蠢く2
「え? 地下牢の御婦人が病気?」
ルイーズの言う地下牢の御婦人とは、コサムドラで捕らえられベナエシで監視されているエミリオ・クレマンの母親だ。
クレマン家は唯一コサムドラの王家と血縁関係にあった。しかし、愚息エミリオの浅知恵が原因で高級役人だったドミニク老人が殺害され、その責任を取らせる形でクレマン家は取り潰しになった。
エミリオの父ドナルドは、クレマン家復興を目論んだが、リエーキのアルセン国王の逆鱗に触れ消されてしまい、残されたエミリオと母親は、国外追放となりベナエシで地下牢生活を送っているのだ。
「私は昔からあの高慢ちきな御婦人が嫌いでね」
ルイーズが面倒くさそうに言った。
「でも、お医者様には見ていただいは方が……。あの方は、エミリオに付いてきただけですし」
レナの提案で、エミリオの計画が動き出してしまった。
「午後に医者が母さんを診に来るらしい。僕は直ぐに行動に移すから、母さんも遅れず僕について来てよ」
息子エミリオの考える計画が上手くいくとは思えなかったが、今はこの息子に頼るしかない。もし、ルイーズ様にお目通り叶えば、昔のよしみだ。何か助けて頂けるかもしれない。何しろクレマン家はコサムドラ国王家と唯一の血縁関係、由緒ある家柄なのだから。
地下牢に入って来た医者を背後から羽交い締めにし、喉元に隠し持っていたフォークを押しあてる息子の後について地下牢を出た。
「何の騒ぎ?」
レナが騒ぎに気付いたのは、エミリオ親子が医者を人質にし、庭に出てきた時だった。
「地下牢にいた者が、医者を人質にしているのです」
兵達がエミリオ親子を取り囲んだ。
「あなた、エミリオね」
レナがエミリオに声をかけた。
「レナ姫様、いけません。城の中へ!」
ハンナが慌ててレナを制したが、手遅れだった。
「レナ姫!!」
エミリオが、レナの名を聞きつけ、近づいて来た。
「エミリオ、私が代わりに人質になるから、お医者様を解放して!」
ハンナが声にならない悲鳴をあげた。
「レナ姫様! いけません!」
ハンナの制止を振り切り、レナはエミリオに歩み寄った。
「ひぃぃ」
解放されは医者が逃げ出すのと同時に、レナはエミリオ腕を掴まれ、人質となっていた。
「そうだ、元々はお前が現れたのがいけないんだ。お前さえ行方不明のままなら、僕が国王になっていたんだ」
エミリオがレナの耳元でささやいた。
「それはどうかしらね」
レナは、エミリオなど微塵も怖くなかった。 魔力を使えば、全ては一瞬で終わる。ただ、タイミングと方法だけだ。
駆けつけたエリザも同じ事を考えていた様だ。
「ルイーズ様がお会いになります。こちらへ」
エリザの嘘だった。兎に角、人目のない所へ行けば、何とでもなる。
が、エリザとレナが思いもしない事態が起きてしまった。もう少し周りに気を配っていれば、防げた事態だった。
それは一瞬の出来事で、レナも何が起こったのか分からなかった。
気付けばエミリオは取り押さえられ、レナはファビオの腕の中にいた。その腕は、ハンスのもとのは違い、男らしくがっしりとした腕だった。
「レナ様、お怪我は?」
ファビオの声で我に返った。
「え……」
「もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうファビオ」
微笑むファビオに胸の高鳴りを気づかれない様、返事をするだけで精一杯だった。
「レナ姫様!」
レナの身体は、駆け寄って来たハンナの手に渡された。
「お怪我は!?」
ハンナがレナの身体を隈なく確認した。
「もぅ、大丈夫だってば」
少し離れた場所では、ファビオが英雄になっていた




