価値観の違い
──仮想通貨元年
そう呼ばれた年から数年経った。
今や仮想通貨は「第二の通貨」として流通していた。
TVに出ているクイズ番組で、珍回答・良回答をした人への「投げ銭」
動画サイトに動画投稿をした人への「応援」
さらにはレストランの「支払い」等にも扱われており、公共料金以外の支払いはほぼ可能だった。
仮想通貨を使うことが当たり前のこの時代に、人々は何の価値観を持つのだろうか──
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──0!
「あけましておめでとうございます!!」
高校に進学し、一人暮らしを始めた「僕」にとって、広くて狭い部屋の片隅のTVから聞こえてくる。
そして、「僕」のスマホに大量の通知が届く。
親戚の人たちからの仮想通貨による「お年玉」の到着通知だ。
「僕」はそれを軽く眺め、一喜一憂するわけでもなく、スマホを閉じた。
今は仮想通貨でお年玉が来る。年末年始に親戚が集まることもなくなった。
「初詣に、神社に行こう」
誰に語り掛けるわけでもなく、誰と行くわけでもないが、「僕」はそういって布団から降りた。
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「ただ今のレートは200円/コインです」
ビルの大きな電光掲示板から、音声とともに現在のレートが流れている。
昨日のニュースの通貨予報では、お年玉としての利用が増えるから上昇気味だと言っていた。
通貨価値が平均より比較的高い日は、皆がよく買い物をし、
通貨価値が平均より比較的低い日は、皆が買い渋りをする。
そんな日々が当たり前のように続いていた。
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神社に着く、最近立て直したばかりで綺麗なこの神社はとても賑わっている。向かうのは賽銭箱らしきもの。
「あった、賽銭は0.05コイン位でいいかな」
賽銭箱らしき形をした箱にはQRコードが貼られている。それを読み取って、仮想通貨を送金する。
これが現代の御賽銭だった。
「最近はどこもこの形式が多いな…おっ、小吉か」
お賽銭を「送金」する。そうすると「おみくじ」が帰ってくる仕組みだ。
「僕」はおみくじをSNSに投稿する。そして、帰路に就いた。
──そしてまた、いつもの「僕」の日常が始まる。
「あけましておめでとうございます!!」
中学に上がってから2年が立った「俺」にとって、リビングのTVから聞こえてくる。
そして、「俺」のスマホに大量の通知が届く。
親戚の人たちからの仮想通貨による「お年玉」の到着通知だ。
俺はそれをせわしなく操作し、一喜一憂した。
「ちゃんと後でお礼の電話を入れなさいよ」
母はそういった
「わかってるよ」
「俺」はそういうと、またスマホの画面を見る。
今は仮想通貨でお年玉が来る。年末年始にわざわざ親戚が集まらなくてもよくて、楽だ。
「そろそろ初詣に行くぞ」
父がそう言い、「俺」と両親は初詣に言った。
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「ただ今のレートは200円/コインです」
ビルの大きな電光掲示板から、音声とともに現在のレートが流れている。
昨日のニュースの通貨予報では、お年玉としての利用が増えるから上昇気味だと言っていた。
「俺」はそれを確認すると、前もって変えていた仮想通貨を使って、ゲームに課金する。
通貨価値が平均より比較的高い日に課金し、
通貨価値が平均より比較的低い日は課金しない。
毎回損得を計算してお金をやりとりする、ギャンブルみたいで日々が続いていた。
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神社に着く、最近立て直したばかりで綺麗なこの神社はとても賑わっている。向かうのは賽銭箱らしきもの。
「あった、賽銭は0.01コイン位でいいだろ」
賽銭箱らしき形をした箱のにはQRコードが貼られている。それを読み取って、仮想通貨を送金する。
これが現代の御賽銭だった。
「さあ何が出るかな…げっ、凶かよ」
お賽銭を「送金」する。そうすると「おみくじ」が帰ってくる楽しい仕組みだが、あまり楽しい気分ではなかった。
「俺」はおみくじを親に見せる。そして、3人で話しながら帰路に就いた。
──そしてまた、いつもの「俺」の楽しい日常が始まる。
「あけましておめでとうございます!!」
就職し、一人暮らしをしている「私」にとって、広くて狭い部屋の片隅のTVから聞こえてくる。
そして、「私」はスマホをせわしなく操作する。。
親戚の子供たちへの仮想通貨による「お年玉」の送信だ。
「私」はそれを終えると、少ししか返ってこない「お礼メール」に不満を感じながら、スマホを閉じた。
今は仮想通貨でお年玉を送る。年末年始に親戚が集まらなくて楽ではあるが、少し寂しい。
「初詣に、神社に行こうよ」
旧友からメールが届く、「私」は家から出発した。
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「ただ今のレートは200円/コインです」
ビルの大きな電光掲示板から、音声とともに現在のレートが流れている。
昨日のニュースの通貨予報では、お年玉としての利用が増えるから上昇気味だと言っていた。
通貨価値が平均より比較的高い日は、皆がよく買い物をし、
通貨価値が平均より比較的低い日は、皆が買い渋りをする。
一々損得を考えなければならない、そんな疲れた日々が当たり前のように続いていた。
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神社に着く、最近立て直したばかりで綺麗なこの神社はとても賑わっている。向かうのは賽銭箱らしきもの。
「あった、賽銭は5円でいいかな」
しかし、賽銭箱らしき形をした箱にはお金を入れるところがない
そして、賽銭箱らしき形をした箱にはQRコードが貼られている。それを読み取って、仮想通貨を送金する。
これが現代の御賽銭だった。
「ここもこの形式か…あ、中吉だ」
お賽銭を「送金」する。そうすると「おみくじ」が帰ってくる仕組みだ。
「なんか、この仕組みは風情がないね」
「私」がそういうと
「そう?楽だし、便利でいいじゃん」
友達はそういった。
「私」はありがたみのなさそうなおみくじの事は忘れることにした。そして、帰路に就いた。
──そしてまた、いつもの「私」の疲れる日常が始まる。
「あけましておめでとうございます」
定年退職し、一人暮らしをしている「ワシ」にとって、広くて狭い部屋の片隅のラジオから聞こえてくる。
そして、「私」は筆で封筒に名前を書く。
親戚の子供たちに贈る、「お年玉」の準備だ。
「ワシ」は書き終えたそれらを軽く眺め、一つ一つするお札や小銭を入れ、封筒を閉じた。
今は仮想通貨?とやらでお年玉を送るらしい。年末年始に親戚が集まらなくなってしまい、孫の顔も見れず寂しい。
「初詣に、神社に行くかの」
もういない妻に語り掛けるように、妻と行くわけでもないけが、「ワシ」はそういって革靴を履いた。
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「ただ今のレートは200円/コインです」
ビルのきらびやかな電光掲示板から、音声とともにカラフルな映像が流れている。
昨日のラジオの天気予報では、例年に比べ気温が上昇気味だと言っていた。
この時期のワシは、
気温が平均より比較的高い日は、散歩をしたり、外で盆栽の手入れをし、
気温が平均より比較的低い日は、家の中で本を読んだり、数独を解いたりする。
そんな日々が当たり前のように続いていた。
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神社に着く、昔からある古き良きこの神社はあまり人がいない。向かうのは賽銭箱らしきもの。
「あった、賽銭は500円でいいかの」
賽銭箱らしき形をした箱にはお金を入れるところがある。そこにお金を入れて、今年一年の御祈りをする。
これが昔から続くお賽銭だった。
「おみくじを一つくれ」
そういって、「ワシ」はおみくじを一つ買う。
「おっ、大吉か」
「ワシ」はおみくじを折りたたんでポケットに入れる。そして、帰路に就いた。
──そしてまた、いつもの「ワシ」ののどかな日常が始まる。