蠢く4
部屋を用意する様進言したのはレナだった。
チャンスは今夜しかない。
アンの様にファビオが自責の念から心を壊す姿を見たくなかった。それも、原因はまた自分なのだ。アンは救えなかったけれど、ファビオは救ってみせる。
それにはファビオを一人にする必要があった。
「ファビオ? 寝ちゃった?」
ノックをしても返事がないので、声を掛けると、ドタバタと足音がしたかと思うと扉が開いた。
「レナ様! どうされたんです?!」
寝間着姿のファビオの胸元が少しはだけており、筋肉質なファビオの身体にレナは顔を赤くしてしまった。
「ご、ごめんなさいね。こんな時間に」
「あ、す、すぐ着替えますので中で待ってて下さい」
ファビオは慌てて奥の部屋に駆け込んで行った。
「お待たせしました」
数分もしないでファビオは着替えてレナの前に現れた。
「遅くにごめんなさい。私ファビオに直接お礼を言ってなかったのが気になって」
「いえ、そんな気にしないでください」
レナは立ち上がって、ファビオの手を取った。
「ファビオ、本当にありがとう」
レナに手を握られ、見つめられたファビオの目に涙が溢れ出した。
そして、自分の中で何かが変わり目覚めるのを感じた。
「あ、あのレナ様……」
レナがいつまでも手を握り見つめ続けるので、ファビオが動揺し始めた。ファビオの方から手を離そうとするも、レナが離さない。
本当は抱きしめるのが一番早い。レナは本能で気付いていたが、まさかファビオを突然抱きしめるわけにも行かず、握った手から傷付いたファビオの心を癒そうとした。しかし、やはり手を握るだけでは思った程効果が出ない。それどころか、伝わってくるのはファビオのレナに対する恋心ばかりだ。
「レナ様?」
ファビオの声でレナは我に返った。
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてしまって」
レナは思わず手を離してしまった。いや、離そうと思った。気付けばファビオの腕の中にいた。
「ファビオ?」
力強いファビオの腕の中は。とても居心地が良かった。
「もう少し、もう少しだけこうしていて良いですか?」
レナも願ったり叶ったりだった。ファビオの背中に腕を回し、抱き合うかたちになった。
「レナ様?」
ファビオの傷付いた心は、嘘の様に癒された。
レナは、そっとファビオから離れた。
「本当にありがとうファビオ」
そう言ってレナは逃げる様にして、部屋を出た。
そうしなければ、何か一線を越えてしまいそうな自分が怖かった。ハンスと言う人がいなから、何かを期待していた自分に動揺した。
いつまでも高鳴る胸の鼓動を抑えようと庭に出た。
庭の東屋で風に当たっていると、エリザが上着を持って出て来た。
「風邪をひきますよ」
「ありがとう」
エリザがレナの隣に腰を下ろした。
「ファビオの事が好きになったのですか?」
「え……」
レナが言葉に詰まった。
「図星ですね」
「もう、分かってたくせに」
エリザは、この城、いやこのベナエシ中の異変を魔力を使って監視しているのだ。
レナの心の揺れ程度、エリザにしてみればわざわざ気にかける事もなく分かってしまう。
「レナ様の恋愛に口出しをするつもりはなかったのですが」
「じゃぁ言わないでよ」
「ファビオはやめておいたほうが……」
「どうして?」
「それは……」
あのマルグリットの子だから、とは言えない。
「さ、お部屋に戻りましょう。風邪をひいてしまっては帰りの旅が辛くなりますよ」
「ねぇ、どうして? 答えてよエリザ」
この夜、エリザはレナの質問に答える事はなかった。




