これが最期だと言うのならば
炎が、身体を焼いていく。
目が開けられなくなって、まぶたを閉じた。
あの驚いた顔
私は、少しでも報いることができただろうか
……でも
悔しい
もう一度、やり直せたら
みんな、死なせないのに
みんなを守ったのに
かみさま
いや、誰だっていい
どんな代償を払っても良い
この命だって差し出すから
わたしは――
ふと、世界が変わった。
痛みが消え、視界が開く。
「やり直したい?」
声が聞こえた。
湖の中心に聳える巨木の側に、ヒトでもエルフでもない、不思議な存在が居た。
魔物のような物ではない。神聖な存在だと直感的にわかった。
顔は、エルフのようだった。
だが、その両手はまるで魚のヒレのようだ。それが、幾つも腕から生えている。
両足はなく、その代わり木々の根のようなモノが生えている。
美しい銀色の髪が足下まで伸びる。その瞳は、空と緑が合わさったような色だった。
彼女は光のないランタンを抱いていた。
「貴女の願い、叶えられるかも知れない」
湖に足を入れ、彼女に近づく。
「けれど、それ相応の代償が必用よ。それでも、やり直したい?」
「やり、なおしたい、です」
湖に、雨が落ちた。
「どんな代償だって払います。この命を捧げてもいい」
「なら、契約を」
「貴女の命を、燃やし尽くしなさい」
その瞬間、また世界が変わった。
黒い炎が燃える世界へ。
そして、目の前には私が居る。
やり直した私が。
彼女は、自分の命を燃やし尽くそうとしていた。
けれど、違うのだ。
命を燃やし尽くすのは私。
女神と契約したのは私。貴女じゃない。
『ありがとう、ここまでたどりついてくれて』
けれど、この代償は私が支払う物。
『この命燃やしつくても、みんなを決して死なせはしない』
それが、死にかけの私が最期にできること。
視線を感じて振り返ると、彼がいた。
私の知る彼ではない。けれど、同じ存在。
エイダン。
貴方に逢えて、本当に良かった。
本当に、幸せだった。
幸せが続いていくと思っていた。
だから、せめてこの世界では――
『生きて、お願い』
体が、重い。
少しずつ、痛みが蘇っていく。
奇蹟が終わるのだ。
命の灯火が消えていく。
霞んでいく視界の中で、彼が必死にここまで手を伸ばそうとするのが見えた
「よか、った……貴方が、無事で」
そう言ったのは、誰だったろうか。
炎が体を焼いていく。
痛みがあるが、それ以上に疲れて何も考えられない。
喉が痛い。もう、何もしゃべれない。
あの、聖女が嗤っている。
血にまみれた広場で、魔女を処刑する彼女は、とても満足そうに嗤っている。
それを見て、私は末期の力を振り絞って、笑った。
「なんで、なんで笑うの? 笑うのは私でしょう? なんで、お前が笑うっ!!」
そんな声が聞こえた気がした。
この先の事を知っているから。
やり直した先での結末を知っているから。
だから……




