プロローグ さいかいb
「わぁ、きれい……」
村はずれにある高い木々の一つに登って、私は思わずつぶやいていた。
森の先に、私の住むファーガスト王国王都ファストリアが見える。
太い枝の一つに腰掛けて、私はゆっくりと都を見た。
王城はまだ明かりが煌々ときらめいている。そこから少し離れた場所にあるはずの教会は見えない。もう、消灯時間かもしれない。城下町はまだ夜は始まったばかりと明かりが美しく輝いていた。
少し冷たい風が頬を撫でる。
まだ冬は先だが、夜は寒くなりつつある。
今日は、森の収穫祭。
疲れて一人、こっそり抜け出してきてしまったのだが、そろそろ森の収穫祭に戻る時間になる。
兄様も探していることだろう。
まだ祭りは始まったばかりという事実にため息をつきながら、私はゆっくりと樹から降りようとした--その時だった。
鐘が、鳴り響いた。
鐘が
私は
この鐘の、音は
これから起こるであろう未来が、ある意味過去であるその記憶が、その時の感情も一緒に頭に流れ込んでくる。
痛い
苦しい
この痛みは、過去の私の痛みだ
そうだ、私は--
魔女と、呼ばれて処刑されたのだ。
木々から転げ落ちながら、私はどこか冷静に考えていた。
あの時は混乱して結界を創ったことで簡易な結界しか作れなかった。けれど、あの時よりも冷静に結界を創っていく。
衝撃。
あの時よりも結界を上手く作れたけれど、体中が痛い。
結局私は魔力が少ないから、たいした結界は作れないのだ。
痛む身体を無視して、私は立ち上がる。
大丈夫、あの炎に比べたら、なんでもない。あの苦しさに比べたら、なんでもない。何もかも奪われていったあの時に比べたら、こんなこと、どうでもいい。
立ち上がらないといけない。
ここから、歩き出さないといけない。
なぜ、過去に戻っているのか、分からないけれど。
早く、しないと。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
エイダンが、いや、エイダン様が、あの時と変わらず私の元へと来てくれた。来てしまった。
とても心配そうに、私に手を差し伸べてくれる。
それだけで、エイダン様があの記憶を持っていないことが分かった。
だから、私は。
「……大丈夫です」
その手を拒否する。
そう、こんな傷、なんでもない。
本当は、抱きついてそこに存在している事を確かめたかった。温かい彼に触れたかった。
彼が今、存在している、そのことに泣いて喜びたかった。
けれどダメだ。
彼を巻き込むことはできない。
私は、もう、誰も死なせたくないから。
絶対に、死なせないから。




