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【19】初めての朝

 ……さん。


 ――レス、さん。


「……っはぁ……!」


 息を荒くしながら飛び起きると、そこは草原でもなんでもなく、宿屋の一室だった。

 窓の外からは気持ちのいい陽光が差し込んで、鳥のさえずりが朝を報せている。

 そんな清々しい空気の中――


「ウォーレスさん、もう、いつまで寝てるんですか」


 寝汗でびっしょりの俺の横に立っていたソラスを見て、俺はしばらく硬直して――


「…………いや、何でいるんだ、君」


「もーにんぐこーるという奴です。サービスですよ、喜んでください」


「ビックリの方が先に来たわ」


 そう返しながら、俺は毛布を引っ掛けて身を隠す。肌着一枚で寝ていたので、いくらなんでもこの格好で堂々としているのは抵抗があった。

 そんな俺の心を知らずか、ソラスはきょとんとした顔で首を傾げて、


「……なんでそんなふうにベッドの隅で縮こまって――ああ、さてはアレですね。男性の朝の生理的現象」


「違うわ! パンツ一丁だから目に毒だと思って自粛してるんだよ!」


「なるほど、それは失礼しました」


 妙に堂々とした態度のままそう言うと、けれど出ていく様子もなくベッドサイドの椅子に座って彼女はこちらを見つめて続ける。


「そんなに汗びっしょりだから、てっきり朝っぱらから何かいやらしいことに勤しんでおられるのかと思っちゃいました」


「君は俺を何だと思ってるんだよ……」


「お客様……兼、私の冒険者としての先生ですかね」


 いきなりそんな素直なことを言われて言葉に詰まる俺。そんなこちらの内心を知ってか知らずか、彼女は少しばかり心配げな表情で続ける。


「なので、ウォーレスさんがあんなに汗びっしょりでうなされているのを見ちゃうと流石に少し、気になっちゃうわけです。……どうしたんですか、何か悪い夢でも?」


「……まあ、そんなところだ」


 それ以上を彼女に語るのも何か違う気がしたので、それだけ言うと俺は口をつぐむ。そんな俺をしばらく無言で見つめ続けた後、ソラスは「そうですか」と呟いた。


「ともあれ、夢は夢です。悪い夢なら早く忘れて、朝ごはんにしましょう。今日は色々とやりたいことがあるので、もし良ければウォーレスさんにもご一緒して頂きたいのです」


「やりたいこと?」


 訊き返す俺に、ソラスは頷いて。


「今日から私も冒険者ですから。レベル上げとか――その前に装備をみつくろったりとか。先輩であるウォーレスさんにはぜひともご指導を頂けるとありがたいなと思いまして……もちろん、無理にとは言いませんが」


 そう言ってこちらを伺ってくる彼女。俺としては悲しいかな、やることも何もないので何ら問題なかった。

 だが……


「……良いのか、俺なんかで。今でこそこいつのお陰でマシになったけど、レベルが高かっただけのお荷物冒険者だったんだぜ?」


「卑屈なことを言いますね、ウォーレスさんは。……よしんばそうだったとしても、それでもウォーレスさんは勇者パーティの一員として旅をしていたんでしょう。ならその経験だけで、私からみれば大先輩です」


 なんの屈託もなくそう言うソラス。その言葉に、嘘や裏は感じられなかった。

 だから俺も肩の力を抜いて、苦笑混じりに頷いて返す。


「そう言ってくれるなら、是非もないが。……宿の仕事はいいのか?」


「今日はお父さんが店番はしてくれるみたいなので。お客さんはウォーレスさん以外にはいませんし、問題ありません。……嬉しいです、ありがとうございます。ではまた後で」


ぺこりと頭を下げると席を立ち、そそくさと部屋を出ていくソラス。

 そんな彼女の背を見送って、残された俺はぼりぼりと頭をかいて。


「……とりあえず、着替えるか……」


 頭を切り替える意味も込めてそう呟くと、ベッドから立ち上がってクローゼットの戸を開ける。

 よく晴れた、清々しい朝。

 ソラスにとっては冒険者として迎える初めての朝で。

 俺にとっては――パーティを追放されてから迎える初めての朝だった。


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