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最期のキセキを貴方に  作者: 絢無晴蘿
第一章 『聖女が降臨したけれど、私は普通に暮らしたかった』
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平穏な時間


 寒い日が続くようになった。

 いつもなら学園に行く時間だが、今日は少しだけ違う。

 家族全員、丸一日お休みだ。

 とても、大切な日だった。



「シャノン、準備はできたか?」

「はーい! 兄様は」

「もうとっくにできている。父さんも待ってるぞ」

「えっ、もう?」


 慌ててバタバタ最後の準備をする。

 持ち物を確認……お花は父様が用意しているし、ピクニックの準備は兄様が、お弁当は私が持って行くことになっている。

 朝からジュリア達と一緒に作ったお弁当を確認すると、私は帽子をかぶって兄様達が待つ外へと向かった。


 今日は、母様の所へ行く日だ。


 母様は、私が幼い頃に亡くなっている。理由は誰も教えてはくれないが、私を産んだ後に体調を崩してしまったせいだと、知っている。

 みんな優しいから、私のせいだと思わないようにと気をつかってくれている。そのことも、私は知っていた。


「走ると転ぶぞ」

「子どもじゃないから、大丈夫よ」


 息を切らせて馬車まで走れば、兄様が外で待っていてくれた。

 馬車に乗り込めば、父様もすでに準備を終えて待っている。


「さぁ、行こうか」

「うん」


 一年に一度、今日は絶対に母様の所へ行く日。

 母様が、お亡くなりになった日だから。母様のお墓に挨拶に行くのだ。


「今年は、シャノンの事を報告しないとな」

「そうですね」


 父様と兄様の会話に、思わず赤面する。


「アルバスより、シャノンの婚約の方が早く決まるとはな……」

「母様に、兄様の婚約が早く決まりますようにって、お願いするわ」

「それは、やめて欲しいんだけど……」


 郊外の墓地まで、少し時間がかかる。久しぶりに家族でゆっくりと会話を楽しみながら、私達はいつもと違う日を過ごした。



 母様のお墓は、馬車が通れる道から少し歩く。

 馬車を降りると、私達は各々荷物を持って歩く。と言っても、私のお弁当は、半分父様が持ってくれた。


 森の側にあるひっそりとした墓地。

 墓守の方がよく手入れをしてくれているのだろう。墓地は綺麗だ。

 父様は、迷うこと亡く母様のお墓まで歩いて行く。


 私は、母様を覚えていない。兄様は私より4才年上だから、ぎりぎり覚えているらしい。

 生前の似顔絵と、いろんな人から聞いた母様のお話だけが私の知っている母様だ。

 けれど、どの話を聞いても、母様はとても明るくて優しくて、すてきなヒトだった。


 会いたいかと言われたら、会ってみたい。けれど、寂しいかと言われたら、よく分からない。

 物心つく前にもう居なかったからかもしれない。

 私は、周りからよく母様とよく似ていると言われる。私も、似顔絵の母様と似ていると思う。鏡を見れば母様の面影のある顔を見ることができたから、かもしれない。


 父様は、母様の好きだった花ばかり集めた花束を、お墓の前に供えた。


 しばらく、三人で黙祷をする。


 しばらくして、父さんが行こうかと言った。

 向かうのは、墓地からまた歩いた場所にある丘。

 私はやっぱり覚えていないが、小さい頃にお墓参りをしたときに、かってに走り出してこの丘で遊んだり、ピクニックをしたいとわがままを言ったらしい。

 それから、ここでピクニックをすることが毎年の恒例となった。


「このキッシュ、シャノンが作ったのか」

「去年より、うまく焼けたでしょう?」

「あぁ」


 父様が美味しそうに食べてくれる。実は、キッシュの方はジュリアに手伝ってもらわずに作ったので、少し心配だったのだけれど、大成功だったようだ。


「去年は焦げてたもんね」

「む……兄様は去年忘れ物してましたよね」

「よく覚えてたな……」


 なんだかんだ言いつつ、兄様も食べてくれる。

 ミートパイやポテトサラダ、他にもいくつか作ってきたが、どれも好評だ。私一人ではなく、ジュリア達と作ったからもあるけれど。

 今度、エイダン様に作ってみようかとも考えたけれど、こう言うのを渡すと言うのもなんだろう。お菓子などの方がいいかもしれないと思ったが、お菓子類は全く作ったことがない。

 時間を見つけてジュリアに作り方を教えてもらう。


「なんか、また考えているだろう」

「変な事じゃないわよ?」

「どうだか」


 兄様は鋭い。

 口をとがらせて否定すると、あきれた声で返された。


「エイダン様に、その、料理を……お菓子とか……作って渡そうかと思ったの」

「……いいか、最初に毒味をするから、絶対すぐに渡すなよ」

「兄様は私のことどう思ってるの! 変な物を渡しませんから大丈夫です!!」


 父様が、横を向いて吹き出していた。


「シャノン、アルバスは妹の初めての手作りお菓子を一番に食べたいだけだよ」

「まあ……お兄様、それでしたらしっかり言ってもらえればお兄様のために作りますわ」

「違います! シャノンも間に受けないで、ニコニコしない!!」


 わざとらしく言えば、少し慌てる兄様。こう言う時は何かを誤魔化す時だ。父様は私たちが隠してることをすぐ言い当てるから。


 そうこうしているうちに、昼食は終わる。

 けれど、お茶を飲んで一息ついて、しばらく丘で過ごした。

 今日は一日、予定を何も入れていないから、家族水入らずで過ごすのだ。




 平穏で静かな時間は、いつもよりも早く過ぎていくように感じた。




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