第2試合 レスラーは格闘家とは違うぞっ!
ゲームのが家に届いた。
どうやら抽選制だったようだが幸運にも当選したみたいだが、そこら辺の事情はよく分からない。
まあ、せっかくのやる気に水を差されなかったのはよかった。
箱を開けると、私が知っているゲームの形状とは似ても似つかぬもので、ゴーグルの付いたヘルメットと両手首と両足首に装着するリング、そして説明書が入っていた。
「えっと……何なに?このリングはプレイヤーであるあなたの運動能力を測定する効果と、脈拍や体温の異常を感知したらゲームを緊急停止する効果があるわけね。最近のゲームはすごいな……」
あまりフルダイブVRMMOというものが何であるかはあまり理解していない。知っているのはVRが仮想空間にいるかのような錯覚を生み出すシステムだということくらいだ。
説明書にMMOの解説が書かれていた。
どうやら、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインの略称のことらしい。要は、このゲームを遊ぶ世界中の人間全員がゲーム会社が用意した入れ物の中で同時に遊べるというシステムの事のようだ。
うん、説明書を読んでもさっぱりわからない。
「まあ……それじゃ早速始めてみるとしますかね」
説明書にある通りに4個のリングを両手足首に装着してからヘルメットを被り、耳の箇所にある電源をオンにする。
すると今まで真っ暗だったゴーグルの向こう側に突然何かが映りだし、目の前に「ラグシアオンラインRPG」のタイトルとともに小気味の良い音楽が流れてきた。
『ようこそラグシアオンラインRPGへ。私はあなたが自分の分身でありもう1人のあなたであるプレイヤーキャラを作成するまでサポートをさせていただくAIです。短い間ですがよろしくお願いします』
「あ……ど、どうも。こちらこそよろしくお願いします」
目の前に現れたAIと名乗る人物に下げらたので、日本人の習性なのか自分も頭を下げて敬語で接してしまう。
『まずはあなたがこの世界でどのような能力と才能を有して生きているかを、ここで設定することとなります』
「ふむふむ。なるほど」
『まずは種族の選択となります』
このゲームでは、人間以外にも様々な種族が選択出来るらしい。最初は同じ人間で、と考えたのだがゲームなんだから色々出来ないことを楽しんでみたいと思い。
力が強く頑丈な代わりに機動性に難があるドワーフを選択した。
『人間との混血、つまりハーフにする事も可能ですがどうしますか?』
「ハーフにすると何か違うの?」
『種族特性である暗視は引き継がれ、筋力や頑強さはドワーフより下がりますが機敏さは上がり、外見は人間に近くなります』
まあ確かに。ドワーフはどうやら低身長でかなり低重心な体型をしている。でも「普段と違った遊び」をすると決めて人間以外を選択したんだし、人間に寄せても本末転倒だろう。ここは、
「いえ。ドワーフでお願いします」
『わかりました。それでは種族はドワーフで決定いたします。次にゲーム開始時の職業を決定して下さい』
コレはいわゆる、あの「勇者」とか「魔法使い」というヤツだ。なら私が選ぶ職業は一つしかない。
……だが、その職業が見つからない。
選べる職業は100以上もあり、そんな大量の職業を隅から隅まで見たのに、その職業の名前がないのだ。
「あのー……レスラーという職業はないんでしょうか?」
『レスラーは職業に登録されてませんね。一番近いイメージなのは「格闘家」で──』
「格闘家はレスラーとは別物だっ!」
……被せた上に大声を上げてしまった。
だけど、プロレスと格闘技を混同する人の実に多いこと……プロレスラーとしてそれには激しく異議を唱えたい。
そもそも格闘技の本質は「いかに素早く相手を沈黙、無力化させるか」だ。護身術なんて派生も存在する。
喩えるならば一切の無駄を省いた体脂肪率数%の究極のアスリートの筋肉。
対してプロレスは「いかにカッコ良く!客を盛り上げ対戦相手の面子を潰さずに勝つか」というエンタメ要素を有した戦闘技術だ。
こちらを同じ筋肉で喩えるなら魅せることを意識したボディビルダーの筋肉だ。
だからこそレスラーと格闘家は混ぜるな危険。
プロレスの歴史はいつも格闘技と混同され悲劇を招いてきた。
そもそも────。
おっと……熱くなりすぎた。
この話題はプロレスラーには地雷だ。
……とにかくレスラーという職業がない以上は何か違う職業を選ばないといけない。だが、現実世界の確執がある以上は死んでも「格闘家」だけは選びたくない。
そこで目に止まった一つの職業。
────────「剣闘士」
「AIさん、私この「剣闘士」にします!」
『それでは、あなたは種族がドワーフの、職業が剣闘士で決定します。本当によろしいですね?』
「それでお願いします」




