蔵之助の秘密
鈴乃は帰る途中芝居小屋へと向かった。裏口から入ろうとしたところを見張りの門番が声をかける。
「何用だ?」
「あの、蔵之助様に」
「蔵之助は今はおらぬ。」
鈴乃はあっさりと追いかけされてしまった。
仕方なく帰り道を行く鈴乃。すると蔵之助と出会った紫陽花の咲く橋に差しかかる。その時だった。
「なあ姉ちゃん、俺達と遊ばない?」
がらの悪い男が2人鈴乃に絡んできた。
1人が鈴乃を強引にも抱き寄せる。
「離して下さい。」
もう1人が鈴乃の顎を片手であげる。
「なあ、ちょっとぐらいいだろ」
鈴乃が男2人に挟まれてるとどこからか聞き覚えのある声がした。
橋の先にら先ほど鈴乃に傘をさしてくれた蔵之助がいた。
「その手を離しな。」
蔵之助はそう言うと持っていた木刀を振りかざす。役者だけあってか立ち回りも美しい。鈴乃は息を飲む。
しかし相手は2人そう易々と勝てるわけでもない。
男の1人が蔵之助の背後に回り木刀を奪う。もう1人が蔵之助に殴りかかる。2人がかりで殴られ蹴られ蔵之助も抵抗できないる。
「やめて。この人に暴力はしないで。」
鈴乃がわって入る。
その時役人が騒ぎを聞き付けて飛んで来た。
「何事だ?」
「逃げろ」
男達は足早に逃げていった。
蔵之助はところどころに傷を負い口元から出血している。
「大丈夫ですか?」
鈴乃は優しく蔵之助を起こす。
「あの?うち近くなので寄っていきませんか?手当します。」
「いや、平気だ。」
蔵之助は鈴乃の手を振り払い歩こうとするが傷口が痛みよろけしまう。
「うち寄ってって下さい。そんな体じゃどこにも行けませんよ。」
鈴乃は蔵之助を家にあげ自室に通す。
「さあ手当します。脱いで下さい。」
鈴乃は蔵之助の着物に手をかける。
「大丈夫だ。自分でする。」
「動かないで下さい。傷口が広がります。」
着物をはだけさせると鈴乃ははっとした。
「蔵之助様女だったのですか?」
鈴乃が見たのは明らかに品やかな女性の体だ。細い腕に白い肌、そして
「すまない、かくすつもりはなかったのだか。」
蔵之助は胸元を着ている着物で隠す。
鈴乃は黙って蔵之助に包帯をまく。
「鈴乃ちゃん、俺が女だと分かって何も思わないのか?」
「なぜですか?男とか女とか関係なく私のこと守ってくれたじゃないですか。」
蔵之助が来なかったら自分は今頃どうなっていたか分からない。
「手当できましたよ。それから私誰にもいいません。」
「ありがとう。」
鈴乃は蔵之助を橋まで見送った。
「そうだ、良かったら今度芝居観に来てくれぬか?」
「はい。」
鈴乃は橋の上で手を降り続けた。蔵之助の姿が見えなくなるまで。
今回の男装は正体を隠しているという設定です。
女性が仕事を得るのが難しかった時代、男装して仕事を得る人もいたそうです。




