私の日常で宝物
「水弥!!」
私の名前を読んでこちらに走ってくるのは幼馴染の夢那。
私は夢那に返事の代わりに小首をかしげてみせる。
そうすると夢那は可愛らしく頬を膨らませて不満気な顔をする。
「水弥! 水弥が首をかしげるのは可愛いけど、返事をするのが面倒だからってそういうことをするのは止めなさい!! 将来社会に出てやっていけないよ??」
途中から文句なのか説教なのか分からなくなってしまっている。
それがあまりにも面白いから私はまたも返事をせずにいた。
しかも今回は夢那を笑ってしまっていたのだ。
当たり前に夢那は怒る。
「もう!!」
そう言ったっきりそっぽを向いてしまった夢那の頬を私はつんつんとつついてみた。
ちょっと上目遣い気味に・・・・・。
だってそうすると夢那は大抵許してくれるし。
「もう〜・・・水弥はずるい・・・・・」
夢那がどんなことを言ったって私は気にしない。
「夢那、帰ろ??」
夢那の制服の袖を引っ張りながら言ってみた。
そうそう、言い忘れてたけど私達は高校生。
そして今は悪夢のような授業が過ぎ去った放課後。
それにまだ、紹介できていない人たちがいる。
私と夢那が来るのを昇降口で待ってくれているのだ。
「はぁ・・・相変わらずの猫っぷりね、水弥」
夢那のその言葉は私に対しての嫌味かもしれないけど、私は猫が大好きだ。
だからその言葉はご褒美に他ならない。
「帰ろ?? 菖蒲と輝夜、待ってるよ?」
私の言葉にまたもため息をついた夢那は諦めたように頷いた。
「そうね。早く行かないとまた怒られるね」
夢那は私の腕を引っ張って軽く走り出す。
私も夢那に引っ張られるがままに走り出す。
「あっ、水弥と夢那遅い!!」
「早く帰りましょう??」
昇降口に行けば案の定、菖蒲に怒られ、輝夜は今日は怒らずにいてくれた。
これが私の日常。
口にすることのできない秘密はあるけど、それ以外は何もない。
夢那と菖蒲と輝夜がいてくれればなんでも良かった日常が
憎いあの男によって崩されるのは一寸先の闇の中。
私を壊すのは
私を包むのは
誰?