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逃走 ……逃れられない

 孤児から皇女になったレナ。

 城での生活も慣れてきた矢先、母のアミラそして自分が魔人である事を告げられる。

 ショックを受けるレナ。

 この国で魔人は忌み嫌われる存在なのだ。

 アンドレから貰った霊安堂の鍵を首から外し、机の上に置いた。


 持って出る物は、何も無い。


 身一つで行くことにした。


 これ以上、城の中に留まる事は出来ない。


 外は土砂降りの雨だ。


 どこから出られるのか分からないけれど、何とかなるだろう。


 闇雲に歩いた。


 気が付くと、城の外に出ていた。


 どうやって出たのか分からないが、魔力を無意識に使ってしまったのだろうか。


 城に来た日は迎えの馬車で来たので、どう行けばたどり着けるのかも分からなかったが、道に迷って野垂れ死んでもかまわないと思った。


 前も見えない程の雨で、人の気配すらない。


 気が付くと、見覚えのある景色が広がる。


 この道を真っ直ぐ行って、左に曲がると学校。


 学校前の大通りを右に曲がって、坂を上がる途中に……家がある。


 母と十三年間過ごした家だ。


 数ヶ月ぶりに、家の扉に手をかけた。


 戻りたい、母が居た頃に戻りたい。


「ママ……」


 顔に降りかかる雨で気が付かなかったが、レナは泣いていた。


 泣きながら、扉を開けた。


「ただいま!」


 あの頃のように扉を開けた。


「おかえりなさいレナ。学校はどうだった?」


「ママ!」


「どうしたの、何を泣いてるの? ママに話して」


 そうだ、母はここにいたのだ。


 ずっと、レナの帰りをここで待っていたのだ。


 城での事は、いや母の死そのものが夢だったのだ!






 ジャメルは雨の中、レナの後を歩いていた。


 この雨は、レナが降らせている。


 知らない道を闇雲に歩いているのに、かつて住んでいた街にたどり着いた。


 全てレナの魔力だ。


 どれほどの魔力を持っているのだ。


 他に悟られないよう、人払いだけしておいた。


 レナが家の中に入るのを確認して、暫く様子を見る事にした。


 が、直ぐに異変に気が付いた。


 死んだアミラを感じる。


 レナだ。 


 レナが、世界を変えようとしている。


 静観している場合ではなくなった。


 何とかレナの意識の中に入ろうとするが、全く出来ない。


 これは動くしかない。


「何をしてるんだ!」


 飛び込んだ家の中は暗闇で、レナが床に倒れていた。


「おい!」


 抱き上げるが、何の反応も無い。


 凄い熱だ。


 とにかく、レナの魔力をこの家の中だけに留める事には成功した。


 しかし、薄い雲の様な物が家の中をふわふわ漂っており、それがアミラに見える。


「アミラなのか?」


 雲がジャメルに微笑みかける。


 レナの魔力は途方も無い力を持っているようだ。


 熱で意識が無い中で、世界を自分の思うままにしようとし、死人まで蘇らせようとしている。


 熱を下げ意識を戻さなければ。


 ジャメルはレナを抱き上げ、ベッドに運んだ。






 エリザは兄の異変に気が付いたが、城を離れるわけには行かなかった。


 急いでベルの部屋に向かった。


「ベル様!」


「何ですかエリザ。ノックぐらいなさい。はしたない」


 ベルは、ここ数日ですっかり老け込んでしまった。


「申し訳ございません。火急お知らせすべき事態が」


「アンドレ様には」


「今は申し上げると時ではないかと」


 残念だが、今アンドレにできる事は何もない。


「何です」


「レナ様が城を出られました」


「なんですって!」


「兄が後を追いましたのでそれは良いのですが、レナ様の魔力が強すぎて兄が手こずっているようです」


「エリザ、お前が助けてやれないのかい」


 ベルが外出の用意を始めた。


「私は城から離れるべきではないかと」


「そうですね。レナ様とジャメルはどこなの」


「街の家の方に」


「そうですか、直ぐに向かいます。馬車を用意させて、内密に」


「はい」


 エリザが出て行った後、ベルは色々な可能性を考えて荷物を用意した。


 その大きな荷物をエリザが、馬車に乗せた。


 雨は相変わらず、人を阻むかのような降り様である。


「では、行ってきますね」


 馬車は、音も無く走り出した。


 エリザは急ぎ兄の部屋に戻った。


 街の家の様子を探ってみるが、状況は良くも悪くもなっていないようだ。


 ベル様の到着が、間に合えばいいのだけれど。


「ベル様……」


 ベルはジャメル・エリザ兄妹にとって親のような人である。


 目を閉じると、故郷の景色が今でも手に取るように見える。






 二人の故郷は、魔人の村だった。


 山奥の森の中に魔人の先人達が作った村で、魔力を使う事なく静かに暮らしていた。


「過去など……」


 それに、あの村はもう跡形も無い。


 行き場をなくし、彷徨っているところを捉えられ、ベルの前に連れて来られた。


「魔人だと知れれば、人間に襲われ殺される」


 そう教えられてきた二人は、魔力で人を支配しようとしたが出来なかった。


「この城の中で魔力は使えないんだよ」


 現れたのは、小さなアンドレだった。






 ベルの気配を感じる。


 エリザが動いてくれたのか。


「アミラ、ベル様の前には現れるな」


 最初は雲のような存在だったが、時間を追うごとに姿がはっきりしている。


「アミラ、君は死んだんだ」


 レナの作り出したアミラが、ジャメルに迫ってくる。


 ベルが扉を開け飛び込んできた。


 ベルと一緒吹き込んだ風が、アミラを吹き飛ばした。


 ジャメルは、思わず吹き飛ばされたアミラに手を伸ばした。


「レナ様! ジャメル、何があったのです!」


 ベルは、ジャメルを部屋から追い出し、レナに薬を飲ませ着替えさせた。


 薬の効果と共に、レナが築きかけていた世界が薄れていく。


 静かに寝息を立て始めたレナを確認して、ベルが部屋から出てきた。


「さぁ、何があったのか話して頂戴」


 子供の頃も、騒ぎを起こす度にこうして前に座って問い詰められたものだ。


 思わず笑ってしまったジャメルに、ベルは顔をしかめた。






 レナの熱が下がったのを確認して、ベルは城へ帰っていた。


 ベルは、レナの傍に居ると言い張ったが、今はベルが居ることで話がややこしくなるのは間違いなかった。


 熱が下がり目覚めたレナは、一言も口を利かなかった。


 ジャメルも、あえて何も聞かなかった。


 レナは家中の窓を開け放し、数ヶ月で積もった家中のホコリを掃除し始めた。






「レナ! 帰ってるの?」


 やって来たのはエヴァだった。


 卒業の日に別れた時、二度と会えないと覚悟をした。


 本当なら嬉しい再会だったが、今は複雑だった。


「う、うん……」


「いつまれ居られるの?」


 エヴァにはレナの置かれた状況など、知る由もない。


「暫く居ようと思ってる」


「今から訓練校なの、帰りにまた寄るわね」


「ケーキでも焼いておくわ」


「え? レナがケーキ?」


「上手に焼けるようになったのよ」


 城で生活していた日々を思い出す。


「じゃ、私美味しいお茶の葉を買ってくるわ」






 エヴァが無邪気に去った後、隠れていたジャメルが材料の買い物を申し出た。


「あなたの様な男がケーキの材料を買いに行くなんて、怪しいったらないでしょ」


 ここへ来て初めて、レナとジャメルが言葉を交わした。


「大丈夫よ、これ以上はどこにも逃げない。私の居場所はここだもの」


 レナがどのように事実を受け入れたのか分からなかったが、少なくとも今現在はレナの心が安定しているようだ。


 一先ずはレナの思うようにさせようとジャメルは決めた。

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