落花流水 ー余談ー
連載中の『落花流水』の余談。
第二話の後の話になります。
稔視点の後朝の話。
障子を開け放った先にある庭から入る雨音と湿気が、手元の紙を弛ませる。
鉛筆が重く、線が引っかかる感触。
稔は線を止める。
机に向かったまま、視線を桜の木の下にある紫陽花に向ける。
雨に打たれて、濡れた葉。
けぶる薄い赤紫の花色。
描くことを諦めて、頬杖をつく。
口元に痛み。
左の中指で下唇の右側を触ると、僅かに血の跡。
ゆうべの早苗の戯れの痕だ。
舌先でそれを舐めるようになぞると、今度は舌に感じる痛み。
だいぶ、早苗に噛まれた。
所有痕を稔が痛みを覚える場所につけては、悦に入っているのが最近の早苗だ。
そして、その痛みに仄暗く悦びを覚えているのが、最近の稔だと、早苗は気が付いているだろうか。
薄く笑みを浮かべる。
稔は台所で洗い物をしている早苗の気配を感じながら、鉛筆と紙を仕舞い、水彩画の方へと気持ちを切り替えて、筆と絵具を机の上に用意しはじめた。
連載中の『落花流水』は、こちらです。
興味を持たれた方はどうぞ。
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