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最期のキセキを貴方に  作者: 絢無晴蘿
第二章 『聖女に処刑された少女は、魔王と歩む』
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誰かの正義


 偽の聖女……サナとの戦いが終わり、一月が過ぎようとしていた。

 王国は偽聖女の洗脳による被害で、未だに混乱の中にある。

 サナの死と共に魔物たちは四方に散ったが、村や街にやってきてはヒトやエルフを襲うので、彼等の対応も必用だ。

 ユベール王子とジスラン王子の二人が中心となり復興を行なっていた。


「エリカ様、なにかありましたか?」


 アリアナの声に私は振り返る。


「……なにも、ないわ」


 周辺を見渡して、私は答えた。


 魔王が封印されていたという場所に、私とアリアナは連日来ていた。

 そこに残された先代の聖女の痕跡を探すためだ。


 先代の聖女は、ここに魔王を封印したと告げた。けれど、ここの封印されていたのは……サナだったことが判明している。

 そして、彼女は魔王と呼ばれた者と同じく、邪神ディラの力を与えられていたと。

 彼女の存在が、私の顕現の理由だった。


 それは薄々わかっていたが、ではなぜ先代の聖女はここに彼女を封印したのか、記憶の引き継ぎを拒否したのかがわからない。

 それを知りたいと我が儘を言って調査しているのだ。


「そろそろ、レギナルド様との約束の時間ですわ。少し息抜きをしましょう」


 そう言って、アリアナは違う場所で魔物の遺体処理をしていたアシルを呼んだ。




 アシルの転移魔術で常緑の森に一瞬で辿り着く。

 転移魔術を使えたら便利なのにと思うが、結局才能が必用な魔術なので仕方が無い。

 レギナルド王はミラと共に日当たりの良い庭園で待っていた。


「……これが、探していた本だ」


 そう言って本を手渡すと、レギナルド王は謝りつつ足早に去って行った。エルフの国も魔物の被害が酷く忙しいらしい。

 受け取った本はとても古く、保護魔法をかけられていたがそれでもボロボロだった。


「ここに、先代の聖女と彼女の事が書かれているんですね……」

「えぇ……レギナルドが、ずっとサナの事を調べていたわ」


 ミラは、そう言うとサナの過去を話し始めた。


「彼女の父であったエルフは死の病に倒れ、一縷の望みにかけて世界樹の元で療養するもそのままお亡くなりになったことを覚えている同胞が居ました。彼は、妻と生まれてきただろう娘をずっと恋しがっていたと。けれど、彼の妻であるヒトである彼女にエルフ達が接触するのははばかられた。そう言う時代だったのです。誰も、彼の最期を妻と娘に伝えなかった」


 だから、サナの母は夫に捨てられたと嘆き、周りのヒトビトはエルフの子を孕んだ娘を蔑み、娘は異端として差別された。

 そんな彼女は、どうしてか魔王の元へと辿り着いた。

 そして、エルフとヒトに復讐を始めたのだ。


 ある程度は知らされていたことだが、改めて詳細を聞いていくとひどく悲しい歴史に胸が痛む。

 ミラに促されて本を開く。


 そこに書かれているのは、エルフ達の記録だ。かつて魔王と呼ばれた者との戦いの記録。

 ヒトから差別され、魔王の仲間だと襲われたエルフ達の無念や恨み、そして聖女のとりなしで初代ファーガスト王国国王となる青年とエルフ達が協力して魔王と戦ったこと。


 そこに、ほんの少しだが魔王と共に居た少女の事が書かれていた。

 魔王に心酔し、従う黒い炎を操る少女。

 ヒトとエルフを怨み、憎しんで居た少女は、魔王の討伐後姿を消したと。

 その時、聖女も姿をくらませてしまい、女神の元へと戻ってしまったのかと探すと、最後の戦場で見つかった。なにやら儀式が行なわれていたことを問うと、魔王が復活しようとしていたので封印をしたと話したそうだ。

 それは、嘘だったのだろう。

 聖女は、サナを封印していたことを誰にも話さなかったようだ。


 なぜ、そんなことをしたのか、結局わからなかった。


 そして、聖女は女神の元へ帰って行ったという。


 先代の聖女、彼女はどうしてこんなことをしたのだろう。


 ミラと別れた後、アシル、アリアナと共にアルフィー家へと向かった。




 シャノン・アルフィーは、未だに目を覚ましていない。








 シャノンは、いつものようにベッドで眠っていた。

 本当に、ただ眠っているだけのように見える。

 アリアナがいつものように治癒術をかけるが、身体の怪我はすでに治っている。いつ目覚めてもおかしくない。

 けれど精神を干渉され、さらに命を削って結界を創ったせいだ。


 ベッドの脇に、赤い割れた石の入った瓶が置かれている。そして、彼女の胸には蒼い雫の形をした石のペンダントがつけられていた。

 どちらも本来は魔力を溜めて何かあったときのお守りとしてエルフが家族や大切な人に渡す物だが、魔力は空っぽでただの石とかわらない。


 魔力を使い切り、自分の生命力を削っていたシャノンは、あの時ほとんど死にかけだった。

 その時、青年が持っていたお守りの魔力をすべて彼女の延命の為に使ったことでどうにかここまで回復をしたのだ。


 彼女の行なったことは、まさしく偉業だ。

 レギナルド王でも一つずつ霧散させることしかできなかった黒炎からみなを、結界で守り切ったのだから。


 現在、サナのことはファーガスト王国やエルフの国で次期魔王候補だった魔女とされている。封印されていた魔女が目覚め、それに対抗するために聖女が現れたのだと。

 魔女の王国への侵略に気付いた者達、聖女を筆頭にジスラン王子、アシル王子、大神官、アリアナが彼女へ反旗を翻し、繋ぎの一族であるシャノンがエルフの国に助けを求めレギナルド王たちが立ち上がった。

 だなんて、そんなシナリオが描かれた。


 何時だって、歴史は勝者によって紡がれる。詳しいことを知らないヒト達は知らなくて良い。

 だが、もう少しだけ国が落ち着いたら、サナという少女の悲劇だけは何かしらの形で表に出したほうがいいのだろう。


「いつも、妹をありがとうございます」


 少しやつれた青年、シャノンの兄であるアルバスがそう言って部屋にやってきた。

 侍女がお茶とお菓子を出す。


 以前は断っていたのだが、「良い匂いがすると、突然起きてきてくれるんじゃ無いかって、思うんです」そんな事を言われたら断りづらく、気付けば恒例となっていた。


 たわいない話をしていると、来客が来たと執事が現れた。

 あぁ、とアルバスはすぐに戻ると言って出て行った。


 本当に、彼はすぐに戻ってきた。

 一緒に、客を連れて。


 彼は、以前視たことがあった。エルフたちと共にサナと戦っていたうちの一人、シャノンを助けた青年……。


「エイダンと申します」


 すみません、とアルバスは謝ってきた。

 何がすまないのかと思っていると、二人は私に頭を下げる。


「聖女エリカ様、どうか、妹のことを教えて欲しいのです」

「え?」

「シャノンの行動は、おかしかった。まるで、私や父が死んでしまうかのような言動もありましたし、エイダンさんの……このお守りは、本来エイダンさんのものだそうです」


 アルバスは、そう言って割れた赤い石の入った瓶を指さす。


「色こそ違いますが、魔力の残り香は間違いなくエイダンさんのものでした。しかし、これは本来一つしか無いもの。エイダンさんは渡した記憶は無く、今シャノンの首に掛かっている物しかないはずのもの。それをなぜ持っていたのか」


 アルフィー家にネイロと共に出入りをするようになっていたエイダンは、顔見知りになっていたアルバスになぜ彼女が自分のお守りを持っているのか問いかけて、分かった事だった。


「アシル王子やアリアナ様も知っているのでしたら、教えて欲しいのです」


 二人の切実な問いかけに、アシルとアリアナが私に視線を向ける。


 ここで、すべてを知っているのは私だろう。しかし、それを言ってしまって良いのだろうか?

 シャノンは、どう思うだろうか。

 それに、シャノンがやり直した経緯であった偽聖女サナの蛮行をすべては知らないのだ。


「……レギナルド王によると、この世界は二巡目の世界、だそうです」

「二巡目?」


 意味がわからないとエイダンが首をかしげる。しかし、アルバスの方は気付いたようだ。


「やり直した、という事ですか?」

「……はい」

「……だから、レギナルド王は」


 心当たりがあるようだ。

 だが、それ以上は言うことははばかられた。


「私も、当事者ではないから知らないのです。レギナルド王とシャノンさん、二人に一巡目の世界のことを聞かなければわかりません」

「そう、ですか……ありがとうございます」

「突然、申し訳ありませんでした」


 アルバスのほうはある程度納得したようだが、エイダンは未だ難しい顔をしていた。同時に、アシルとアリアナも驚いた顔をしている。

 一応一巡目と二巡目の世界について口止めをしつつ、私達は帰城することとなった。



 城に戻ると、ジスランが疲れた色を隠しながら会いに来た。

 忙しいのだから、無理をしなくても良いのに。そう話してもやってくる彼は、きっと心配をしているのだ。

 私が、やがて帰らなければならない事を。


 聖女は女神エメニエスによって地上に送られた分身。その存在理由は邪神ディラの力を与えられた者たちを止めるため。

 サナが死亡したことで私の存在理由は無くなった。

 やがては女神の元へと帰ることになる。


 私だって、消えたくない。


「ジスラン」

「なんだい?」


 呼ぶと優しく微笑んでくれる。


 その時が来るまで、せめて貴方の側にいたい。

 そっと寄り添って、私は目を閉じた。









 聖女とアシル、アリアナの帰った部屋で、アルバスも辛そうにシャノンを見ると、すぐに部屋から出て行ってしまった。

 残されたそこで一人、シャノンの寝顔を見ていた。


「シャノン」


 もっとなにかを、君にあの時に救われたのだと、君のことが気になっていたのだと、言葉にしておけばよかった。

 何もかも終わった後――いや、まだだ。まだ終わってない。まだ、彼女はここにいるのだから。


 冷たい手を両手で握りしめる。


「君に」


 君に救われて、世界が変わったこと。エルフたちに混じった異端のこと。同じ時間を歩む君のこと。怪我をした君が心配だったこと。姉が君と話したことを聞いて、うらやましかったこと。王と共に何かをしている君が心配だったこと。誘拐されたと聞いてどれほど恐ろしかった。そして、二つのお守りのこと。二人のシャノンのこと。


「たくさん、話したいことがあるんだ」


 後悔しないように。








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