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極の細道  作者: LIAR
第二章 少年編
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第十九話『失ったモノ、望んだ結末』

――ここは、どこだ……

 闇の中にいた。

 また、あの空間なのか……ってことは、俺は死んだ、か。


 身体があるという自覚が、あやふやだ。ただそこにいる、というふわふわとした感覚が、頭の中までぼんやりさせている気がする。


 ああ、もう少し、魔力(マナ)が残っていたら。そうすりゃ毒にやられた左腕ごと、あの野郎(ゾイ)に魔法をかましてやったのにな。

 あと少し、何であと少しが足りねえんだろうな。いつも、いつも……いつもそうだ。大事な所で大ポカをやらかすんだ。前世とまるで変わってねえ。これが、俺の運命なのか……


『――ご主人様! ご主人様!』


 おお? クレアか……悪かったな。また死んじ――

『良かった……無事で良かったです』


……無事? 誰が?


『やっと魔力(マナ)が回復して、ご主人様に念を飛ばしたら、このようなことになっていて……とにかく、良かったです』


 話聞けよ。俺、生きてんのか?


『はい。生死をさ迷っている状態ではありましたが、私と念話ができるということは、もう心配ありません。

 今、モルデーヌ中の有志達が、ご主人様の為に、懸命に動いていますよ』


 みんな……俺の為に?


『念を送りますね』

 おう。


 頭の中に、映像が浮かんできた。

 あそこは東エリアの娼館だ……おお、あれは、レイルズ叔父さん……アランもいる……音声付きじゃねえのか。何かを話しているが、内容が解らない。

 あ、ランディ・ギルモアが衆の兵士に連行されていく。子分達も……そっか、捕まえたか。

 裏が取れたんだな。間に合ったな、アラン……うわ、ランディが、ボッコボコに顔を腫らしてる。アランの仕業だろうか。


――お、お次はシャルロットか。相変わらず綺麗だな。白銀の鎧を着込んでやがる。戦争でもする気か。恐ろしい目付きだ。

 教会の前で、彼女は何やら兵士達を並べて偉そうに喋ってる。


 声が無いと、やきもきするなぁ。何で映像だけなんだ?

『申し訳ありません。魔力を節約しないと、ご主人様と会話する力が。残り少なくて……』

 そうなのか。


 あの剣の柄に付いてる紋様は、神聖流の連中だな。

 シャルロットが剣を高く振り上げると、兵士達が一斉に街へと散っていった。何をするんだろう。

 そこへ、馬に乗った兵士が現れた。兵士も馬も脂汗をかいてヘトヘトな様子だ。

 シャルロットはそいつに抱きついた。うはぁ、真っ赤な顔してデレデレじゃねえか、役得だな。

 その兵士の手には革袋が。彼女はその袋から何やら、紙に包まれものを取り出す。すると胸を撫で下ろし、教会の中へ入っていった。


――ん? 次はロイド達だ。倉庫で何してんだろう。ああ! そうか、俺が閉じ込めたんだったな。すまん、すっかり忘れてた。


 倉庫の入り口では、議事堂から戻ってきたマッコイと、誰だろう……近隣住民だろうか。そいつらは数人で鉄の扉をこじ開けようと頑張っていた。魔法とか、いや、合鍵とか無えのかよ。


 ロイドは倉庫の中で、入り口の状況は気にも止めない様子。

 あらゆる道具を手にして眺めてからぶん投げ、手にしてはまたぶん投げを繰り返していた。何をしてるんだろう。

 一見しただけじゃ解らねえが、あの青のジャケットを見ていると、ポケットから色々な道具を出す猫型のロボットを思い出した。パニクってる時のお約束のような動きだ。

 おっと、何か見つけたようだ。ロイドは扉の前で四苦八苦しているマッコイに近付くと、その短剣を手渡した。何か喋るとマッコイは頷き、全速力で姿を消した。


『私が得た情報は、こんなものですけど』


 そうか。何かよく解らねえのもあったけど、皆が一生懸命だってことだけはわかったぜ。ありがとうな。

『いえ、私は先程見てきただけで何も出来ませんでしたから。お礼を言いたいのは私のほうです。あなたは英雄(ヒーロー)です』


 英雄? 何でだ。


『何でって、あの元魔王・ゾイを倒したんですよ? これなら、今の魔王を倒すことだって、決して夢物語では――』


――おい、ちょっと待て。

……誰が、誰を倒したって?


 ぼやけていた頭が、ここでようやく鮮明になってきた。


『え? 違うのですか?』


 違うも何も、俺は途中で魔力切れで、意識を失ったんだぜ?

『そうなのですか? ならば、一体誰が……私がモルデーヌに思念を飛ばした時には、既にゾイは八つ裂きになっていて、息絶えておりました』


 八つ裂きだと? あのゾイが? あっという間に傷を治しちまうゾイが……


 ダレスの仕業か? あ、そうだ、ダレスはどうした。


『ダレス様はご主人様を教会に運んで、それから……あれ?』

 どうした?

『そういえばダレス様の……先程から彼の思念を感じません。これでは、どこにいるのか判りません。ちょっと待って……こんなの、初めてのことです』

 ダレスの行方……そういや、あいつまだ、俺に黙っていることがあったな。弟子のくせに生意気だ。

『隠し事ですか』

 ああ。ランディやゾイと、訳の解らねえ会話をしてやがった。聞き出す必要があるな。

『そうですね。では、ご主人様。そろそろお目覚めの時間です。何か解ったら連絡致します。どうかこれからも、お達者で』

 おう。またな。



――身体の感覚が、戻ってきた。

 目を開けると、ローザがこっちを見ていた。青ざめた顔をしている。

 回復魔法をかけていてくれたのか……すまねえ、婆さん。


「坊っちゃま!? 大丈夫ですか坊っちゃま! シャルロット! ピース坊っちゃまが!」


 至近距離で怒鳴るなよ。耳がキンキンする。お陰で完全に目が覚め……うぁ、身体に全く力が……感覚があるのに、動かせねえ。魔法のせいなのか……


 高い天井。目だけ動かして辺りを見渡すと、ステンドグラス一面に天使の絵が描かれている。ここは、教会か……


 シャルロットは扉を蹴破って駆けつけ、横たわったままの俺にしがみついてくると、まるで子供のように声を上げて泣き出した。


――「お母様……ごめんなさい。勝手なことを――」

「もういいのよ、いいの。あなたはよくやったわ。だから、もう自分を責めないで」


 自分を、責めないで? いや、何もそこまでは思ってねえけど。


「お母様……ダレスさんは、どちらへ」

「ダレス? あなたを教会へ運んでくれて、その後またすぐに出ていったけど……アラン達と合流したんじゃないかしら。

 神聖流は今、ランディ・ギルモアの仲間と、魔神流の残党狩りを始めたところよ」

「そうなんですね……」

「もう大丈夫よ。どう? 痛みはない?」

「はい。痛みどころか、感覚がまだ……」


 シャルロットは、口元をおさえ、嗚咽を堪えた。

 涙脆いな。こんなに脆かったか?

 

「――坊っちゃま。身体の方はもう暫く、力が入らないかと思いますが、傷は塞ぎました故、もう少しお休みなさいまし」


 ローザはそう言って、俺の口元にスープを運んでくれた。暖かい。

 美味いなこれ。魚の出汁がきいていて、身体に染みてくるような、優しい味がする。


「もう、一人で何か解決しようなどと、思わないで。これからは、私たちがあなたの代わりに、ううっ……」  


 また嗚咽するシャルロット。どうした。いつもの様に、ここからが本領発揮よ! とか言えよ……


「お母様、そんなに泣かないで下さい。今回は魔力マナが足りず、思うような戦い方が出来ませんでしたが、大人になったら必ず魔王を――」


「もういいのよ、ピース。無理しないで。いえ、もう、戦えなんて言わない。これからはその頭脳を活かして、衆に貢献して頂戴ね」

「え? お母様……」


 彼女もローザも、視線を落とした。唇を固く閉じている。

……どうしたってんだ。何でそんなに弱気な発言をする。調子狂うぜ……



――やがて俺は、彼女達の優しさの意味・・を、理解する事となった。


 完全に身体の感覚を取り戻し、上体を起こした時――

 俺は、自分の左腕が無い事に、気が付いた。


 正しくは、左肩から根こそぎ持っていかれた状態だ。


 誰だ。これは、誰の仕業だ。


 これは確かに、俺が望んだ筋書きだ。

 そうでもしなきゃ、ゾイに一撃を食らわす事はおろか、毒が全身に廻って、俺は死んでいた。確かにそうさ。

 だが、意識を失っていた間に、俺の望んだ結末を、代わりに実行した奴がいる。そうとしか、考えられない。


 今すぐにでも動きたい衝動に駆られたが、家族の手前、すぐには許される状況じゃなかった。

 くそっ……


――俺は一晩中、教会の奥の中心に飾ってある石像を相手に、自問自答した。光の神、ヴァイナ神の像に向かって……


 俺の行動は、正しいとか、間違いとか、そんな事を考えて一々動いてねえ。気が付いたらダレスを庇ってた。

 

 後悔はねえ。全くねえよ。仲間殺られんのは、もう絶対に嫌だ。


 だが……この落とし前は、自分で付けなきゃ気が済まねぇ。


 ダレス。あいつは直前までビビってた。こんな芸当が出来るか。いや、そんな度胸があるとは思えない。ライアンが毒にやられた事は、本人と俺しか知らない情報な筈だ。

 じゃあ、誰なんだ。


 前世じゃ神なんていねえって思ってた。今もそう思ってる。ヴァイナさんよ。あんたは人から作られたのさ。

 ここには、神がかった能力を持った連中がいるってだけで、神がいるのとは違う。クレアだって人間だ。


 だが、もしあんたが居るってんなら、一つだけ知りてえ。

 ダガーナイフに毒が仕込んである事を知っていて、ガキごと魔族をぶった斬れる胆力を持った人間が、あの場所にいたのかって事を。なあ、一体、誰なんだ……教えてくれよ……


 ステンドグラスから小鳥達の鳴き声が聞こえてきた。見上げると、外が明るくなっていた。


……やっぱりあんたは、インチキだ。もう頼まねえよ。


 まずはダレスだ。あいつを探さなきゃ……


 そして一つだけ、胸に引っ掛かっていた事があった。俺は、その相手に出会った時、何をどう言葉にしたらいいのか。それだけは、まだ答えが出ていなかった。


 とにかく、ここを出なきゃ……

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