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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
守りの15歳
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カリナの死

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●ハンス(ギード))…魔人・ムートル国第二王子。ブルーノの弟。

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●カーラ…レナ付きのメイド。レナと同じ年。

●アルセン…隣国リエーキ国国王。魔人。

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国国王。

●ドナルド・クレマン…元コサムドラ高級役人。

●エミリオ・クレマン…ドナルドの一人息子。

●ジャメル…サコムドラ国高級役人。魔人。


 ドナルド殺害の犯人は、ドナルド・クレマンの息子エミリオだった。

 クレマン家の処遇に悩むレナの元に、大おばカリナの死の一報がハンスより届いた。


「取り敢えず報告だけ。そのうち、アルセルから連絡が行くはずだから、それまではレナは何もしないで」

 ハンスは、それだけを伝えに城の近くまで来ていた。

「ハンス、会いたいわ」

「ごめん、直ぐに戻らないと」

 それだけで、ハンスは居なくなってしまった。

 ハンスは、これでレナの命を狙う者が居なくなった、それだけでも伝えたかったのだ。

 しかし、レナは、近くまで来ているのに姿も見せず去ってしまったハンスを恨めしくさえ思った。

 私達はエリックとカーラのように語り会うことさえ出来ないのだろうか。

 その夜、レナは一睡もできなかった。



 リエーキ国のアルセン国王から、レナに招待状が届いたのはその数日後だった。

「アルセンは、一体何を考えているのだ」

 ドナルド・クレマンの件があったばかりだと言うのに。

 アルセンの非常識さに、アンドレは苦笑いした。

 ジャメルの提案で、公務に忙しく直ぐに伺う事はできない、とレナ自身が手紙を書きアルセンに送った。



「どうしてレナ姫は、ここへ来てくれぬのだ!」

 アルセンは、レナからの手紙を手に、ハンスに詰め寄った。

「手紙には何と」

 子供の様に拗ねたアルセンは、ハンスに手紙を投げつけた。

「御公務では仕方がないでは、ありませんか」

「もういい、ベナエシのルイーズ様に手紙を書く」

 この男、魔人皇族の末裔として、我が儘の限りを許され育った手の付けようのない馬鹿だ。

 ハンスは、すっかり呆れかえっていた。

 何をどう考えれば、元、とは言え自国の高級役人を正しく抹殺した者のところへ、のこのことやって来ると思えるのか。

 カリナ亡き今、こんな男見捨ててしまおうかとも思う。

 しかし、何をしでかすかわからない。

 だとすれば、そばに見張る者が居た方が良いのかもしれない。

「ルイーズ様に、なんと手紙を出されるおつもりです」

「カリナ様のご遺体を引き取ってもらおうかと思って」

「何故です。私とカリナ様はベナエシを追われた身です」

 本当に、どこまで馬鹿なんだ。

「だって、ここに置いておかれても邪魔で困るし」

 一体、どう言う教育を受ければ、こんな馬鹿が出来上がるのか。

 ハンスは、ベナエシで過ごした幼い日々を思い出していた。

 カリナは、時間の許す限りハンスをそばに置き、魔力の使い方と向上に尽力してくれた。

 様々な学問も、可能な限り学ばせてくれた。

 その目的は、カリナの私利私欲だけではなかった。

「後に続く者に教育を与える事は、一族の繁栄に繋がるんだ。だから、一生懸命学ぶんだよ」

 カリナの口癖だった。

 ハンスにとっては、命を救い、教育を与えてくれた恩人だ。

 しかし、レナにとって、カリナは命を狙う敵。

 カリナの死に対する思いが違っても、当然の事だとは分かっているが、弔いの言葉がレナから聞けなかった事が、ハンスの気持ちを揺らしていた。

「ギード、どうすればレナ姫は私の妻になってくれるだろうか」

「は?」

 ハンスは、思わずアルセンの顔を穴が開きそうなほど眺めた。

「あれほど聡明で気が強い姫ならば、私の妻にしても、亡くなった私の母のように立派にこの国を治めてくれるよ」

「はぁ……。しかし、レナ様はコサムドラ国の王女様で後継者ですので他国へ嫁ぐと言うような事は……」

「そんな事は簡単だよ。コサムドラをリエーキにしてしまえば良いんだ。そんな事も分からないのか? ギードは愚か者だな」

 愚か者はお前だ。

 今にも口から出てきそうになるのを、ハンスは必死に堪えた。

 ここを離れよう。

 ハンスは決意した。



 エリザが、リエーキ国アルセンからの手紙を持ってきた。

「一体何でございましょうね。ベナエシはリエーキ国とは国交もございませんのに」

 エリザには、この手紙を書いた者が魔力を持っている事に気付いた。

 もしやセルセンは魔人なのだろうか。

 しかし、この手紙をアルセン本人が書いたとは限らない。

 わざわざ、分かるように手紙に気配を忍ばせているのは、何かの罠かもしれない。

 固唾を呑んで見守った。

「嫌いで仇だと思っていても、死んだと聞くと哀れさが湧いてくるもんなんだね」

「どなたかが亡くなられたのですか?」

 ルイーズが、息を大きく吸い込んだ。

「カリナだよ」



 アンドレ達は、カリナの死を、ルイーズからの手紙で知る事となった。

「母は、カリナ様のご遺体をベナエシ国で埋葬するつもりのようだ」

「あれほど憎んでおられたのに……」

 ベルが遠い昔を思い出すように言った。

「本来であれば私がベナエシまで向かうべきなのだが、今国を離れられる状態ではない。レナ、私の名代としてベナエシへ行ってくれないか」

 結局、母の兄夫婦には一度も会う事が無かった。

 せめて葬儀くらいは参列したかったが、クレマン家の処遇も決まらぬまま遠方のベナエシへ行き、長期間国を留守にする訳にはいかない。

「分かりました」

「良かった、母ルイーズもそれを望んでいるだ」

「私も同行しましょう」

 ベルが申し出たが、レナは断った。

「ベル、また腰が痛くなってしまうわよ。カーラ一人で大丈夫。お土産、期待してて頂戴」

「分かりました。カーラにも喪服を持っていくように言いましょう」

 ベルが、出発の準備を始めた。



 警備隊に守られ、レナとカーラを乗せた馬車が急ぎベナシエへ向かった。

 あのカリナ様が亡くなった。

 本当だろうか……。

 さぁ、埋葬と言う時に突然息を吹き返し、自分を襲ってくるのではないだろうか。

 レナがそう思うほど、カリナのレナに対する執着は強かった。

「こんな長旅、私初めてです!」

 カーラは用向きを忘れ、ついはしゃいでしまった。

「あ、申し訳ありません」

 我に返ったカーラを見て、レナが大笑いをした。

「仕方ないわよ。カーラから見れば、見ず知らずのおばあさんの葬儀だもの。今は少し急いでるので、色々立ち寄れないけど、帰りはゆっくりと帰りましょうね」



 宿に着いたのは、深夜だった。

 始めての長旅で、カーラはベッドに入ると直ぐに軽い寝息を立て始めた。

「ハンス、居るんでしょ?」

 途中から、ハンスの気配が着いて来ている事に気付いていた。

「レナ、外に出られる?」



「ごめん、呼び出して」

 レナは、警備隊の目を盗んで宿を抜け出した。

 宿の近くにある酒場には、多くの人が集い楽しい酒を飲んでいた。

 静かに座る二人の姿は、酒場で愛を囁く若者に見えていた。

「大丈夫よ」

「良かった」

「私ね、大おば様が亡くなった事が信じられなかったの。でも、こうして葬儀に向かっていると思うと、凄く寂しいの。命を狙われたって言うのにね。何だか変な気分なの」

 ハンスは、レナがカリナの死を寂しいと言った事が、嬉しかった。

「そっか。そりゃ、僕達を繋ぐ唯一の人だったんだし」

「そうか、そうよね。もう、血を継ぐ者は、私達二人だけになってしまったですものね。私、大おば様の事、凄く好きだったのよ」

「え? 血を継ぐ者?」

 ハンスは、聞きなれない言葉に困惑した。

「ああ! ごめんなさい。最初からきちんと話すわ。今日は、まだまだ時間があるもの」


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