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確信 突き付けられる真実

 孤児から皇女になったレナ。

 学校を無事卒業し、城での皇女教育が始まった。

 しかし、まだ国王アンドレを「父」と呼ぶ事が出来ないレナ。

 その二人の間を取り持ったのは、亡き母アミラの思いだった。

 レナが学校を卒業して二ヶ月が経っていた。


 ジャメルは、レナの力がじわじわと強さを増している事に気付いていた。


 レナが庭を歩くと、枯れかけた草花が息を吹き返し、曇天も晴れ渡る。


 メイド達や他の者はまだ気付いていない様子だが、それも恐らく時間の問題だ。


 レナ自身に自覚が無ければ、騒ぎを起こす事も考えられる。


「自覚をもてば、何とかなるのか」


 アンドレは、レナにはできるだけ穏やかに過ごして欲しいと思っている。


 しかし、そろそろレナの存在を国の内外に知らせる必要がある。


「そろそろ、時期が来たものと」


 ジャメルの進言により、アンドレは決意をした。


 実のところ、レナ自身も異変を感じていた。


「ねぇ、ベル。あの花、さっきは枯れていたわよねぇ」


「いえ、咲き誇っておりましたよ」


 ベルは、レナの目を見て話すことが出来なかった。


 恐らくレナが本気を出せば、考えている事など簡単に読まれてしまう。


 しかし、数ヶ月前に母を亡くし、住み慣れた場所を離れ、全く環境の違う城での生活に慣れようとしている十三歳に、こんな酷な事を誰が話すというのか。


「やはり、私から話しましょうか」


 ジャメルの申し出を、アンドレは断った。


 アミラを妻にした時から、こうなる覚悟はしていた。


 まさか、その大事な時にアミラが居ないとは思いもしなかったが。


 人とは、事が目の前に迫ると、こんなにも怖気付くものなのか。


「もし、レナが真実を知っても、これまでのように、穏やかに過ごしてくれるだろうか」


「わからないが、そうなるように努めよう」


 ベルは死刑宣告を受けたかのような顔をし、自室に篭もり寝込んでしまった。


「レナ、霊安堂に行かないか」


 アンドレからの誘いにレナは大喜びで、庭を踊るように通り霊安堂に向かった。


 母の喪に服すために着ている漆黒のドレスが、レナの若々しさと美しさを際立たせていた。


 レナには母に報告したい事が、山のようにあった。


 カーテンが上手に縫えた事、あの歴史本の15ページまでは覚えられた事、母が選んだ家具達を大切に使っている事、国王を父と呼べるようになった事、ベルが寝込んでいる事。


 アミラの眠る『百合の間』に着いた。


 レナが鍵を開ける。


 カチン。


 静かに扉を開けると、中から母の匂いがした。


 少なくともレナには、そう思えた。


「ママ……」


 棺に近づき、アンドレとレナはひざまづいた。


「アミラ、とうとう時が来たようだよ」


 アンドレは愛おしそうに棺に触れる。


「レナ、大事な話があるんだ」


 アンドレの表情は固かった。


 レナは空気が薄くなっていくような気がした。






 はるか昔、この国には魔人が住んでいた。


 しかし、その魔力で人々を翻弄し国内を混乱させたとして、国から追い出された。


 それを根に持った魔人が襲撃して来たが、国王と民の力で打ち勝った、と学校で教わった。


 この国では『魔人ごっこ』が小さな子供達の定番の遊びである。


 『魔人ごっこ』と言っても、追いかけっこの追いかける役が魔人と名付けられただけの物だったが、魔人がこの国で忌み嫌われている事の象徴でもある。


 噂では魔人は未だに国の中に居るが、魔力を使う事なく普通の民として紛れ込んでいるという。


 レナは、今までそれらしき人物に会った事が無かった。


 いや、実は気が付かないふりをしていたのかも知れない。


「レナ、アミラは魔人だったんだ」


 言葉が出なかった。


 そして、思い出すのは、レナがエヴァやレオンと『魔人ごっこ』をしていた時の、母の悲しい顔だった。


 手が震え、頭の中は、真っ白になった。


「えっと、あの……」


 何を言って良いか分からない。


 アンドレには、レナの混乱が手に取るように分かった。


 しかし、ここで話を止めるわけにはいかない。


 ここからが重要なのだ。


「そしてレナ、恐らくレナも魔人だ。いや、間違いなく魔人だ」


 レナは、母の棺の前に崩れ落ちた。


「ママ、嘘よね……」


「嘘じゃない。レナお前には魔力がある」


「そんなもの、ありません!」


 アンドレを咎めるのように、レナが顔を上げる。


 泣くまいとするが、止める事のできない涙でレナの顔は濡れていた。


 恐怖と混乱で、レナの身体が震えていた。


「たとえレナに魔力があったとしても、レナが私の娘である事には変わりないんだよ」


 震えるレナを抱きしめようとしたが、レナに拒否された。


 霊安堂の外では、レナの様子感じている人物が二人神妙な面持ちで立っていた。


「やはり姫君の力は凄い。私一人では難しい、頼めるかエリザ」


「もちろんよ兄さん」


 霊安堂に意識を集中するジャメルとエリザ。


 エリザは、レナが初めてアンドレと朝食を食べた時、椅子を引いて案内したメイドである。


 『百合の間』では、意識を失ったレナをアンドレが抱きかかえていた。


「ジャメル……」


 レナを抱きかかえたアンドレが霊安堂から出てきた。


 ジャメルがレナを受け取る。


「あぁ、エリザも。申し訳ないね」


「いえ、これも仕事です」


 エリザはレナの首から鍵のチェーンを取り、アンドレに渡した。


「ありがとう、施錠してくるよ。レナを部屋に頼めるか」


「もちろん」


 ジャメルは、レナを抱え歩き出し、その後をエリザが続いた。






 目を覚ますと、自分の部屋のベッドに横たわっていた。


 確かアンドレに誘われて、霊安堂の母に会いに行ったはずだったのに。


「お目覚めですか」


 ジャメルの声だった。


 そうよ、ベルは今寝込んでるんだったわ。


「具合はどうだい?」


 アンドレだ。


 何故だろう、今はアンドレに会いたくない。


「お茶を淹れてまいりました」


 エリザがお茶を出してくれる。


 状況が理解できないまま、大人3人に見守られてお茶を飲む。


 お茶が身体に染み渡るのと同時に、霊安堂での出来事がよみがえって来る。


 思わずアンドレの顔を見る。


「思い出しましたか、姫君」


「ゆめ……じゃないのね」


 誰も何も言わなかった。


「一人にして貰って良いですか」


「レナ、一人で抱える必要は無いんだよ」


 アンドレに抱きしめられて、身体を硬くするレナ。


「はい、ありがとうございます」


 三人は部屋を出て行った。






 レナの部屋を出たアンドレ、ジャメル、エリザはジャメルの部屋へと向かった。


 ジャメルの部屋は、本で壁一面が覆われている。


 エリザがレナの行動に気付いた。


「兄さん、レナ様が」


「分かってる」


 ジャメルにも、レナの様子が手に取るように分かっていた。


「なんだ、レナがどうした」


 二人とは違い、何も分からないアンドレは、苛立ちを隠せないでいた。


「城を出て行くようです」


「ダメだ、城から出してはいけない!」


「おまかせを。レナ様が向かう場所はあそこだけです」


 エリザが静かに言った。


「エリザ、城を任せた」


 落ち着いた足取りでジャメルは部屋を出て行った。


 ジャメルの背中を見送ったアンドレが、壁一面の本に目をやった。


「凄い量だな」


「本を読む以外、する事が無いのでしょう」


 エリザが、苦笑した。


「お前達兄妹には、利用しているようで申し訳ないと思っている」


「いえ、私達のような兄妹に、居場所を与えていただいて感謝しております」


 エリザの本心だった。


「そんな言い方しないでくれ」


「お茶を淹れましょうか」


「いや、今日はもういいよ。ありがとう」


 アンドレが出て行った部屋で、エリザは兄ジャメルの部屋で兄の帰りを待つことにした。


 あの頃のように……。

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