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蠢く5

 翌日、一行は無事にコサムドラへ向かって出発した。

 エリザはマルグリットの事をあまり良くは思っていない。それだけは間違いない。でも、その理由をマルグリットに聞く訳にも行かず、気付けばマルグリットの顔を見つめてしまっていたらしい。

「レナ様、私の顔に何か?」

「ああ、ごめんなさい。考え事をしていただけよ」

 レナは視線を窓の外に移した。

 マルグリットは、昨夜レナとファビオに何かあった事は気付いていた。あんなに落ち込んでいたファビオが、今朝は本当に機嫌も顔色も良く現れたのだ。レナが癒者の力をファビオに使った事は明白だった。


 今頃ハンスはどうしているのかしら。

 レナはあえてハンスの事を考える様にしていた。そうでもしないと、ファビオの姿ばかりを目で追ってしまうのだ。

 休憩の時、宿に着いた時、レナが馬車を乗り降りする度に、ファビオはやって来てレナに手を差し出す。

「ありがとう、ファビオ」

 出来るだけファビオを見ない様にするのだが、差し出された手から伝わるファビオの思いに心が揺れた。そして、ファビオの顔を見てしまうと、あの居心地の良い腕の中を思い出すのだった。


 ぐらぐらと揺れるレナの心にマルグリットも流石に気付いた。

 それはマルグリットにとって恐怖でもあった。息子ファビオのレナへの想いは、ただの憧れだと思っていた。だが、どうやら違う様だ。

 そして、レナも心が揺れている。

 アンの死に打ちひしがれているレナを、救いたかっただけなのに、なぜこんな事に。

 いくら何でも、あのアミラ様の子であるレナ様と、ファビオが……。

 二人ともまだ子供だ。なにも心配する事はない。

 マルグリットが、いくら自分に言い聞かせても、当の二人はお互い益々心をかき乱し乱されているのが手に取るように分かる。

 明日にはコサムドラの城に、という頃には、 レナもファビオも、心のままに目を合わせ微笑み合っているではないか。

「レナ様、ハンス様は今頃どうされているでしょうかね。王子教育に勤しんでおられるのでしょうね」

 あえて、ハンスの名を口にしてみた。

「そ、そうね。きっと忙しくしているわ。城に着いたら、手紙でも書くわ」

 レナはソワソワと、窓の外に視線を移してしまった。



 ここ数日、マルグリットがハンスの名を口にするまで、レナはハンスの事をすっかり忘れていた。

 ハンスを巡って、親友のエヴァから瀕死の怪我を負わされたりしたというのに……。

 あのミロキオの誓いすら忘れていた。

 あんな物は迷信なのよ。

 何だか急にハンスに腹が立ってきた。どうしてムートルに戻ったりしたのよ。コサムドラへ来れば良かったのに。あんなアルセン如きの魔力に、私もハンスも負ける訳ないじゃないの。

 ハンスへの怒りと比例して、ファビオの側に行きたいという思いが高まっていく。

 レナは自分の心を制御できなくなって行った。


「ほら、私を怖がる事はない! 集中してやってみろ」

 アルセンは、フェルナンドの魔力を開眼させようと、フェルナンドを訓練する事に夢中になっていた。

 夢中になる程、フェルナンドの魔力は強まって行っているのだ。

「ほら、お前は出来損ないなんかじゃない。ただ使い方を知らなかっただけだ!」

 フェルナンドはアルセンの目の前で、人を操って見せた。

 フェルナンドの魔力で裸になったメイドが、フェルナンドの前に立った。

「そのメイド、好きにして良いぞ」

 アルセンがニヤニヤとするが、フェルナンドは浮かない顔だ。

「何と、女に興味がないのか!」

「いえ、あの、そう言う訳では……」

「私に嘘をつくな。そうか、ムートルのブルーノ王がお好みなのか」

 フェルナンドは、耳まで赤くなってしまった。

「何も恥ずかしがる事はない。ムートルを攻め落とせれば、ブルーノをお前の好きにすれば良いさ」

 アルセンは、楽しくて仕方がないと言わんばかりに笑った。

「……はい……」

 フェルナンドは、まだ自分が魔力を持っていたとは信じられなった。この歳になって、魔力が開眼するなどという事はあるのだろうか。

 もしや、ここが魔人の国だからだろうか。

「そうかもしれないな。ここははるか昔から魔人の国だからな。もっと練習すれば、もっともっと魔力は強くなるぞ。そしてムートルを攻め落とすぞ!」

 城にアルセンの声が響き渡った。



 レナの一行は無事にコサムドラへ戻って来た。

 城に戻ったレナ達に知らされてのは、エミリオの母が数日前ベナエシで自ら命を絶った、という事だった。

「息子に死なれては、母親と言うものは生きてはいけないのです」

 マルグリットが複雑な表情で言った。エミリオの命を奪ったのは、息子のファビオなのだ。

 レナがマルグリットを抱きしめた。

「気にしてはダメよ」

 レナに抱きしめられると、不安で複雑な気持ちが嘘のように消え、とても安らかな気持ちになった。

「レナ様、そんなに癒者の力を容易く使ってはいけません」

 癒者の力は、使えば使えほど癒者の体力を奪うのだ。

「このくらい大丈夫よ」

 レナは余裕の表情で微笑んで見せた。


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