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最期のキセキを貴方に  作者: 絢無晴蘿
第一章 『聖女が降臨したけれど、私は普通に暮らしたかった』
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憎悪の行方



 吹雪が到来した。もうすぐ、新年を迎えるファーガスト王国はみな忙しく新年の準備をしていた。

 学園も、もう冬休みとなっている。私は、新年の準備と、いくつかの楽しみがあるので例年よりも新年が待ち遠しかった。

 新年への年越しは、貴族達は王宮でのパーティーで行なう。そして、2日からは家族とともに一週間ほど屋敷で過ごすのが通例だ。

 アルフィー家はいつも父様と兄様がパーティーに出席していたが、今年は私はエイダン様と共に出席することになっている。エイダンと会えるのは嬉しいが、パーティーはそこまで慣れていないのであまり好きではないのだが、パーティーにはアシルやアリアナ、ユーグも出席する。

 話をする事はできないだろうが、顔を見れるだけでも嬉しい。なにしろ、アシルもアリアナも結局ほとんど学園にこれなくなってしまって年末の挨拶もできなかったのだ。


 楽しみはまだある。新年の休みにボールドウィン家に招かれているのだ。一週間の休みは家で過ごすものだが、未来の家族となる婚約者の家に行って挨拶する者も多い。なにより、新年の休みに招かれると言うことは、相手から心より婚約を喜ばれていることでもあるのでとても嬉しかった。


 新年の休みが終わってから少しすれば常緑の森の魔物狩りも行なわれる。一年を通して魔物は現れるのだが、特に年明け後から活発に活動を始め、生き物を襲い出すのでエルフ達は魔物狩りを行なっている。なんでも、冬は動物が冬眠し、草木も枯れてしまうため、食べ物を探して活動的になるそうだ。

 魔物の肉は臭みがひどく、魔力汚染されている事もあるので普通食べられないのだが、エルフ達はその臭みを取り、適切な処理をして食用の肉へとする。その魔物肉が意外と美味しい。

 臭みの酷いままの肉は本当に食べ物には思えないほどの代物なのだが、しっかり処理すればとても美味しいのだ。

 父様と兄様も交流の一環で一緒に行って、お土産としてその魔物肉をもらってくる。それが毎年の楽しみとなっていた。



「おまたせ、シャノンさん」


 以前のパーティー同様、茶色の髪に茶色の瞳に色を変えたエイダンが迎えに来る。


「シャノンさんは、ドレスを新調したのですね。似合っていますよ」


 そう言うと、彼は照れくさそうに明後日の方を向いた。

 青と翡翠色のドレスを見て、彼はそう褒めた。年越しのパーティーでは大体新しい衣服を纏って参加することになっている。エイダン様の瞳の色に合わせて色を選んだが、気付いてくれただろうか。

 ミラ様とオリーヴィア様曰く、彼は意外と抜けていて鈍感らしいので、気付かなかったかもしれない。

 あと、積極性がないとオリーヴィア様に酷評されていた。オリーヴィア様には婚約者がいて、その方がエイダン様の友人らしく、エイダン様にことに詳しい。


 ちなみに、ミラ様とはあのお茶会の後から、オリーヴィア様とは先日招かれた貴族同士のお茶会でたまたま再会してから手紙をやりとりする仲になっていた。

 時々オリーヴィア様からなにか言われなかったかと聞かれるが、なんだろうか。

 エイダン様はミラ様とオリーヴィア様との交流を知って、昔のことを知られるのは恥ずかしがっていた。が、私はエイダン様の事を知れるのがとても嬉しい。


 初めての年越しパーティーはとても賑わっていた。

 以前の突然のパーティーの時よりも人が多く、とても豪華だ。

 遠くから、アシルが見えた。忙しく動き回っているようで、すぐに姿を見失う。

 パーティーの中心には数人の騎士に守られた聖女様とユベール王子がいる。さっき姿を見失ったと思っていたアシルも、そこに居た。

 ユーグとアリアナの姿は、人混みに紛れて見つからない。


「出席者が多いですね」


 エイダン様も驚いたように耳元でささやく。


「そうですね……」


 兄と父の姿も見つからない。

 人混みが酷く、こんなところで年を越すのかと思うと少し気が重い。日付をまたぐ前に疲れてしまいそうだ。

 そんな中、よく知った声が聞こえてきた。

 顔を向けると、アリアナの姿が見える。ちょうど、侯爵家のヒトと挨拶を終えたようで、アリアナもこちらの姿に気付いたようだ。

 いつもと何か違う気がする。

 よく見れば、化粧が濃い。アリアナは白い肌で薄く紅をさすだけでもきれいなので、いつも化粧は薄めだった。おそらく、その化粧で目の下の隈などを隠しているのだろう。それでも隠しきれない疲れが見え隠れしていた。

 アリアナは侯爵家の人間として自らを律し、表向きは誰から見ても淑女の鏡のような存在だった。そんな彼女が隠しきれない疲れを見せている……それが心配だった。

 そんな私の様子に気付いたエイダン様が、小声で聞いてくれる。


「お知り合いですか?」

「はい……友人です」

「では、挨拶に行きましょうか」



「シャノン様、良い夜をお過ごしですか?」

「はい、アリアナ様。学園ではいつもお世話になっております。先日、婚約をしまして、ご挨拶に参りました」


 幼なじみとして仲が良いが、表ではあまり公にしていない私達は、他人行儀に会話をする。

 エイダン様には、あとでお話ししよう。


「まあ、おめでとうございます」

「初めまして、エイダン・ボールドウィンと申します」

「わたくし、アリアナ・マーティンと申します。エイダン様」


 当たり障りのない話をした後、少しだけ周りに聞こえぬよう小声で話しかける。


「お疲れのようですが、大丈夫ですか?」


 その言葉に、アリアナは私をじっと見つめた。


「……シャノン」


 そう言って、私の腕を手に取り、しかしそれ以上は何も言わなかった。ただ、取り繕うように笑う。


「大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」


 明らかにいつもと様子が違うのに。後で手紙を書こうと決め、私は頷いた。


「ごめんなさい、そろそろ行かないと」


 そう言うと、アリアナは私達と別れていった。

 その後ろ姿は、どこか寂しいものだった。




 ふと、思い出す。以前のパーティーの時、アリアナはアシルと共に聖女様と一緒に居たのに、今回は居なかったと。

 そういえば学園でも、休みに入る少し前からアリアナは聖女様と一緒に居ることが少なかった気がする。でも、疲れた様子だ。なにかあったのだろうか。

 年末年始は教会で儀式などがあって大変だと毎年言っていた覚えがあるが、それでも疲れなんて見せずに楽しそうにしていた。聖女様がいることでなにか儀式内容が変わったのだろうか。


「シャノンさん?」

「あ、ごめんなさい」


 うっかり考え込んでいた私は、エイダン様の声で現実に戻る。

 まだパーティーの終わりにはほど遠い。


「疲れましたか? 少し、テラスに出ましょうか」


 そう言って、エイダン様はテラスの方へと手を取って誘ってくれた。

 外はもう真っ暗だ。風が冷たく、目が覚める。

 空を見上げれば、満天の星空が広がっていた。


「きれい……」


 来年も、こんな夜空が見られたら。

 しばらくして、私とエイダン様は会場に戻ると、少し雰囲気が変わっていた。



「ほら、あの方……」

「一人で……」



 こそこそと周りで誰かが何かを言っているのが聞こえた。

 その声色や聞こえてくる単語はあまりよい内容には聞こえない。陰口だろうか。

 見ると、早足で一人の女性が会場から出て行く。少し見えた顔は青く、今にも泣き出しそうなかわいそうなほど追い詰められた顔だった。

 彼女には見覚えがある。


「ユベール殿下の婚約者様だわ」


 思わず、声に出していた。

 ロゼッタ・サンチェス様。サンチェス侯爵家の長女で、幼い頃からのユベール王子の婚約者として教育を受けている。私よりも年上で、すでに学園を卒業していて、来年結婚する予定なのだが……。

 ちらりとユベール王子の姿を探せば、聖女様とアシルと共にいる。婚約者である彼女が会場を出て行ったにもかかわらず、ユベール王子は追うこともなく聖女様と談笑をしているようだった。アシルが慌てた様子でユベール王子に何か言っているが、聞かずに彼は笑っていた。

 私達がいない間に、なにがあったのだろうか。


「シャノン、何処行っていたんだ」

「お兄様……?」


 慌てた様子で、兄様がやってきた。

 私の様子に安心した様子を見せると、エイダン様に顔を向ける。


「エイダンさん、少しまずそうなことが……」

「どうしました?」

「……とにかく、後で話しましょう。あまり、私から離れないようにしてください」


 この異様な雰囲気……。私とエイダン様は頷いて、その後は兄様の近くから離れずに過ごした。

 心なしか、周辺の人々の目線がどこか嫌なものだった。




 アルフィー家の屋敷へ、私はエイダン様と兄様と一緒に帰ることになった。父様は今宵のことについて大変なことになってしまったと顔見知りの貴族達に声をかけ、話し合いをすることになったらしい。

 結局、パーティーから帰るまで何も教えてくれなかった兄様に、エイダン様は屋敷についてすぐ少し困ったように聞いた。


「アルバス、いったい何があったのですか?」

「ユベール殿下がサンチェス嬢を侮辱しました。しかも、エルフと交流を持っている一族だという理由で」


 そう言うと、兄様は居間へと案内する。

 こんな深夜だというのに、ジュリア達がお茶の用意をしてくれていた。


「ちょっと待って、兄様……それって、ロゼッタ様のお母様のお祖母様のこと? まさか、ユベール様がそんなことを気になさるわけ……」


 ロゼッタ様の曾祖母は、繋ぎの一族の出だった。その縁で、ロゼッタ様のお母様と私のお母様は生前仲が良かったらしい。

 だが、ユベール王子がその事を侮辱するなんて考えられなかった。現国王もユベール王子もエルフとの交流を無理のない範囲で進めていた。はずなのに。


「つまり、エルフの排斥派になったということですか」


 エイダン様が、静かに言った。


「その可能性が高いです」

「そんな……」



 --こうして、これからどうなるのか誰もが不安を抱えながら、激動の年は始まった。









 -----どうして?


 パーティーで見た光景を思い出し、『わたし』は指の爪を噛んだ。


 どうして?

 なんで彼女は幸せそうに笑っているのだろうか。

 なんで彼は幸せそうに笑っているのだろうか。

 なんで。なんで。なんで。どうして。私は、幸せじゃなかったのに。

 うらやましい? いや、うらやましいわけじゃない。ただ、ただただただただただただただ憎い。憎い。嫌いだ。嫌だ。いやだ、イヤだ、いやだ、嫌だ、厭だ、いや、いやだ、悲劇だ。なんど繰り返す。繰り返してる? 彼等は繰り返さない? そんな、ことない?

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてなんでどうしてどうしてどうしてしあわせがほしいのにどうしてうばうのどうしていつもいつもいつも何時もいつも幸せになれないの わたしを見て お前達のせいだ

 お前達がいなければ

 どうして、見てくれないの

 お前達さえ存在しなければ

 彼等はあのヒトたちじゃない?

 いや、同じだ

 同じ事をするはずだ

 わたしがなにをしたの

 わたしは、わたし、なにをしたの

 わたしはなに



「ねえ、シャノン」





 元々狂っていた歯車が、壊れていく。

 少女の憎悪が、溢れ出す。

 




「幸せそうに笑う貴女が、とても憎いわ」




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