【5】剣士、追放<2>
「……毒ぅ?」
それから宿の二階に運ばれて、ラーイールの治療を受けて目を覚ました後。
事情を聞きつけて集まってきたルインも含めた4人に向かってラーイールがそう告げると――エレンは信じられない、といった顔で声を上げた。
「はい、【毒】……いわゆる状態異常としての毒です。たぶん……今日のダンジョンでゴブリンの矢を受けた時に、かかったんじゃないかと」
「……ちょっと待ってよ。あのゴブリン、とんでもなく低レベルだったわよ? なんであんなのが、私たちに通じるような強い毒を持ってたわけ?」
「いえ、その……見たところ、【毒】系状態異常の中でも最低レベルのものでした」
ラーイールは俺を一瞥した後で、歯切れ悪そうにそう返す。
【毒】を始めとする状態異常は、【抵抗】のステータスが一定以上あればまずかかることはない。
エレンたちの中で(俺を除いて)一番【抵抗】が低いのは後衛職のルインだが、その彼女でも300はある。
使う毒系スキルのランクにもよるが、一般的にゴブリンたちが持っている【毒矢】スキルは毒系レベル1の最下級。このくらいの【抵抗】があればまずレジストできてしまう。
だが――俺はというと、この通り。
他のステータスに関しては装備品である程度上乗せできているが、【抵抗】だけは基本的に装備品では上昇しないステータスであるため、ここだけは生まれたままの「1」のまま。
それゆえにあんなゴブリンの毒をあっさりと食らって、知らず知らずのうちに、体力を蝕まれ続けていたというわけらしい。
なるほど、分かっている俺としては腑に落ちる話だったが――エレンはというと、そうではなかった。
「どういうこと、ウォーレス。あんな雑魚の毒を食らうなんて」
鋭いその緋色の瞳には、わずかに猜疑の色が混ざっている。
ごまかすべきか、俺は少し逡巡した末――正直に、打ち明けることにした。
「なあ、エレン。今から俺、【ステータス非公開】を外すから、ちょっと見ててくれるか」
「は? 何、唐突に――」
「いいから」
そう言って俺はポケットから冒険者カードを取り出すと、その表面に触れて【ステータス非公開】の項目を切る。
「ステータス、オープン」
俺がそう言うや、魔法で虚空に薄青色の表示板が投影されて――そこに俺の、全てのステータスが表示される。
それを見つめるや、エレンやラーイール、ゴウライ、そしてルインまでもがその目を丸くして絶句した。
「……ステータス、1? は、何これ、どういう……」
「見ての通りだ。……隠してたんだ、今まで」
彼女の顔を真っ直ぐに見て、俺は観念してありのまま、事実を告げる。
ひととおりの告白を聞き終えると――エレンは俺と視線を合わせないまま、すっと立ち上がって踵を返す。
「なあ、エレン……その、すまなかった。俺は」
「何も言わないで。話しかけないで」
いつもの彼女よりもなお冷たく、取り付く島もない言葉でばっさりと切って捨てると、彼女はそのまま乱暴に扉を開けて部屋を出ていってしまう。
「エレン――」
起き上がろうとする俺だったが、毒で蝕まれた体力がまだしっかり戻りきっていなかったらしい。枕元のラーイールはあっさりと俺を押しとどめると、困惑を隠しきれない顔で言う。
「……まだ休んでいてください」
「でも……」
「いいから」
有無を言わせずにそう言うと同時、彼女は短い声でぽつりと何かを呟く。
それが【睡魔】の呪文であると理解した頃には、【抵抗】1の俺の意識はあっという間に眠りの沼に再び沈んでいて。
それから俺が次に目を覚ましたのは、翌日の昼。
仲間たちが泊まっていたはずの部屋は――もぬけの殻に、なっていた。
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