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最期のキセキを貴方に  作者: 絢無晴蘿
第二章 『聖女に処刑された少女は、魔王と歩む』
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最期のキセキを貴方に



 ヒトとエルフの混合軍と魔物と洗脳されたヒトビトの戦いが始まった。


 戦いは、どちらかと言えばヒトとエルフ混合側が不利となっている。レギナルド王やエルフ達が森や周りのことを無視し大規模魔術によって魔物たちを一掃してしまえれば楽なのだが、魔物に紛れて襲ってくる洗脳されたヒトのせいだ。

 敵とは言え、相手は洗脳されたことで巻き込まれてたヒトだ。中には、女子どもも交じっている。

 彼等を洗脳から解放する為には殺してはならない。それが負担となっている。


「洗脳されたヒトビトは神官や巫女に回せ!」


 ネイロの声が響く。

 大神官によって集められた洗脳されていない神官や巫女たちが危険を承知で前線に出て、洗脳を解いていく。彼等を守ることも必用だった。


 偽聖女がいるであろう魔物たちに守られた奥から、屋敷よりも大きな狼のような魔物が咆哮した。

 その魔物の配下なのか、その魔物よりも少し小さめの魔物が俊敏な動きで混合軍に一気に距離を詰めてくる。


 レギナルド王を筆頭に、エルフの魔術師たちが的の大きな彼等に向かって攻撃を仕掛けた。水、風の刃が彼等を襲いかかり、土壁がその道を阻む。

 だが、それでも止めきれなかった狼型の魔物を剣士たちが迎え撃つ。


 ニアラたち治癒術の使い手が後方で負傷した者達を治療しているが、明らかにその数は増えてしまっている。

 そんな中、ファーガスト王国方面より、ヒトビトの声と馬の嘶きが聞こえてきた。


 少しずつ、それが見えてきた。

 ヒトビトの軍隊がファーガスト王国より参ったのだ。

 その前方にはジスラン王子……ではなく、第一王子ユベールの姿があった。

 ユベール王子はすでに聖女に洗脳されていたはず。そう、一瞬連合軍に緊張が走った。


「レギナルド王!! お待たせしました」


 ユベール王子の後ろからジスラン王子と聖女が現れる。

 大神官と共に、ジスラン王子と聖女がまだ王国にいた洗脳されていたヒトビトを解放して回っていたのだ。


 少しずつだが連合軍の勢いを増していく。





 そんな中、盛り上がっていく連合軍を魔物たちが守る最奥で彼女は見ていた。


 もちろん、ただ見ているだけではない。

 今では昔のこと、魔王と呼ばれた者が周辺に描いていた魔法陣の修理を行なう。

 このまま、倒されるわけには行かないのだ。できるだけ沢山のヒトとエルフを殺していかなければならない。


 ようやく魔法陣の存在に気付いたらしきエルフ達が動き始めた。

 おそらく、このままではらちがあかないとでも思ったのだろう、エルフ達を束ねるレギナルド直々に前線へと現れる。


 しかし、遅い。もう、ほとんど魔法陣の準備はできている。


 魔力を、一気に魔法陣に注いでいく。

 足りない分は、周辺の魔物や洗脳されたヒトたちの魔力を、一緒くたに奪っていく。


 空に、黒い炎が燃え上がった。小さい炎がどんどん膨れ上がり、ヒトと同じほどまで膨れ上がる。それが、少しずつ数を増やしていく。


「みんな、みんな死んでしまえば良い!!」


 まずは一つ。帚星のように尾を引いて黒炎がレギナルドの元へと向かう。

 勢いを増しながら墜ちていく黒炎とレギナルドの魔法がぶつかった。

 爆風が起こり、周辺に黒炎が飛び散って引火していく。


 さらにもう一つ。二つ。三つ。次々と生み出される黒炎が連合軍へと向かった。

 もちろん、レギナルドのように魔法で防ごうとしていくが、みなレギナルドほどの魔力は無い。

 防ぎきれずに直撃した黒炎が周囲を焼いていく。


 その時、一筋の矢が放たれた。

 銀の光を撒き散らしながら、的確な精確さで黒炎を直撃していく。一本程度ならまだ大丈夫だが、それが幾つも放たれて、黒炎を霧散させていった。

 さらに、周辺の魔物へも矢は放たれ、息の根を止めていった。







 瘴気を纏う黒き炎が辺りを燃やしていく。

 少し触れただけでも皮膚がただれ、瘴気が体を蝕んでいく炎に、翻弄されていた。


「魔術師は黒い炎に対応しろ!」


 そう叫びながらいくつかの炎を打ち落としていくが、間に合わない。


 偽聖女が一巡目の世界で時間をかけてからエルフ達を襲い侵略していったのは、洗脳して自分の仲間を増やすためと、力を溜めるためだった。それが、今回は仲間を増やして王国を乗っ取ることを防ぎ、早くにこうして戦う事ができた。それなのに、足りないのか。


 レギナルドが一瞬悔しさで我を失いそうになったときだった。



 一筋の矢が背後から放たれた。


 銀色の光を纏ったその矢は、見知った物だった。


「……ミラ」


「レギナルド! 待たせてしまってごめんなさい」


 凜とした声が遠くから響く。


「君が来る前に終わらせられたら良かったんだがな」

「そんなこと、言わないでください」


 振り返ると、少女と共に馬に乗ったミラと彼女の親族であり、森の聖域、世界樹の麓を守護する一族たちが矢をつがえ、彼女を先頭にこちらに向かってくるところだった。

 少女が誰なのかに気付き、思わずレギナルドはつぶやいた。


「来たのか、シャノン……」






 黒い炎が燃えている。

 ヒトが、エルフが、魔物たちが傷ついて戦っている。

 瘴気が漂う戦場に、私はミラ様と共に辿り着いた。


『――それでしたら、私が連れていきましょう』


 アシルに戦場に連れて行って欲しいと懇願していた私に助け船を出してくれたのは、ミラ様だった。

 しばらく不在だった彼女は、そう言うと私を一緒の馬に乗せて今までの事を聞いてきた。

 ミラ様は、レギナルド王に頼まれて世界樹を守護する親類たちに協力を頼んできていたのだ。

 説得に時間がかかってしまい開戦に間には合わなかったが、彼等はレギナルド王たちの為にすぐに戦場へと向かった。



「あの黒い炎を打ち落とせ! 魔物たちも居るぞ」


 聖域の守護者たちはすぐに戦場を把握すると次々に矢を放っていく。

 しかし、炎は燃え広がるばかりだ。魔物たちも自身が炎に身を焼かれるにもかかわらず襲いかかってくる。




『――契約を』




 あの、声が聞こえる。



 そうか、そうだったんだ。

 私が、ここにいる理由がわかった。


 このやり直しの代償を、しっかりと思い出した。




 私の代償は、この命だ。




 今まで作ったことのないほどの大規模の結界を、創り出す。


「誰も死なせないっ」


 どんな代償を払っても良い

 この命だって差し出すから


 そう、願ったのは私だ。


 黒い炎が降り注ぐ。

 ただの炎ではない。瘴気の塊のような、禍々しい炎は、結界にたやすくひびを入れていく。


「させ、ないっ」


 結界に込める魔力を増やす。増やす。増やしていく。

 ひびが入ると同時に消えていくが、幾つも幾つも焔は降り注いでくる。

 頭が痛い。一瞬気が飛びかけるが、そんなことをすれば結界が壊れてしまう。唇を噛んで、痛みで覚醒する。

 耳鳴りがする。両手が少しずつ冷たくなっていく。大切なモノが、失われていくのを、少しずつ感じる。


 この巨大な結界を創った時に限界はとっくに超えていた。こんな大規模な結界、私には本来作ることができない。

 これは、ズルだ――命という対価を払って手に入れる、あり得ないモノだ。


 聖女様が何かを言っているが、意味はよくわからない。一瞬、体が楽になったように感じたが、すぐにそれも消えてしまった。

 誰かが何かを言っている。けれど、視界がかすんできたせいでよく見えない。声が、遠くなっていく。

 まだ炎は降り止まない。

 足が震える。まだ、結界を維持しないといけないのに。

 だめ、今はまだ。

 

 少しずつ、結界のひびが直るよりも早く広がっていく。


 体が悲鳴を上げている。もう、これ以上はいけないと。

 けれど。


『ありがとう、ここまでたどりついてくれて』


 かすんでよく見えないはずなのに、彼女の姿だけはしっかりと見えた。

 血で汚れ、所々焼かれた服を着て、ブロンドの髪はひどく乱れていて、それでも希望を見るかのように私を見た空色の瞳……。


『この命燃やしつくても、みんなを決して死なせはしない』


 もう感覚の無い私の手を、彼女は血だらけの手で包み込んだ。


 彼女は、一巡目の私だった。






 壊れかけの結界が創り直されていく。

 さらに強固に、堅く、すべてを守るために。


 その結界を創り出す少女を、戦いの中エイダンは見た。


 あの少女がいる。ずっと、見守ってきたシャノンが。そんな彼女に寄り添って、透き通った少女が居た。

 血まみれで、まるで処刑をされていた途中のような少女――シャノンとうり二つな少女が。




 なぜか、彼女が自分を見たような気がした。

 いや、気のせいじゃない。

 何かを、言った。

 離れた場所に居たにもかかわらず、彼女の声が聞こえてくるようだった。


『生きて、お願い』


 どうして。どうして、そんなに泣きそうな顔でそんなことをいうのか。

 戦っている途中だというのに、気付いたときには彼女の元へと走っていた。手を伸ばしたとき、ボロボロの少女の幻想は消え――崩れ落ちそうになったシャノンを支えていた。


「よか、った……貴方が、無事で」


 そう、シャノンまでつぶやき、そのまま意識を失った。


「……どうして」


 両親から託されたお守りを服の上から握りしめる。

 これと同じ、けれど赤く染まり割れたお守りの残骸の入った瓶を、彼女も握りしめていた。

 少しずつ、彼女の体温が失われていく。


「シャノン、さん」


 名前を、呼ぶ。

 もう何年も読んだことのない名を。


「シャノンっ……」


 けれど、応えはなかった。








 なんだ、あれは。


 混乱していた。

 結界の中心に居たのは、あの憎らしい少女シャノンだ。

 精神に干渉してしばらくは再起不能なまでに壊したはずなのに。

 しかも、あれは?

 あの、傷だらけの少女は?

 シャノンの記憶……彼女が一巡目の世界と呼ぶそこで、私が殺したシャノンだ。

 なぜ、ここに居る?

 亡霊のようなシャノンの姿が消える。それと共に、彼女をエルフの青年が助けた。

 あの顔も知っている。シャノンの記憶で、知っている。


「なんでっ、どうしていつもっ」


 いつだって、誰も助けてくれなかった。

 恨みを言いながら死んだ母も、身重の母を置いて消えた父も、みんな。

 エルフとヒトの血をひく異端だから。

 唯一受け入れてくれた彼は聖女に殺された。


 それなのに、なんで彼は笑ってる。なんで、シャノンとエイダンは幸せそうに笑ってる?


 自分のような存在を生む奴らが許せなかった。


 また繰り返すのか。

 こんなに苦しくて辛い思いをしたのに、また。


「サナ」


 聖女の声がした。


 いつの間に近づいてきていたのだろうか。

 見れば、ジスランと聖女が居た。

 すぐに聖女と成り代わったことに気付いた第二王子と聖女。二人はお互いを信頼するように寄り添っている。


「サナ」


 また、そんな名前を呼ぶ。

 しかし、わからない。なんでそんな名前を呼ぶのか。

 名前なんて、つけてももらえなかったのに。


「レギナルド王が教えてくれました。貴女の父親は病で死ぬ直前まで貴女の名を呼んでいたそうです」


 一瞬、意味がわからず固まる。


 レギナルドが私の事を知り、そして聖女に教えたのだと理解した時には、憎しみしか無かった。


「なにそれ? 私に名前なんて無かった。父親? 裏切って消えた奴が、死に際になに言ってるの?」


 聖女の顔が、歪む。まるで、私を憐れむように。


 なぜ?

 なぜ、そんな顔をする。私がしていることを否定する。


「私を憐れみるな!!」


 大切な物はない。唯一愛した彼はもういない。なにも、ない。


「これは私に残された唯一の物なんだ。お前たちを呪う事も怨むことも憎むことも、私の物。それを、憐れむな!!」


 もしなんどやり直しても同じ事をする。ヒトをエルフを許さない。

 彼等を殺したい。

 シャノンのような奴らを、苦しめて殺したい。

 これは、なにも許されなかった私の物――。


「私は憐れまない。だから、君を殺すよ」


 ジスランの声が聞こえた。それと共に、胸に衝撃が走る。

 終わってみれば、あっけなかった。

 それでも、これは自分の選んだことだから、後悔はない。

 憐れまれることではない。



 私がやりたいことをやった結果がこれなのだから。








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