エピローグ さいかい
泣いている子が居る。
暗い場所で、ずっと泣いている子が居る。
目を開けると薄暗い部屋が見える。
そこには、黒髪の少女が独りいた。
「どう、したの」
思わず、声をかけた。
びくりと振り返った少女の瞳は、夜よりも暗い黒の瞳だった。
「どうして、泣いてるの?」
「貴女にはわからないよ。たくさん愛されてきた貴女には」
「……辛かったのね」
「貴女にはわからない。いや、これから知っていくか」
くすくすと、彼女は嗤いはじめる。
その笑顔が、無理をしているように見えた。
くすくすくすくす、彼女は笑うくせに涙は止まらないのだ。
「もう、やめましょう」
「貴女と私は一生わかり合えない。わかったふりはよして」
そう、彼女の気持ちはわからない。同じ立場になれないから、きっと何を言っても戯言でしかない。
彼女は、私と何もかも違いすぎる。
私は、彼女を救うことはできない。
そんな中、部屋が開けられた。
扉の向こうに、見たことのない男が立っていた。
戦いの中に生きてきたのか、剣を佩き、手や顔には消えない傷跡が残っている。
彼は部屋を見回して彼女を見つけると、しょうが無いなぁとばかりにため息をついて彼女に歩み寄る。
「なんで追いかけてきたんだ」
呆れているけれど、優しい声だった。
「……」
「まったく、もう一度やり直す機会をもらえたんだから、誰も知らない場所で静かに暮らせば良かったものを」
彼女の嗤いは消えていた。ただただ、泣いている。
声を押し殺して。
「さぁ、行くぞ」
「う、ん。うんっ」
そう言って、彼女は彼の手を握った。
二度と離さないと、彼女は強く握りしめていた。
二人は、あの扉の向こうへ歩いて行く。
ふと、思い出したように男が立ち止まった。
「おじょうちゃんは、こっちには来れないよ。早く帰った方が良い」
彼はそう言って反対方向を指さした。
チラリと、彼女が最後にこちらを見る。だが、何も言わなかった。
お互い、もうそれ以上のことは話さなかった。
私は、いつの間にか森に取り残されていて、彼が指を指した方へと自然と歩み出そうとした。その先に、何があるのかなんとなくわかっていたから。
けれど、一歩進むたびに少しずつ地面から水があふれていく。
足を濡らし、少しずつ水かさを増していく。
どんどん、勢いは増していく。
一瞬のうちに、地面が無くなって沈んでいった。
冷たい。
息が、できない。
どんどん世界が暗くなっていく。
凍えるほど冷たい世界で、もがいてもただ沈んでいく。
沈んで逝く。
「――シャノン」
真っ暗な世界に光が灯った。
温かい何かが、手を伸ばせばすぐそこで光っている。
なにが……。
目をこらせば。壊されてしまったはずの、割れてしまったはずのお守りが変わらぬ姿で目の前にあった。
手を伸ばす。
そして――
「エイ、ダン?」
とても長い間眠っていた気がする。
日が落ちて部屋が少し暗い。重い身体を起こそうとするが動かない。
彼の方を見ると、蒼の瞳が大きく見開かれた。
みるみるうちに潤んで、もう良い年なのにぽろぽろと涙をこぼし始める。
しょうがないなぁ、なんて思って、でもここは一巡目の世界ではない事を思い出す。
ここでは、私と彼は顔を知っている程度の知り合いで、婚約者でもなんでもない存在だと。
それなのに。
「……シャノン、さん?」
彼は両手で私の手を握りしめ、泣いていた。
「ずっと、貴女に話したいことがあったんです」
ずっと?
私も、ずっと伝えたいことがあった。
なんて言葉にすればいいのかわからないけれど、これまでのことを。
私よりも先にエイダンは告げた。
「私は、貴女にーー」
ーーこれからまた始まるのは、きっと幸せな物語だ。
これにて、とりあえずの完結となります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
諸事情あり、二年間も間が空いてしまいましたが、感想や評価が励みとなり書き切ることができました。本当にありがとうございます。
後日、その後の話、エリカとジスランの話、ミラとレギナルドの話を投稿します。
まだ書き溜めているところなので、時間がかかるかもしれません……。




