表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫陽花橋  作者: 三咲
5/8

お転婆な姫君

蔵之助の過去に触れていきます。

 蔵之助は鈴乃を自分の屋敷に招く。

「さあ上がって。」

居間に通され座る。

「鈴乃ちゃん突然呼び出してすまなかった。」

(家に招くなんて急な用事でもあるのだろうか?)

「鈴乃ちゃん、正直に答えてくれ。俺のこと好きか?」

(えっ?!) 

鈴乃は一瞬驚きを隠せずにいた。頬が真っ赤に染まるのを耐えながら答える。

「はい。好きです。」

「女であってもか?」

「はい。」

「良かった。」

(良かった?私と蔵之助様は両想いなのか?)

感極まって号泣してしまう。

「鈴乃ちゃん大丈夫か?」

蔵之助は鈴乃の傍により抱き締める。

「ごめんなさい。私てっきり蔵之助様は一座の役者に恋して男の振りをしてまで近づこうとしてたんじゃないかと思って。」

「そんなことで悩んでいたのか。余計な心配かけてしまったね。」

優しく鈴乃の髪を撫でる。

「鈴乃ちゃんにはしっかり話しておくべきだね。俺が男と偽っているわけを。」 


 




 


 蔵之介の本当の名前は久美子という。公家の一人娘であった。

「久美子様~久美子様~」

その日も女官達は久美子の姿を探す。 

「久美子様~お華の先生がお見えでございます。」

お転婆な久美子はお華よりも剣術や芸事に興味があった。今日も女官達の目を盗み、年の近い女中を連れて街へと出掛けて行くのであった。

 「久美子様、今日はどちらへ行かれるのですか?」 

女中が訪ねる。

「久美子様ではなく姉上と呼びなさい。それからその敬語もやめなさい。街にいるときは私たちは姉妹の振りをしてるのだから。」

「では姉上、今日はどちらへ?」

女中に尋ねられるがこれと行って行く場所もない。お華のお稽古が嫌で逃げ出して来ただけのだから。その時芝居小屋の前で客引きをしてる男が目に入った。

「お千恵」

久美子は女中を呼び止める。

「今日は芝居を見ましょう。」

「しかしお金は」

「心配ない。」

久美子は小判の大量に入った袋を見せる。

二人はお金を払い、芝居小屋へと入った。

その日の演目はお伽草子に書かれている物語の1つ「浦島太郎」であった。亀を助けた若者がお礼にと海の底の竜宮城へ招待される話だ。

初めて見る幻想のような世界を久美子は食い入るように見た。久美子が求めてるいたものがまさに目の前にあったのだ。


久美子がお千恵と屋敷に戻ったときにはすっかり日も暮れていた。屋敷に着くとすぐに母に呼び出された。

「久美子、今日はお華のお稽古だというのにどこへ行ってはりましたの?」

「お母様、わたくしもうお華のお稽古はしとうございません。」

「何を申しておる?そなたは公家の娘なのです。お茶もお華もできぬならどこにも嫁げますまい。」

「わたくしどこにも嫁ぎませぬ。」

久美子は今日あったことを母に打ち明ける。

「わたくしは役者になります。」

「いい加減になさい!!」

母の手が久美子の頬を打つ。

「久美子、役者なんて平民のする仕事じゃ!!そなたは公家の娘であろうに。そなたの嫁ぎ先はもう決まっておる。いつまでも馬鹿げた夢を見てるのではない。」

久美子は母に諭され公家に嫁ぐ以外道はなくなったのだ。




「それが俺の全て。16のとき長い髪を切り落とし家出した。蔵之助と名前を変え、今の一座に入った。あれから12年ようやく主役をはれるまでに登り詰めたんだよ。」

 以前出雲のお国が歌舞伎で幕府に目を付けられて以来、女が舞台に立つことは難しくなった。だから男として生きてきたのだ。


(自分の意志でこの世界へと来た)

以前蔵之助の言った言葉が鈴乃の脳裏に過る。この方は半端な気持ちではなく、自分の道を自分で決めてやってきたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ