると、ロバートの背後で、今度は楠木が大仰に肩を竦めて見せた。


「それより、少し休んだ方がいい。急に動いたんで疲れただろう。向こうの椅子まで歩けるかい?」

「歩くのはできるけど……やってみる。うわっ」


 方向転換が上手くいかなかった。180度向きを変えようとして、バランスを失ってひっくり返った。下は土だが、倒れた場所はもっと柔らかかった。


「ロバート、大丈夫? 生きている?」

「は、はい」

「ひどい。私、そこまで重くないもん」

「重いのよ。速く退きなさい。ロバートの背骨を折る気」

「だ、だって……」

「う、動かないで。潰れる」

「サマンサを呼んでくるわ」


 幸いにも、ロバートの背骨が折れる前に少女が立ち上がることに成功した。


 ※


 近所の食堂の割烹着を来た少女は、頭に被る三角ナプキンを調節しながら尋ねた。さすがにロバートが手伝うのは遠慮し、楠木とサマンサが二人がかりで着替えさせた。


「似合う?」

「似合うわよ」


 楠木ミツコが、背を向けたまま応えた。サマンサは、もとより返答する気がないらしい。

 同性たちの反応に、少女は頬を膨らめて自分の全身を見回し、それらしく見えることを確認した。


「ロバートは?」

「テントの外でしょ。可愛い婦警さんでも探しているんじゃない?」

「ロバートはそんなことしないもん」

「あっそ」


 楠木が少女のデータを取り終わり、首筋や手首からプラグを抜いた。

 少女は椅子から自力で立ち上がり、やはり気になるのかテントの出口に向かった。

 サマンサはノートパソコンを立ち上げ、少女を外部から操作するためのプログラム作りに余念が無かった。


「ロバート?」


 テントから顔だけ出して、少女は優しい青年の姿を求めた。中途半端な姿勢になったので、体勢が崩れた。支えきれず、地面へ倒れた。

 足音が近づき、少女の上に影が落ちた。


「そろそろ出番なんだが……服を汚して、どうするつもりだね?」


 しかめつらしい顔の警察官が、少女見下ろしていた。


「ロバートは?」


 口をへの字に曲げ、少女が首を動かした。


「それが責任者の名前か?」

「違う! ロバートは悪くない」

「来たまえ」


 手を背後で結んだまま、警官はきびすを返した。少女は立ち上がろうとしたが、自重の重さに、顔をしかめただけだった。

 突然、自分の背中が後方に反り返る。


「キャッ!」

「さぁっ、行くよ」


 無理やり立たされた後、少女が恨みがましく見返すと、サマンサがリモコンを玩んでいた。

楠木ミツコが急いで駆け寄り、少女の割烹着から汚れを払い落とす。


「まったく、ドジなんだから」

「ドジじゃないもん。ロバートは? いないよ?」

「女性ばかりの部屋の近くで、聞き耳を立てるような奴じゃないわよ。そこら辺にいると思うけどね。それより、今は任務に集中したほうがいいんじゃない? 貴女がしくじれば、そのロバートが、首を切られるかもしれないのよ」

「……なんで?」


 少女の顔が、急激に引き締まった。


「決まっているでしょ。ロバートが一番側にいたからよ。私達は、遊びでやっているわけじゃない。結果が出せなければ、責任をとるのは当然よ」

「私はそれで構わないけどな。自立思考型など、早く諦めた方がいい」


 再びサマンサをにらみつけ、少女は緊張した顔で、足を動かし始めた。リモコンで体を操作されるのは好かなかったし、緊張しなければ、歩くことさえできなかったのだ。


 少女の歩きが遅いため、着いてくるように言った警察官の姿は、すでに見えなくなっていた。


「捜査本部に決まっているわ」


 言った楠木の言葉に従ってテントの一つに入ると、大勢の人に迎えられ、少女は強張った顔をした。


「調子はどうだい?」


 背中に腕を回したのがロバートでなかったら、よろめいていたかもしれない。


「ロバート、何処に行っていたの? 大変だったのよ、貴方がいないってこの子が駄々をこねて」

「そんなこと……」

「事件の状況を聞いていたんだ」


 一度楠木に振り返ってから、ロバートは少女にパイプ椅子を勧めた。


「一人で座れるかい?」

「うん」


 重心を後方にずらし、地球に引かれるまま、腰を落とす。パイプ椅子が軋むが、少女は小さく安堵した。

「それじゃあ、この子に説明をお願いします」


 立ち並ぶ警察官達にロバートが声をかける。少女の到着から、ずっと珍しげに少女を見詰めてきた制服の群れを割り、鷹揚に姿を現した男がいた。

 やはり、警官の制服を着ている。階級賞を見れば、どれほど地位の高い人間が知れたかもしれないが、少女にそれを確認するだけの余裕はなかった。


「警視庁、捜査部の橋本警視だ。223号身代金要求立て篭もり事件の、本部責任者となる」

「へーぇ」


 口をぽかんと開ける少女の反応は気にせず、橋本警視は何枚かの写真を部下から受け取った。


「口で説明しないといけないのか? データをインプットすれば、十分じゃないか?」


 警官の群れからそういった声が聞こえた。少女が挑戦的な視線で声の主を探したが、その前にロバートが覆いとなった。


「君の正体は秘密なんだ。ここは、上手く合わせて」

「う、うん……」


 橋本警視が説明を始める。


「犯人がいるのはこのビルの2階だ。人質は5人、すべて女性だ。犯人は3名、この会社に恨みがある者と、金が目当ての者が混在している。それ以外の人間はすべて退去済みだ。現在、突入のタイミングを計っている。君の役目は、犯人達に食べ物を運ぶことだ。中の状況を把握するために、隠しカメラと盗聴器をセットしてほしい。犯人にばれると、君自身が危ないが……」

「問題ありません。隠しカメラと盗聴器くらいは標準装備しています」

「そうか」


 背後に立った楠木が発言したので、少女は不思議そうな顔で振り返った。楠木ミツコのさらに後ろでロバートが両手を合わせていたので、少女はあえて何も言わなかった。


「犯人の要求は何なのですか?」

「それを知る必要があるかね?」


 見下ろされ、少女は肩をそびやかして首をすぼめた。


「まあいい。隠すことでもない。要求は二つだ。現金と逃走経路の確保だな。それと、メンバーの一人に罪を着せた事務所社長と面会させることを求めている。ただし、君は余計なことを考えるな。犯人を刺激せず、言われるままにすることだ。状況は、こちらでモニターする」

「……はい」

「では、準備はいいかね?」


 少女にではなく、その背後に控える研究員達に声をかけた。


「待ってください。少し準備があります」


 遅れてやってきたサマンサが応えた。


「あまり待てないぞ。料理が冷めるし、腹を空かせれば、人間は凶暴になる」

「わかっています。確実に中の状況をモニターするために、装置を多少入れ替えます。時間はかかりません」

「5分でたのむ」

「はい」


 サマンサの受け答えを、少女はさも不安そうに聞いていた。その間に、自分の後頭部が開けられたような気がした。機械の作動音が聞こえたような気がする。


「ロバートは?」

「ここだよ」


 少女の前に屈みこんだ。


「大丈夫だよね」

「君は、出前を置いてくるだけでいい。だから、歩くことだけに集中するんだ」

「うん。わかった」


 後ろで、サマンサが立ち上がった。


「終わりました。センサーを増やしましたから、確実なモニタリングができます」

「心強いな」


 橋本警視の言葉とは裏腹に、大して期待している態度ではなかった。

 少女としてはその方が在りがたかったが、成果を出そうと躍起になっているサマンサのことを想像し、暗鬱となっていた。


 ※


 目の前に用意された自転車を見て、少女は即座に言った。


「無理だよ、これ」


 生身の人間だったときには問題なく乗りこなしていたが、現在では歩くことさえままならず、左右のバランスのとれない現状ではどうにもならない。しかも、出前用の大きな岡持を抱えていかなければならないのだ。


「犯人が指名してきた料亭の自転車を用意したんだが……」

「だって、乗れないから」

「仕方ないな」


 橋本警視はさも残念そうに言うと、料理の入った銀色の箱を少女に手渡した。自重がそもそも重いので、少々の荷物は重量に入らない。


「では、頼んだぞ」

「頑張って」

「うん」


 固唾を飲んで見守るロバートにうなずくと、少女は捜査本部を出た。犯人の立て篭もるオフィスビルに向かい、半身を引き摺るように歩き始めた。


「止まれ!」


 警察車両に囲まれた本部とオフィスビルの中間で、犯人が立て篭もっているらしい2階から声がかけられた。少女が困っていると、耳元で声が響いた。


『一旦止まるんだ。犯人を刺激しないように』

「キャッ! 何よ、突然」


 少女は、少し大きめの独り言を発した。


『騒ぐな。犯人にばれる。私は橋本警視だ。サマンサの助けで、君の頭蓋骨に直接話し掛けている。こちらから指示する。そのまま動くな』

「どういうことよ。人の頭の中に勝手なことしてくれて」


 当然、頭蓋骨の内側に通信機を入れたのだろう。随分騒々しい独り言になった。犯人にも聞こえたらしい。


「あんたに危害をくわえるつもりはない。そこで服を脱げ」

「えっ! 何言っているのよ!」

『さすがに気が強いな。最終的に兵器を目指すなら、あれくらいでないといけないのだろう』

『いえ、あれは生まれつきでしょう』


「ロバート、聞こえているよ」

『あ……ごめん』

『性格悪いのよ』

「聞こえた」

『聞こえるように言ったのよ』


 楠木らしい。


『この任務は成功させなきゃならないけど……早く脳が死んでくれればいいのに』


 サマンサの呟きまで聞こえてきた。さすがに、これには反論する気になれなかった。


「警察の者は信用できない! 服を脱いで、武器を持っていないことを証明しろ!」

「やだ!」


 鋭い発砲音が上がり、背後の警察官達は一斉に頭を下げた。肝心の少女は、その場に立ち尽くしていた。少女の足元の50センチ手前で、アスファルトに小さな穴が空いていた。


『なにをしている。裸になるわけじゃない。割烹着を脱げばいいんだ』

『脱いだら、体に組み込まれた機械が見えます。犯人からは、武器に見えるかもしれません』

『サマンサ、何か手は無いの?』

『ないな』

「私、殺されるかも」


『それは大丈夫だ。始めから死んでいる。壊れるだけだ。修理してやる』

『待て。死んでいるだと? 自律思考を可能にした、最新のロボットじゃないのか?』

『もちろんそうです。今のは言葉のあやです』


 聞いている少女にも言いたいことは色々あったが、注文をつけている場合ではなかった。2階の犯人に顔を向け、宣言した。


「人前で服を脱ぐなんて、死んでもするもんですか!」


 さらに発砲があり、少女の脇を掠めた。それでも、身じろぎもしない。日本で暮らし、危険に対処する術を心得ていないこともあったが、伏せたりすれば、立ち上がるのに多大な労力を要することを知っているからだ。


「料理が冷めるよ! ラーメンなのに!」


 効果があったようだ。犯人の一人はしばらく戸惑い、窓の奥に引っ込んだ。再び顔を覗かせると、少女に向けて銀色に光る物を投げつけた。


「それを手にかけろ!」


 手錠が少女の足元に転がった。


『よし、上手い』

『何が! あれをあの子にどうやって拾わせるんです? ぐずぐずしていたら、また犯人に疑われる』

『そうよ。ひっくり返ったら起き上がれないのよ。亀みたいにね』

「一言多いんだよね」


 ぼやきながらも、少女は手錠を拾いに行く気にはならなかった。しかし、ただ立っているわけにもいかず、足を引き摺り始めた。


『動くな。私がやる』


 サマンサだった。少女はとても嫌な予感がしたが、反論することの無意味さもよく知っていた。


『左手を前に出せ』

 より機械化の進んでいる方だ。重たいので、震えながら前に出す。すると、地面に落ちていた手錠がふわりと打ちあがり、少女の左手に吸い込まれた。


『ちょっと、何しているのよ』

『電磁波で磁界を発生させた。これぐらいは朝飯前だ』

『犯人に疑われるでしょ』

『なら、他に方法があるのか』

『手錠は掴んだかい?』

「うん」


 ロバートの声にだけ返事をすると、手の中で金属の輪が力を失った。その他にも、吸い寄せられて張り付いていた釘やら空き缶が、ばらばらと落ちる。


『ものすごく不自然じゃない?』

『いや……上から見ているだけでは、何が起きたかわかるまい。早く両手に手錠をして、犯人に向けて両手を上げるんだ』

「人ごとだと思って、勝手なことばっかり言って」


 ぶつぶつと独りごちながら、手錠を両の手首にかける。


「その場で一周回れ」

「犬じゃあるまいし」

『言われた通りにしろ』


 橋本警視だろう。少女は顔を苦みばしらせつつ、足を引き摺ってその場でくるりと回った。わざとゆっくり回っている。そのように見えた。


「よし! 入って来い。ラーメンが伸びるからな」


 上から降ってくる声に、少女は一度舌を出して見せてから従った。


『さすがに、恐れというものを知らないな』

『一度、死んでいますからね』

『なに?』

『いえ……機械に恐怖などありませんから』 


 耳元に聞こえる、遠くで交わされている会話に、少女は盛大に舌打ちした。


 ※     


 オフィスビルとしては、決して大きなものではない。地上より4階建ての建物で、左右をより大きなビルに挟まれている。

 侵入は難しくないのだろうが、人質の安全を優先し、突入を見合わせているのが現状だ。

 ほぼ正午に近く、陽光は真上から降り注ぎ、極端に短い日陰に入ると、犯人の1人が入り口で手招いているのが見えた。犯人は3人だと説明されていた。


「取りにきてくれたんだ。優しいんだね」


 中肉中背、20代半ばといった風貌の男だった。日に焼け、浅黒い肌に茶色い髪をしていた。脱色したというより、太陽に当たりすぎて変色したような印象がある。顔は隠していなかった。


「早くしろ」


 銃を持っていた。少女には判断できなかったが、連発式の機関銃らしい。当然、オフィスビルに備え付けのものではないだろう。


「手伝ってよ」

「なんで俺が……」


 犯人は不服そうな声を出したが、すぐにそれが間違いだと悟ったのだろう。小さく頷いた。

 少女は重い左足を引き摺り、薄く施した化粧が流れ落ちそうなほど汗をかいていた。ただし、汗をかくのも機械化が進まない右半身に限っていた。一歩進むのにも、歯を食いしばらなければならなかった。


「あんた、ちゃんとした店員なんだろうな」

「違うよ。アルバイトだもん」


 犯人の青年は、辺りを極度に警戒しながら、ビルの陰から姿を現した。少女の持つ岡持を受け取り、急いでビルへ戻る。


「ありがとう。助かった。じゃあ、帰るから」

「ん? 帰るのか?」

「うん。なんで? まさか、お金払ってくれるの?」


「ちょっと待て。俺はあんたのボディーチェックをして、抵抗するようなら始末しろと言われている。あんたも人質にする予定なんだ」

「料理冷めるけど」

「そ、そこで待て」

「いいよ。どうせ走れないし」


 少女は半身に極めて深刻な怪我を負っているのは間違いない。そうとしか見えないはずだ。青年はラーメンが入った銀色の箱を持ったまま、ビル内へ消えた。少女は、ビルを目前にして立ったままだった。


『よし。よくやった。犯人の一人の顔写真が撮れた』

『任務は成功ですか?』


 ロバートの不安そうな声に、少女は気分を良くした。


『とりあえずはな。相手の装備も確認できた』

『じゃあ、もう戻らせてもいいですか?』

『いや。今戻ると怪しまれるだろう。おい、聞こえるか?』

「聞こえているよ。全部」

『君は犯人の言うとおりにしろ。情報はこちらで収集する。余計なことは考えるな』

『というか、何も考えないでいいわ』


 サマンサの声だった。


『しかし、割烹着を脱がされれば、正体がばれます。さっき、ボディーチェックって言っていたじゃないですか。早く戻させないと危ない』

『……そうだな。おい、走れるか?』

「無理」

『何とかならないか?』


 少女に向けられた問いではなかった。おそらく、サマンサに言ったのだろう。


『足の裏からロケット噴射して逃げるってのは?』

『そんなことができるのか』

『いいえ。ミツコ、おかしなこと言わないでよ。あれはまだ研究中でしょ』

「本当にそんなものを研究しているの? 私、やだ」


『心配しなくてもいいわ。実現するのは、実験体Eぐらいだと想定しているから』

「あんまり酷いことを言うと、この場で正体ばらしてやる」

『そんなことしたら、あんた蜂の巣だよ』

「そう? 橋本さん、聞いている?」

『ああ』

「私、ほんとはロボットじゃなくて……」


 耳元で騒音がした。マイクが壊れたような、神経を逆立てる音と共に、急に静かになった。


「ふんっ! だ。やり方汚いの」


 少女は悪態をつくと、脚を引き摺ってビルの影に入った。機械部品が登載された左足に体重をかけると、腰掛けているようなものだった。陽光を避けてから右半身の汗を拭っていると、ビルの入り口が開いた。


「入れ」


 機関銃を構えている。先ほどの犯人の一人だ。


「いいの?」

「兄貴の命令だ」

「乱暴しない?」

「大人しくしていればな」

「私、嫁入り前だからね」

「わかったから、早くしろ」


 どんなに急いでも、少女の体がいうことをきかない。とても演技には見えなかったはずだ。実際に演技ではない。

 犯人の青年は、見ていられなかったのか、体を乗り出した。機関銃を背に回し、少女の左側に立つと、担ぎ上げるように脇を支え、絶句した。


「重い。あんた、なんでこんなに重いんだ?」

「大きな手術したばかりで、おっきなボルトが入っているんだって」


 少女は咄嗟に嘘をついた。青年は、心配そうに顔をゆがめる。


「入院していなくて大丈夫なのか?」

「さあ。今朝まで外に出してもらえなかったから。これが私の初仕事」


 嘘はついていない。


「そんな怪我人をよこすなんて、警察なんてろくなものじゃないな」

「ほんとだよね。ろくなもんじゃないよ。警察なんて」


 とても実感がこもっていた。青年は大いにうなずき、意気投合した少女を、懸命に助けながらビルに入った。

 明らかに当初は抱えあげようとしていたが、身の程を知ったらしかった。


 ※


 冷房の風に顔を撫でられると、少女は足を止めた。


「すずしーい。電気は止められてないんだね」

「ん? あ、ああ」

『犯人が冷静でいてくれないと、交渉もできないからな』

「ふうん」


 いつの間にか通信を復活させたらしい。思わず返事をしてしまった少女を、青年は不思議そうな顔でのぞきこんだ。まだ、少女に肩を貸したままである。


「なにが?」

「なんのこと?」


 少女にきょとんと見詰め返され、青年はますます首を傾げた。一階は事務所になっているが、現在は無人である。占拠された段階で、人質にならなかった人間は逃げ出していた。

 無造作に並ぶ革張りの椅子に、青年は少女を座らせた。椅子が軋む。


「私を2階に連れて行くんじゃないの? 他の人質と一緒にするんでしょ?」

「その前に、縛っておかないとな」

「その必要、あると思う?」


 促されるまま、少女は両手を前に突き出した。あらかじめ用意してあったロープで、銀合強盗の青年が細い手首を縛り上げる。少女の左の腕が、いびつな形をしているのは隠せない。


「……いいや。俺も、なにもできないとは思うが、命令なんでな」

「警察を相手にするような人が、『兄貴の命令』には従うんだね」

「う……うん。まあな」

「名前は?」

「室井了」


 ぽろり、と口にした後、銀行強盗は慌てて少女を睨み付けた。


「それを聞いて、どうする気だ」

「別に。何で?」

「……いや。あんたの名前は? まだ若いんだろ?」

「室井君だって、そんなに年には見えないけど」


「名前を呼ぶな」

「うん。『兄貴』の前では呼ばない」

「……よし」

『『よし』なの?』


 楠木ミツコの声が聞こえた。少女はかろうじて突っ込まなかった。


「足も縛る?」

「ああ。他の人質は全員縛ってあるからな」


 少女は右足を出した。左足を出そうと、懸命にもがいた。


「どうやって上に行くの?」

「エレベーターがある」

「そこまでは?」

「俺が担ぐしかない……な」

「……頑張ってね」


 室井青年は、少女と見詰め合った。


 少女は足を縛られないまま、一階に放置された。軋む椅子に腰掛け、青年が戻るのを待つことになった。


「ねぇ……これからどうするのよ」


 語りかけたのは、ここに居ないが聞いているはずの人間たちだ。


『君と話していた奴は、まだ下っ端らしいな。どんな組織かわからない。すぐに指示する。そのまま待て』


 橋本警視だ。少女が所在なさげに辺りを見回すと、バランスを崩して床に転がった。派手な音が上がり、事務机にぶつかる。筆入れから、ばらばらとボールペンが零れた。


「大丈夫か」


 金属の錆をヤスリで擦るような、冷たい掠れた声が振ってきた。聞き覚えがない声だった。少女は、体を起こすこともせず、床を見詰めた。


「痛くないや」

「そうか。よかったな」

「よくないよ」


 痛みを教える神経が死んでいるのだ。


「どうでもいい。早く起きろ」


 こめかみに、硬いものが当たった。


「誰?」

「聞くな。答える必要はない」


 少女の体が持ち上がり、途中で崩れた。


「何をやっている」


 腕を取り、強引に引き上げようとした。その男が絶句する。


「なんだ、これは」


 倒れた衝撃で、割烹着が破れていた。重くて持ち上がらず、再び少女が倒れる。倒れたまま、体の向きを変えた。男がいた。一人だった。機関銃を構えていた。


「貴方、誰? さっきのお兄さんは?」


 深い皺を刻んだ顔と、膨らんだ腹が印象的な男は、広い鍔のある帽子を深く被り、鼻から上は一切見えなかった。


「貴様、何者だ」


 機関銃の何かを引いた。金属の音が上がり、銃弾が装填される。


『おい、まずいぞ』

『どうします』

『発砲を許可する』


 少女には何もできなかった。


「その装置はなんだ?」


 割烹着の破れ目から、複雑な機械が覗いていたのだ。


「知らないよ」


 事実だった。


「通信機だな」

「違うと思うけど」


 まさか、生命維持装置とは思うまい。


「ちっ。仕方ない」


 発砲した。


「キャアァァァァァ!」

『凄い悲鳴ね』

『おい、大丈夫かい?』

「……大丈夫みたい」

「なに!」


 得物は機関銃である。弾は数十発が瞬時に打ち出され、それがことごとく、少女を剃れて四方に散っていた。

 オフィス内の椅子や机が穴だらけになる。遠隔操作で強力な磁場を発生させ、弾丸の軌道を少女の外へ向けたとは、本人は知らないことである。


『待て! まだ早い!』


 少女は、きょとんとしていた。耳元で怒鳴られている意味がわからなかった。

しかし、その声は通信機が勝手に拾っただけで、少女に向けて言われたのではなかった。

 ビルの自動ドアが破壊され、警官隊が雪崩れを打った。機関銃を撃ったことにより、待機していた警官達が事態の終焉を感じ取り、交渉の余地を放棄したのだ。


「ちっ!」


 機関銃を向けた男は、引き金に指を掛けたまま、肩を打ち抜かれてうずくまった。


「待ってよ。まだ上にいるんだよ」


 突入した警官達は、一気に階段を駆け上がった。

 少女の訴えは理解されていた。リーダーを失い、立て篭もり犯はあっさりと降参した。

 少女が何もできずに座り込んでいるところに、背後から上着をかけられた。


「ご苦労様」

「ロバート?」

「なんだい?」


 満足に振り返ることさえできない。だがその声は、少女のお守り役の研究員のものに間違いなかった。


「私、何しているんだろう」

「君は、十分任務を果たしてくれた。君が思っているより、多くの情報を僕達にもたらしてくれたよ。おめでとう。任務は成功だ」

「さっき逢った室井って人、どうなっちゃうのかな」

「抵抗しなければ、償うべき罪を償うさ」

「……そう……ロバート」

「んっ?」


 あまりにも小さい声だったため、白皙の青年は、耳元まで顔を近づけた。


「私、凄くこわかった」

「うん」

「なんだか、凄く悲しい感じがする」

「……うん」

「でも、涙出ないや」

「体の機能がもっと回復すれば……」


「泣けるようになるの?」

「わからない。でも、頑張るよ」

「『頑張る』って?」

「君の生態部分を維持するのが、僕の役割だから」

「うん」


 立ち上がろうとした少女に、ロバートが手を貸した。支えきれず、ひっくり返った。


「その前に、もう少し体を鍛えてね」

「……そうだね」


 他の警官達が気づいて2人を立たせてくれるまで、ロバートは少女の下でもがき続けることになった。


                                           了


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