表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/271

密告

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●ハンス(ギード))…魔人・ムートル国第二王子。ブルーノの弟。

●カーラ…レナ付きのメイド。レナと同じ年。

●ベル…アンドレの乳母。レナの元付き人。その前はレナの祖母ルイーズの付き人だった。

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国国王。

●ジャメル…サコムドラ国高級役人。魔人。

●アン…警備隊女性幹部候補生。レナの同僚。

●レオン…警備隊幹部候補生。レナの幼馴染で同僚。


 不安や問題が山の様にあるが、周りの人々の支えでなんとかなっているレナ。

 恋人ハンスから誕生日プレゼントも届き、何とか笑顔になれた。

 しかし、信用していた友からの裏切りが待っていた。

「おはようアン!」

 レナが、警備隊間部室に入って来た。

 いつもと同じ朝だ。

 なのに、アンはレナの顔を見る事が出来なかった。

「おはよー」

 夜勤明けのレオンが仮眠室から出て来た。

「おはよう、レナ、レオン」

 とにかく、今日さえ乗り切れば、もうレナに会う事もないだろう。

 そうなれば……。

 レナには悪いけど、レナが今の立場を無くすとは思えない。

 きっと、そんな大事にはならない、だって国王の娘だもの、

 アンは、懸命に自分に言い聞かせた。

 今日、勤務が終わったら決行する。

 アンの決意を固めた。



 レナがこの城へやってきて、3年が過ぎていた。

「もう、3になるのね。最初はどうなる事かと思ったけど……」

 レナの胸元にはダイヤモンドのペンダントが輝いている。

 ハンスが、レナに贈ったものだ。

 ダイヤモンドの輝きに込められたハンスの思いが、レナに自信を与えてくれている。

「いえ、私は未だにどうなる事かと思ってますよ!」

 のんびりと朝食中のレナに、ベルが時計を指差した。

「わっ! 遅れる!!」

 バタバタと大きな足音をたて、レナは警備隊での最後の公務に向かった。

「16歳にもなったんだから、もう少しお淑やかにできないものかね……」

 ベルから、大きなため息が漏れた。



「では、レナ。挨拶を」

 隊長ディーンが、朝礼でレナを前に呼んだ。

「はい」

 レナが、前に歩み出た。

「私の警備隊での公務は、本日までになりました。短い間でしたが、警備隊の仕事を知る良い経験をさせて頂き、ありがとうございました」

 レナが敬礼をすると、皆が同じく敬礼をし、朝礼は終わった。



「レナ! そのペンダント!」

 最初に気が付いたのは、アンだった。

「うん」

 幸せそうに微笑むレナを見て、アンは確信した。

「もしかして、彼?」

「うん」

 微笑むレナの笑顔が眩しく、直視できないのはアンだけではなかった。

 朝礼が終わり、夜勤明けで帰ろうとしていたレオンが2人の会話を聞いてしまった。

 レオンにとって、レナは初恋の相手だった。

 レナが王女だと知った今、手がとどく相手ではないと分かってはいた。

 しかし、そのレナに愛されている男が居る。

 それは、レオンの心をかき乱した。

 何故、僕じゃないんだろう。

「レオン?」

 レナが、レオンの様子に気付いた。

 変な顔でもしてしまったのだろうか。

 レオンは慌てた。

「じゃ、おつかれ……」

 明日は休みだ。

 飲めない酒でも飲んで、寝てしまおう。



「今日、仕事が終わったら、プルスのカフェに行かない?」

 突然のレナからの申し出に、アンは動揺した。

 今日、決行しようと思っていたのだが……。

「あ、ごめんなさい、何か用事があるなら、今日じゃなくても良いの。次の公務が始まるまで、少し時間が出来たから。アンの都合の良い日を教えて」

 レナはアンを、友達と思ってくれている。

 返事を待つレナの笑顔に、アンの決意が揺らいだ。

「大丈夫。今日行こう!」

 王女様とカフェに行くなんて、恐らく今後のアンの人生で起きる事も無いであろう、最大の出来事だ。

 決行日が、明日になったところで、大差無い。

 もしかしたら、レナに相談できるかもしれない。

 そうなれば、レナを裏切るような事をしなくて済む。

 ただ、レオンと同じ場所に立ちたいだけなんだから。



「お出かけになる前に、送り返す荷物に付ける書面を」

 カーラと街へ出掛ける準備をしていると、ジャメルが王室専用の便箋と封筒を持ってきた。

 あれ以来、ジャメルの様子はいつも通りになった。

「これが、書いていただく内容です」

 差し出された紙には、几帳面なジャメルの字が並んでいた。

 アンは一度家に帰って、着替えてからカフェに向かう、と言っていた。

 下書きのある手紙を書くくらいの時間は十分にある。

「分かりました」

 レナは機嫌よく、ジャメルに笑顔を向けた。

「……!」

 気を抜くと、レナの中にアミラを見つけてしまう。

 不意に視界に飛び込んでくるレナの笑顔は、本当にアミラにそっくりだった。

「では、頼みましたぞ」

 レナに悟られぬうちに部屋から離れた。

 あの姫君は、時々人の心にあの柔らかい小さな足で踏み込んでくるのだ。



 城がのある山手を下ると、所謂城下町が広がっている。

 この城下町プルノには、城で働く人々の住居が建ち並んでいる。

 その隣町が、レナの生まれ育ったプルスだ。

 アンはプルノ出身で、毎日ここから城に通っている。

「おかえり、アン。えらく今日は早かったんだね」

 夫亡き後、女手一つで育てたアンは立派に成長してくれた。

 母自慢の娘である。

 しかし、娘の方は少々母を重く感じていた。

 王女レナと同僚になった娘は、今直ぐにでも幹部に昇格できると信じ切ってきた。

「今から友達とプルスにあるカフェへ行くの」

 友達、レナの事をそう言ってカモフラージュするのが、この母娘暗黙の了解であった。

「そうかい!」

 母は、この友達の話をすると、とても喜んだ。

 そして、明日にでもアンが国内初女性警備隊幹部になるかのように、話すのだ。

「私はまだ16歳よ。そんな直ぐに幹部にはなれないわよ」

「そうだね、やっぱり10年はかかるだろうね」

「そりゃぁ、そうよ」

 顔では笑っていたが、その10年の間に、どれだけの差がレオンと開くのか……。

 そんな事、母には話せなかった。



 レナとカーラが約束の時間にカフェの前に到着すると、アンが先にきていた。

「アン、ごめんなさい。待たせたかしら?」

「大丈夫よ、私が早く来ただけだから」

 そう返事をしたものの、アンの目線はレナの後ろに居るカーラに釘付けになってしまった。

 どうして、この子がいるの?

 レナと二人っきりじゃ、なかったの?

 確か、レナ付のメイドのカーラと言ったかしら。

 王女様だもの、メイドくらい連れて来るわよね。

 アンは、カーラに微笑みかけた。

「よろしくね。お友達になれると嬉しいわ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 メイドの制服がよく似合いそうな、女の子らしい可愛らしい子。

 アンの心に、カーラに対する嫉妬心が芽生え始めた。



「行って来ます」

 母の顔を直視できないまま、家を出た。

 お母さん、ごめんなさい。

 私は卑怯な事をします。


「みんなでお揃いよ」

 とレナから渡された良い香りのクリームは、家に置いてきた。

 昨夜は楽しかった。

 楽しかったけど、孤独だった。

 皆、アンの持っていないものを持っていた。

 レナは、国王の娘だ。

 このまま行けば、一国の主だ。

 エヴァは、同じ年なのに街で有名なカフェの経営者。

 カーラは、とても女の子らしい子だ。

 そりゃ、レオンだって男勝りな私より、あんな女の子らしい子を選ぶわよね。

 私が男だったら、絶対カーラを選ぶもの。

 でも、私には何も無い。

 これまで色んな事を犠牲にして、ここまで来たのに、何も無い。

 アンは、ジャメルの姿を探した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ