その映画を作るのは
動画サービスも増えてきた今の時代、レンタルショップには深夜、そんな時代についていけないような腰の曲がった老人しかやってこない。俺はそんな客を適当に相手する、薄暗い蛍光灯の下で突っ立ってる、バイトだ。もう何年もフリーターだった。何かに必死になるなんて馬鹿らしいと思うからだ。時給は千円、福利厚生はないが特に何不自由なく生きていけてるじゃないか。
帰ったらピザ食べてアニメみて、それでも暇だったら銭湯にでも行こう。そう、ぼんやりしていると……
「あの、陽だまりの白猫rikaていうタイトルの映画ありませんか」
「は?」
思わず素で返してしまう。客に聞き返す態度ではなかった。いつのまに居たのか、フード姿の若い男が一人。慌てて謝り、今探しますねと検索機を使う。結果は0件だった。
「タイトルお間違えじゃないですか?」
「あぁ……ないなら、いいです」
男は去っていく。とっとと諦めてくれてよかったと思いながら、検索機には引っかからなかったのに、俺の頭には何故かそのタイトルがずっと引っかかっていた。
そして、ハッ、と思い出す。
こんな無気力な俺でも、学生時代夢中なものはあった。
ずっと映画製作に力を入れていた。
クラスの人たちにも手伝ってもらったりして、唯一完成間近までいったのが『陽だまりの白猫rika』だ。
病弱で亡くなったお嬢様rikaは飼い猫に生まれ変わっていて……そんなシナリオだ。でも結局未完になったのは、凄まじい費用や時間の為、誰も俺に付き合わなくなったからだ。現実を見ろと言わんばかりの就活の中、俺は何社も落ち、結局レンタルショップのバイトに落ち着いて、今に至る。
なぜ、さっきの客が、この世に存在しない、そのタイトルを俺に聞いてきたのか、分からない。
というか思い返せば店に入ってきた音も、出ていった音もしなかった。フードに隠れた前髪、あれは俺自身だったのではないか。
「……誰に見てもらうとか関係なしに一つくらい完成させてみようかな……映画」
実力もないくせに。そうやって
いつのまにか俺が一番俺の夢をバカにしてなかったか?
俺の夢を叶えてあげられるのは俺だけだったのに。
だらだらと意味もなくフリーターやってないで、真面目に働きつつ、夢を追いかけてみようかな。
『あの、陽だまりの白猫rikaていうタイトルの映画ありませんか』
『ありますよ』
いつかの俺が、そう返せるように。