第11試合 新人デビュー戦はシングル?いえ乱闘です
まだゲームを開始してから1時間も経過してないのに、ドッと疲れてしまったが。
ようやく街を出て、私とミーナは目的地の「始まりの森」へと到着した。
「それじゃミーナ、今日は私がどれだけモンスターと戦えるかを試したいから。出来れば経験者で先輩のミーナはフォローに徹してもらいたいんだけど……」
「はいっ!今回は後衛でフェブラさんを支援しますから、存分に戦って下さいっ!」
(……うひひ。背後からじっくりと如月選手の戦いぶりが眺められるなんてどんなご褒美なんでしょうか)
素直に従ってくれるのはありがたいが、先程からニヤけているミーナに少しばかり薄寒い気がしてならないが。
これから戦いが始まるにあたり、両頬を両手で叩いて気合いを入れて前方へ警戒を集中する。
『〈気合い〉スキルを発動します』
すると。
前方の茂みからガサガサと音がする方向へと向き直ると、茂みから顔を出すのは……犬?
中型犬くらいの大きさだが、犬にしては牙が鋭く肉付きもどっしりとしている。
「フェブラさんっ!あれは犬じゃなく狼でモンスター名はウルフですっ!案外素早いので気をつけて下さいっ!」
「おー……犬じゃなくて狼だったか、こりゃ失礼」
茂みから先程のウルフに続いて3頭のウルフが姿を現す、合計4頭。
まずはどのくらいの攻撃が来るのか、私の機動力がどの程度のモノか様子見してみるとしよう。
私を敵と見做した4頭のウルフは、低い唸り声を上げながらジリジリと私の周囲を囲み始め、違う方向から一斉に襲い掛かってきた。
こういう場合は、ただこの場で攻撃を待つと攻撃側のいいように攻撃される。だから私は向かってくる1頭のウルフに走り込んで自分から距離を詰めて、あえて4頭の攻撃タイミングをズラす。
「ふふっ、6人タッグやヒール組の乱入を思い出すね。にしても……4頭いっぺんに相手にしたら何発かは避けきれないと思ったけど案外何とかなるもんだね」
現役の時にも複数人からの攻撃に晒されることは多々あった。タッグ戦や6人タッグ、果ては軍団抗争だったりと。
レスラーの暗黙の了解として、選手の見せ場を奪うように取り囲んで問答無用にタコ殴りする真似は御法度だったが。ベルトや因縁が絡む時にはその了解が破られるのも日常茶飯事だ。
そして、そういう時の対処法を道場で先輩レスラーが教えてくれることはなかった。
だから私はそういった集団攻撃への対処法を独自で編み出す必要があり、合気道の道場の門を叩いたこともあった。
なので────。
噛みつこうとするウルフの顔の横に手を当てて、外側に噛み付きを逸らしながら、身体を捻って最小限の動きでウルフの横へと回り込む。
あと2頭のウルフの攻撃も同じように動いて攻撃を回避していき、最後の1頭の攻撃を回避し横へと回り込むと。
「よっこら……せっ!と……」
横からウルフの胴体に腕を回して、そのままウルフを頭上にまで身体を裏返した状態で振り上げて、そのまま膝を着いて頭から叩き落とす。
「……う、嘘でしょ?ウルフにパワーボムっ⁉︎」
マトモに頭から落とされたウルフはHPがゼロとなったのか、ウルフはそのまま動かなくなる。
背後ではミーナが驚きの声をあげるのが聞こえるが、ウルフが突進してくる勢いを利用する合気道の技をプロレスに応用しただけだ。
「残念だけどミーナ、これはパワーボムじゃないんだな」
「え?えええっ?」
正確にはこの技はガットレンチパワーボム。
ドクターボムとも呼ばれているが、一番の違いは尻を着かずに膝を着いて相手を叩き落とす、日本で生まれた「ボム系」の派生技だ。
多分、ミーナがそれを知らなかったのは私はこの技をほとんど試合の本番で使ったことがないからだ。
それでもこの技を選んだのは、四本足のウルフにはスープレックスの前提に持っていくのは、同じ入り方のサイドスープレックス以外は難しいと思い。今回は相手を持ち上げるボム系を試してみようと思ったのだ。
うん、掴みも固めも問題ナシだね。
貴重な練習台……残り3頭。




