私はエルメール。女神です 3
前回の続きです
生まれたばかりの赤子の魂は肉体に定着するため、一時的に魂強度を大量に消費して肉体への定着を図ります。
ですが、消費した魂強度は肉体の成長とともにほとんど元の状態に回復しますので弱々しい魂とはあまり関わった事はないのです。
私は詳しくは知りませんが、先輩方の話では泣き声以外のパパやママといった単語を話し始める頃ぐらいには、ほとんど回復してるそうです。
つまりこの子は産まれて間も無く、その天命を迎えたということでしょうか…。
……気持ちを曇らせても今は何も解決しません。
とにかくこの異常事態は私の手には余ります。
目を瞑りラポーメスタスさんに念話を繋げます。
(すみません、ラポーメスタスさん。こちらエルメールです。赤子の魂がこちらに送られて来ました。異常事態につき天界情報部への特別連絡をお願いします)
ラポーメスタスさんなら、この異常事態を即座に理解してくれるでしょう。
(こちらラポーメスタス、女神エルメールの申請を却下します。本案件は通常業務内の事態です)
…ふへぇ?
(ちょ、ちょっと待ってください。赤子ですよ!?赤子の対応は今までなかったんですけど!)
驚きです。まさかラポーメスタスさんに物申す日が来ようとは。
(落ち着いて下さい。いいですか、女神エルメール。今回赤子の魂が送られたのは転送の間違いではありません。今の貴女なら対応できると判断して送りました)
ここまで高い評価をされているとは思いませんでした…。
だって私、まだ勤務歴は10年ですよ?
100年、500年働いている先輩方と比べるとヒヨコもいいところです。
(貴女は優しく真っ直ぐな心を持っているのが長所ですが、自己評価が低いのが短所です。…大丈夫、貴女ならきっとやり遂げられますよ)
そこまで言われて念話は切られました。
…私なら出来るですか。
そこまで言われては引き下がれませんね。
目を開け目の前の赤子の魂に向き合います。
「あ、あぅー?うぁーー!」
「初めまして。優花さん。ここは天界、貴女達の言うところでの天国です」
「?あぅあぅ」
「優花さんは、今の自分の状態は分かりますか?」
いつもよりもゆっくりと話してはいるのですが、理解はされているのでしょうか?
不安です。ですが、私の最善を尽くすしか今は他に手がありません。
「貴女には2つの選択肢があります。1つは天界で安らかに暮らすことです。もう1つは異世界に転生です。新しい世界で短い命で終わった貴女の人生をやり直すことが出来ます」
いつもと同じ様に左右の手にそれぞれの景色を浮かばせてみせます。
…いつもならここで私の希望は言いません。ですが今のこの子の魂は非常に弱っています。
このまま異世界に転生しても魂が保ちません。
ですから初めて自身の戒めを破ります。
「ですが、貴女には天国に行って貰います。ごめんなさい、貴女の気持ちを無視して。私を恨んでくれて構いません。憎んでも構いません。ですが一つだけ言わせて下さい。私は貴女に幸せになってほしい。これが私の正直な気持ちです」
無垢なこの子にこのようなことをして心苦しいのですが、私は私の判断を信じます。
「うーー、あう!」
変わらず笑顔を浮かべるこの子には理解できているでしょうか?
それともわかってくれた上で、笑顔を浮かべているのでしょうか?
私にはわかりません。
人の心の中は神ですら知りえません。
ですが、この選択が良かったと思える日が来ると良いですね。
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「ラポーメスタスさん!酷いですよ!事前に教えてくれてもいいじゃないですか!?」
対応が終わったので文句を言いに行きます。
もうカンカンです!
私たちの間には絆が芽生えたと思ってましたのにー!
「落ち着いて下さい。当然、言わなかったことには理由があります。…ですから落ち着いて?」
むぅ、では聞きましょうか。その理由を。
「そもそも、エルメール、貴女は事前に知っていたら私に"変わってください"とか言う可能性があります」
うっ、それは否定出来ませんね。
ラポーメスタスさんは、私よりも経験豊富ですから頼りたくはなります。
「それに貴女の土壇場の対応には目を見張るものがありますから」
ま、まあそれなら仕方がありませんね。
「はぁ、仕方ありません。なら迷惑をかけたという事で何かスイーツを奢りますから、機嫌を直してください」
許します!
機嫌は直ったので早速行きましょう!
「何を急いでいるのですか?まだ仕事は終わっていませんよ?」
は!そうでした。
「では業務に戻りますね。さっきの約束忘れないでくださいよ?」
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これが私です。天界で働く女神エルメールは辛いこともありますが、楽しく過ごしています。
たくさんの魂と関わり、毎日元気に頑張ります!